提案
「あっ」
しまった。
ケンカをしに来た訳じゃねんだ。
反射的に体が動いちまったが……
後頭部を殴りつけたワルを見やると、虚ろな表情を浮かべ、ヨダレを垂らしている。
(意識飛んでんのか?)
他の3人がいきり立って立ち上がる。
「んだてめェッ!」
「ちげーんだ、ちょっと話聞いてくれっ」
「るせぇ、やっちめぇ!」
野バラが叫ぶと同時に、俺も声を張る。
「俺はただ、漫才がやりてーだけなんだ!」
拳を振りかぶっていた2人のワルが、空中で固まる。
「……は?」
「漫才だよ、漫才! ボケとツッコミに分かれて面白い話する、アレだよ」
「んなこたァ分かってるよ。 じゃあ何だ、さっき、何でやねん! っつったの、アレはツッコミだったって訳か?」
野バラがそう言うと、俺は少し悩んだ後、頷いた。
「……そう、かも」
「誰もボケてねぇだろ! 天然ボケか、てめェ!」
再び、ワルの拳が俺に迫る。
すると、またしても動きが止まった。
「まあ、まてよ」
言ったのは、野バラ。
ワルの肩に手を置いて、何かを耳打ちしている。
「……ゴニョゴニョ」
「……プッ。 それ、いっすね」
「何コソコソやってんだよ?」
俺が思わず聞くと、野バラは急に態度を変えてこう言った。
「……漫才、面白ーじゃねぇか。 それ、いつどこでやんだ? ネタとか考えてんのか?」
(何だよ、コイツ……)
何か企んでんのか?
だが、ケンカで無理やり部を奪うのは望む所じゃねぇ。
古川の奴に言われて、俺の目は醒めたんだ。
俺が卒業式に漫才をやる旨を伝える。
「まだネタとか何も考えてねーけど…… 協力してくれんなら助かるわ」
「ネタならここの漫画研究会の元部長が考えてくれんだろ。 後で呼びつけとくわ。 それと…… 相方もこっちで用意していいか?」
思わぬ提案だった。