余韻
(全然わっかんねぇし……)
俺は放課後、教室に残って小田の追試を受けていた。
赤点はたった一人で、クラスには頭を抱える俺だけが取り残されていた。
すると、ガラ、と扉が引かれ、小田の奴が教室に入ってきた。
「進んでないな。 諦めるか?」
「……」
考えたって、分からねーもんは分からねー。
元々頭空っぽなのに、粘るだけ無駄だ。
俺は小田に用紙を渡した。
「……チッ」
「これでまた赤点なら追試の追試だな」
「……一人の生徒に構って、お前、忙しいんじゃねーのかよ」
背もたれに背を預けて、俺は手を頭に組んだ。
はぁ~、せっかく渋谷まで出向いて漫才までやったってのに、踏んだり蹴ったりだ。
実はあの後、古川のやつは病院に搬送されて、俺はショーをぶち壊したっつーことで、トマト館を出禁になった。
(でも、ちょっとだけ楽しかったかもな……)
この感想は、自分でも意外だ。
あの時、俺はただツッコミを入れただけだったが、確かに笑いを取った。
何か、認められたみたいな、そんな感じか。
あの手応えは、ケンカじゃぜってー得られねぇモンだった。
もし、もう一度ステージに立てるんなら、俺は立ってみてぇ。
「でも、やらかしたしなぁ~……」
「……初めてにしては、良くやったよ」
「……な、何がだよ」
小田に俺の独り言を聞かれ、思わず小っ恥ずかしくなる。
小田は立ち上がると、採点の終わった用紙を渡してきた。
「25点。 惜しかったな」
「……クソが」
俺が用紙を受け取ろうとすると、空振り。
用紙が宙に浮いた。
「あ?」
「あと5点欲しいか?」
「……またかよ。 今度はどーすりゃいんだ?」
「お笑いを続けろ」
小田が口にした、予想外の言葉。
「お前にはツッコミの才能がある。 正直、このまま埋もれさせるには惜しい」
小田が適当なことほざいてやがる。
俺は、ハッ、と自虐的に笑った。
「俺の殺人ツッコミのどこが埋もれさせるには惜しいんだよ」
「何もツッコミは後頭部を叩くだけじゃ無い」
小田は唐突に、何でやねん、とその場でツッコミを入れた。
だが、俺のやったのとは違う。
手の甲を、外から出なく、内側からそっと繰り出す。
「こういうツッコミなら、まかり違っても病院送りにはしないだろう」
目から鱗とはこのことか。
俺は、思わず倚子から立ち上がった。
「そ、それか!」
「……ふっ、試してみたくなったか?」
「……ばっ、バカヤロ、んなわけねーだろ!」
小田はまぁ、検討してみてくれ、と言い残し、教室から出て行った。