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担任の先生

「どうした……?」

「ミーアさん?」

 教室の入口で固まってしまった私を見て不審に思ったのか、私の左右にいるシオン君とイザベラさんが声をかけている。

 彼らにはまだ告げていない。私が予知夢で自分が死ぬ夢を見ていることを。


「なんでもない」

「なんでもないわけないだろ。ミーア、些細な事でも言え」

 シオン君は強い口調で言うと、私の腕を掴んで強制的に体の向きを自分の方へと変えさせた。

 強引だけれども、彼は私の護衛なので心配しているのだろう。


「俺達はお前の命を守るのが仕事だ。だから、ちゃんと言え。そうしなければ『あいつ』からお前の心も体も守ることが出来ないんだ」

「あいつ……?」

 私が弾かれたように顔を上げれば、シオンと瞳が交わる。

 シオンは普段から冷静だからこういう時が怖い。あまり表情を変化させることがないため、感情を探ることが出来ないからだ。


 ――シオン君達は私の命を狙う相手に心当たりがあるっていうの?


 確かに夢の中で私は死んだ。

 おそらくグラスに入っていた毒を飲んだせいだろう。

 でも、あれはカルドとヴィヴィと出会った後の未来なので、まだ犯人が存在していない可能性もある。

 カルド達の婚約パーティーだったから、犯人はこのアカデミー生活内で出会う人物だ。


「シオン。ミーアを怖がらせないで下さい。大丈夫です。私達が守りますから。ですから、些細な事でもいいので教えて下さいね」

「でも、今は……」

「えぇ。のちほどで構いませんので。今日は入学式だけなので、放課後にしましょうね」

 私はぎゅっと鞄を握り締めている手に力を込める。

 命を狙われる覚えなんて全くない。私を暗殺なんかしても何一つ良いことなんてないのに。


 急に怖くなってしまった私は、誰かに縋りたくなりシオン君の制服の袖口へと手を伸ばして掴んだ。

 すると、彼は弾かれたように顔をこちらへ向ける。

 感情が読めない灰色の瞳とかち合ってしまい、私は咄嗟に手を離す。


「ごめんなさい」

「……任務だからちゃんとお前のことは守る。それが俺の仕事だ」

「うん、ありがとう」

「さぁ、行きましょう」

 イザベラさんに促され、私は頷き足を進めた。


 教室内は誰かがおしゃべりしている声が聞こえているが、煩くはなくどちからと言えば静かだ。

 シオン君の後を追うように着いていけば、なんとあのカルドさんの後ろにある席へ。

 ちょうど横に三人並べる場所があるのはここしかないようだ。


 ――フラグが。


 カルドさんはシオンの前方に座って友人らしき人としゃべっているので、ほっと息を吐き出す。

 同じクラスだけれども、関わらなければいい。

 婚約パーティーだから、呼ばれる間柄にならなければいいのだ。


「ミーアさん。あちらを見て下さい」

 イザベラさんに言われるがまま、私は左手に嵌め込まれている窓の方へ顔を向ければ大きな広場があった。

 遊具などの他にグラウンドなどもあり、広大な敷地を囲むように木々が生えている。

 石畳みが敷かれた広場のスペースには屋台が並んでいたり、看板が設置されたりしてなんだかお祭りみたい。


「お祭りみたいですね」

「お祭りなんですよ。アカデミーの入学をお祝いして、二日間開催されるんです。今日は早く終わるので行きませんか? 楽しいですよ」

 にこにこと誘ってくれているイザベラさん。

 もしかして、彼女はさっき様子がおかしかった私を励ましてくれているのかもしれない。


「行きたいです」

「じゃあ、行きましょう! シオンの奢りなので遠慮せずに。私、輪投げをしたいです」

「待て。なんで俺のなんだよ」

 頬杖をついているシオン君は、私越しにイザベラさんを見た。


「シオンは最強と呼ばれている上に高給取りじゃないですかー」

「お前も最強の胃袋を持っているって言われているじゃないか」

「あの……自分で払いますよ。少しなら持って来ていますし」

「いいんですよ、ミーアさん。気にしないで下さい」

「イザベラ、お前は少し気にしろ。上司にたかるな」

「じゃあ、部下に奢れと?」

「……」

「ほら! 私って、シオンの部下ですもん」

「わかった。奢るが加減しろよ。お前の食費は底を知らないからな」

「シオンの給料と資産なら私は一生食べ放題出来ますって。私も早くシオンのレベルまで力をつけて昇給したいです。そして、目指すは王都の高級料理店一日貸し切り!」

「頑張れ」

「心が籠ってないー」

 二人は仲が良いなぁと思っていると、「なぁ」という声が前方から聞こえてきたので一斉に私達は前方へ顔を向ける。

 すると、カルドさんが椅子の背に両腕を乗せて身を乗り出していた。


「――あの広場ってお祭りなのか?」

「そうですよ。あっ、始めまして、私イザベラといいます。これから三年間同じクラスですねー。よろしく」

「悪い。自己紹介がまだだったな。俺はカルド=ルーティオ。グリストエ国の王太子で、シオンと寮が同室。んで、左右のいるのは、隣国のルルエド王国の第二王子であるフレスとプルーディナ国の伯爵子息であるラタニだ。よろしく」

 カルドさんの左右にいた人たちが会釈したので、私も同様に会釈をする。


「よろしくですー。カルド様はお祭りとか気になるタイプなんですね」

「カルドで良いよ。同じクラスメイトだしさ」

「では、カルドさんで。シオンと同室なんですね。シオンが全く教えてくれなかったので知らなかったです」

 じろりとイザベラさんがシオン君の方を見れば、シオン君は溜息を吐き出す。


「言っただろ。王太子だって」

「情報量が少ないんですよ」

「イザベラとシオンって付き合っているのか?」

 カルドさんの問いかけに、「絶対にありえない」という二人の声が綺麗に重なった。

 あまりにもぴったりだったので、カルドさん達は目を大きく見開いてしまっている。


「じゃあ、こっちの女の子……えっと、名前が……」

 カルドさんは私の方へと視線を向けたので、私は自己紹介をするために唇を開いた。


「ミーア=ハイデリアです。よろしくお願いします」

 笑顔を浮かべて答えたのだが、内心は心臓がどきどきだった。

 だって、仲良くなったら死亡フラグが回収になってしまうと頭の中でちらちらしていたから。


「ミーアって呼んでも?」

「はい」

「俺の事はカルドって呼び捨てで呼んでくれ。俺もミーアって呼ぶからさ」

 にこりと微笑まれて、良心が痛んだ。

 仲良くしないようにって思っていたけど、そんな自分が嫌な奴に思えてきてしまったのだ。

 彼が別に悪いことをしているわけではないのに、私が避けようとしていたから。


「祭りかぁ。いいよな。やっぱりみんなでわいわいするのって楽しいし」

 カルドは顎に手を添えて思案しはじめると、ぱあっと顔を輝かせた。かと思えば、立ち上がって周りを見回しながら唇を開く。


「なぁ、みんな! 三年間このクラスで過ごすから親睦会を兼ねてお祭りに行こうぜ!」

 カルドの言葉により教室内にざわめきが走る。

 どうやら夢では確認できなかったが、カルドはムードメーカータイプのようだ。


「お祭りがあるの?」

「どこでやっているんだ?」

 クラスの子達もお祭りに興味があるようで、反応している。


「そこの広場でやっている」

「あっ、本当だ。緊張して外見てなかったわ」

「二日間あるらしい。今日は入学式とホームルームだけだから、入学式終わったら行こうぜ」

「行きたいーっ!」

「私も!」

 次々賛同するクラスメイト達を見て、私だけ辞退したいとは言いにくかった。


 仲良くなってパーティーに呼ばれたら死亡フラグが……と、うだうだ考えていると教室の扉が開かれて白衣を纏った青年が入室してきた。

 アシンメトリーの赤い髪をしている彼は、手に名簿と書かれた物を持っている。


「うちのクラスは賑やかだなー」

 みんなの視線が集中している中で、白衣の青年は教壇に立った。


「クラス担任のデルフィーノだ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 クラス全員がお辞儀をすれば、先生が口を開く。


「何かおもしろいことでもあったのか? 先生にも教えてくれ」

「お祭りに行くんですよ。みんなで」

「みんなで?」

 ちらりと先生がシオン君の方へと視線を向けた気がしたので、シオン君の方を見ればさっきと同様に頬杖をついたまま外を眺めている。


「もしかして広場でやっているやつか?」

「はい」

「毎年やっているんだよ、あれ。入学を祝ってやっているお祭りで、親睦を深めるために行くクラスも多いぞ。いいよなー、青春って感じでさ。みんな学園生活を楽しんでくれ。何かあれば先生が相談に乗るぞ。あっ、恋愛相談でも全然引き受けるから!」

 先生の元気な声が教室内に響き渡った。





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