住まい
「すまない、拾ってくれないか?」
「あれ、お前……」
現れたのは、どこかで見た面の男。
見てくれはメガネをかけたスーツ姿。
学校で世界史を教えているセンコーの小田だ。
「自分で拾えよ。 つか、お前演劇部の顧問だろ。 こんな時間にここにいるのおかしいだろ」
ブツクサ言いながら通り過ぎようとすると、小田は地球儀を拾い上げ、こんな言葉を口にした。
「演劇部は部長の小島に任せてきた。 だから俺は本業の方に集中できる」
ピタリ、と俺の進む足が止まる。
……くそ、コイツの事なんてどうでもいいのに。
「……本業って、何だよ」
「お笑い、さ」
思わず振り向いて小田の顔を見やる。
こんな、真面目の上にクソが付きそうな男が、お笑い?
正直、コイツがどんなネタをやるのか1ミリだけ興味が湧いたが、それを聞いたら相手の思う壺だ。
「……そ、そっかぁ。 ま、頑張れよ」
立ち去ろうとする背に向かって、小田が言った。
「待て! お前、部活は何もしてなかったな。 放課後は暇なハズだ」
「んだよ、るせえぞ!」
「もし俺に協力するなら、追試を免除してやってもいい。 お前、期末赤点だったろ」
……げっ。
そういや、そうだった。
俺の成績はオール「2」で、中には「1」もチラホラある。
今更どってことねーし、追試なんてばっくれちまえばいいけど、それをやるとまた家に連絡が行く。
つか、小田の野郎は何を協力させる気だ?
俺は頭をかきながら、答えた。
「ああ、そーだったな。 ……マジで免除してくれんなら手伝ってやってもいいけどよ…… 何すりゃいんだよ」
「こちらも背に腹は代えられない。 この先に仲間がいるから、ついてきてくれ。 そこで説明する」
土手を下って川原沿いをしばらく進むと、ホームレスが住んでそうな、木の木の間にブルーシートを通した簡易的な居住スペースにやって来た。
「あっ、帰ってきた」
「うおっ」
いきなり現れたのは、星の形のかぶりものをはめた男。
小田が紹介する。
「この人は星野ゲンさん。 年は45で、去年離婚してる」
星野ゲンなる男は、後頭部を押さえながら照れくさそうに言った。
「養育費、月々10万支払ってます。 エヘヘ」
「10万って、そんな簡単に払えんのかよ?」
俺が星野に尋ねると、俯きがちに呟く。
「バイトかけもちして何とか…… 家賃は払えないんで、ここに住まわせて貰ってます」
小田が星野を擁護するように、続ける。
「お笑いってのは、売れれば一攫千金。 儲かるのさ。 一発屋でも売れた年のギャラは1億。 普通のテレビに出れるクラスなら、年収2千万ってとこだ」
はあ!?
年収2千万?
嘘付け!
「ふかしてんじゃねぇよ!」
「ま、それはさておき、君に頼みたいことと言うのは……」