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お笑いヤンキー  作者: oga
俺は向日葵
4/25

漫才

 PM7:59

 

 いよいよ、お笑いショーが始まる。

俺と古川は舞台袖に身を隠し、8時になったと同時にステージ中央のマイクに躍り出る予定だ。


(その予定、なんだけどよ……)


 さっきから冷や汗が止まらねぇ。

つか、喉もカラッカラだし、俺って人前でこんな緊張するタイプだったのかよ……

笑いって、どうやってとりゃあいいんだ?

古川にいきなり無茶ぶりされたら、どう反応すりゃいい?

考えれば考えるほど、考えがまとまらねぇ。

そんな中で、古川が俺に何か言ってる。

小田のMCで俺たちの名前が紹介され、いよいよ舞台から飛び出さなきゃならない。


「おい、呼ばれたぞ」


「……わ、わりぃ、古川。 やっぱ俺……」


 すまねぇ!

俺は今まで虚勢を張って生きてきたが、実はめちゃくちゃ小心者だ。

隣に知らねー奴が立っただけでションベンだって引っ込んじまうんだ。

すると古川は、もっかい言うぞ、と俺に向き直った。


「お前のやることは俺のボケに対して、「何でやねん!」って全力でツッコミ入れるだけだ。 お笑いの基本はボケとツッコミだ。 即席漫才じゃシュールネタみたいな難しいことはできねーし、ツッコミで笑いがとれんだからお前的にもオイシイだろ」


(オイシイとか、それどころじゃねぇし……)


 だが、もはや頼れるのはコイツだけだ。

ワラニモスガル気持ちってのはこのことだろう。

俺は、震える声で古川に言った。


「……つっこむだけ、だな」


「ああ、その代わり、中途半端なツッコミは入れんなよ」


 8時を少し回り、客がザワつき始めたと同時に、古川を先頭に俺たちは舞台袖から飛び出した。


「はいどーもどーも」


 古川が漫才の定番の挨拶をする。

頭が真っ白だ。

回りがまるでスローモーションみたく見える。

客はしっかり入ってる。

満員じゃねーけど、2列くらいまでは埋まってる。


「こんな真っ昼間から漫才見に来て下さって、ありがとうございますね」


 ……真っ昼間?

いや、夜だろ。

……まて、これ今、ボケたのか?


「……なっ、何でやねん!」


 反射的に体が動いた。

体を横に開いて、思いっきし古川の後頭部を叩く。

スパーン、という乾いた音が会場に響き渡った。

心臓がバクバク言ってる。

今のでウケたのかどうかすら分からない。

無我夢中だ。

古川を見やる。

素早くコク、と頷いた。

よ、よし、もう一発だ。

古川が次のセリフを口にする。


「今日の天気予報は、雪、らしいですね。 Tシャツ一枚で来れば良かったかなぁ~」


「何で、やねんっ!」


 ズバンッ、という景気のいい音が鳴り響く。

さっきよりも上手く入ったか。

すると、今度はどっ、という別な音が鳴った。

笑い、が起きた音だ。

体が熱くなる。


(……)


 熱いモノが胸から喉元にこみ上げてくる。

強烈な充実感。

こんな強く感動を覚えたのは、生まれて初めてだ。


「みなさん、寒いと風邪引きますからね。 僕みたいに、クラーつけてパンツ一枚で対策して過ごして下さいね」


「何でやねんっ」


 パアンッ、と何かが破裂するような音が鳴り響く。

今のは最高のツッコミだ!

それと同時に古川がぶっ倒れ、舞台の幕が引いた。


 

 


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