プロローグ
俺こと、桜木向日葵(18)はタバコを吹かして川原を眺めていた。
足元には今さっきボコボコにした隣の高校のワルが5人。
「なんか、満たされねっつーか……」
時刻は夕方で、水面に反射するオレンジの光を見ながら、ちょっとセンチな気分に浸っていた。
俺も高3で、そろそろ進路を考えないといけねー。
つっても、成績は悪ーし、このまま行けば土方とか、トラックの運ちゃんか。
「……クソ面白くねーな」
こんな俺でも、将来のことは不安だ。
また喧嘩でもして憂さ晴らしするか?
……つーか、こんな考えだから、ダメなんだ。
いい加減、大人になってこういうのから卒業しねーとだ。
「……まあ、帰るか。 今日は母ちゃんがカレー作って待ってんだ」
立ち上がって口笛を吹きながら歩いていると、いきなり見知らぬおっさんが通せんぼしてきた。
右に行くと、右に、左を抜こうとすると、左に。
「おっさんよ、喧嘩売ってんのか、アア?」
「……さっきの喧嘩、見てたぜ」
突然、男は名刺を差し出してきた。
「ワシはこういう者だ。 オメェみてぇな骨のある奴を探してる」
「眼帯ボクシングジム? スカウトかよ」
「これを読みゃあ、オメェもボクシングに興味が持てるハズだ。 男って奴ァ、単純だからな」
男は、「は○めの一歩」の単行本と名刺を無理やり俺に押しつけてくる。
「さあ読め!」
「るせぇッ」
俺は、スカウトの男の顔面に拳を打ち込んだ。
男は、ギャッ、と短く悲鳴を上げ、その場に崩れる。
俺は、さり気なく単行本だけ男の懐から抜き取ると、その場から去ろうとした。
(ちっ、1巻かよ。 内容知ってるし、ブックオフで売っちまうか)
それに、喧嘩じゃ俺の心は満たされねぇ。
俺は今までずっと、自分の中の憂さを相手に向けて生きてきた。
舐めてんじゃねぇぞ、見下してんじゃねぇぞ。
誰かとすれ違うたび、俺はその言葉を心の中で呟いてきた。
「ささくれてやがる……」
ふっ、と俺は自虐的に笑った。
一生、こんな風に生きてくつもりかよ、俺。
すると今度は、足元に地球儀? みたいな球体が転がってきた。
「今度は何だ?」