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予知夢で視た二人

 アカデミー入学式当日。

 待ちにまった学園生活の始まりの日を迎えるにあたって、私はいつもよりも早めに目覚めてしまう。

 昨日引っ越してきたばかりの影響もあるかもしれないけど、アカデミーに通えるのが嬉しくて仕方がないのだ。

 遠足前の子供みたいだなぁって自分でも思ってしまった。


 私が暮らしている女子寮の部屋は二人部屋になっており、真っ白い壁に茶色の腰壁。そして、奥に窓が二つ嵌め込まれて窓の前にベッドが設置されている。

 左右の壁には机とクローゼットが。

 クローゼットには収納タイプの姿見があり、ちゃんと全身をチェックできるようになっていた。


「憧れの制服っ!」

 私はベッドの上に座りながら、アカデミーの制服を抱き締めていた。

 制服は紺色のパフスリーブのワンピースで襟元と袖には赤いラインが入っている。ラインとリボンは同色だ。

 ラインは学年によって違い、赤は一年生の印である。


「ミーアさん。そろそろ朝食を摂りに行きませんか?」

 ガチャっと扉が開かれ、現れたのはイザベラさん。

 私が持っている制服と同様の制服を着用しているんだけど、心なしかイザベラさんの表情が明るい。


「あっ、すみません。今、着替えますね。私、制服が初めてなので嬉しくて。王都の学校では制服はなかったんです」

「わかります。私も初めての制服なので嬉しくて」

「貴族の学校では制服なかったんですか?」

「私が通っていたのは貴族も庶民もごちゃ混ぜの学校ですよ。学校というよりは専門的な学校と申しますか……制服はありましたが、制服を買うお金がなかったんですよねー。この仕事に就いたのは、お金がいっぱい稼げるからですし」

「イザベラさんって貴族だと思っていました」

「私は庶民の中の庶民ですよー。実家は田舎ですし。大家族で私が仕送りしています」

「一緒ですね。私も実家は王都から外れた村にあります。家族は祖父母と両親、それから妹が六人」

「私も六人兄弟なんです! 両親と兄弟。今度兄が結婚して家を出るんですよ。実家に戻ると兄弟多いため寝る所が無くて」

「私も妹達と同じ部屋でした。ぎゅうぎゅう詰めで。昨日はゆったりと眠れました。でも……ちょっと寂しかったです」

「ミーアさんは、家族が大好きなんですね」

「はい! 離れているのは寂しいですけど、長期休みには会えますし」

 私が頷けば、イザベラさんが悲しそうに笑った。


「じゃあ、絶対に無事に帰らないとですね。私もシオンもミーアさんの事を守りますので、安心して下さい。私では役に立たないかもしれませんが、シオンがいますから。あの方は私達の中で最強の名を持っていますので頼りになりますよ。その部下をやっている私もちょっと偉いんです」

 と、イザベラさんは胸を張った。


「大丈夫ですよ。私、暗殺者に命を狙われることなんてありませんから。片田舎のちょっと未来が視えるだけの娘ですよ? しかも、ここには大国のご令嬢やお姫様などが通っているので警備が完璧ですし」

「そうですね。でも、何かあったらすぐに私達に教えて下さいね。頭痛や胸が苦しいなど些細な事でも……」

「もしかして、医学の知識もあるのですか?」

「いいえ、体調は魔…なんでもありません。着替えて食堂に行きましょうか。シオンが来ちゃいますので」

「あっ、そうですね」

 私はすぐに制服に着替えることにした。




 +

 +

 +




 大食堂でイザベラさんと一緒に美味しい朝食を摂り、アカデミーに通うために寮の外へ出た。

 塀に凭れ掛かるようにシオン君が待っていてくれたので、私はちょっとびっくりしてしまう。

 まさか、待っていてくれるなんて思ってもいなかったから。


 通り過ぎる女子寮の子達は、ちらちらとシオンの事を見ているけど、気持ちはわかる。

 シオンも制服着用しているんだけど、見惚れてしまうくらいに似合っているしカッコイイ。

 男子は紺のブレザーと同色のズボンに、学年ごとの色をしたネクタイになっている。


「シオン君、おはよう! 学校で合流だと思っていたけど、迎えに来てくれたんだね」

「仕事だからな」

「おはようございます、シオン。制服姿がとっても似合いますよ。アヴィオン様にも是非見て欲しいですね」

「無駄口たたいてないでさっさと行くぞ」

 シオン君が学校の方へと足を踏み出したので、イザベラさんが唇を尖らせた。


「シオン、ミーアさんと私を見て何か一言ないんですか? せっかくの制服姿なんですよ?」

「俺も制服だ」

「確かにそうですけどー。気の利いた台詞の一つ二つ聞きたいじゃないですかー」

 頬を膨らませるイザベラさんを見て、私はつい笑みが零れてしまう。

 全く正反対の二人だけれども、水と油ではなく不思議なことにぴったりと合っている気がしたから。


「制服は制服だろ」

「シオンらしいですね。同室の人とうまくやっていけているんですかー」

「おまえこそ、寮の食事がタダだからって山ほど食いまくるなよ。イザベラは大食いだからな。他のやつが食べる分が無くなる」

 シオン君の言う通り、昨夜一緒に食事をして目にした彼女の食事量は私や周りの人が驚愕するくらいのレベルだった。

 テーブルいっぱいに乗せられた料理が吸い込まれるように彼女の胃の中へと消えていったのだ。

 あんなにいっぱい食べるのに彼女は細い。


 本人曰く、魔力を使うとお腹がすく体質らしく、食べても魔力に消費されるから太らないとのこと。


「そういえば、シオン君と同じ部屋の子ってどんな人?」

「……王子だ」

「情報少ないですって。どこの国のどんな王子なんですか。話膨らませて下さいよ。クールすぎます。もしかして、恋愛もそうなんですか?」

「知らない。人を好きになったことがない」

「そういう人に限って人を好きになったら、一気にデレて独占欲強くなって溺愛するタイプですよね。絶対。あー、でもシオンの場合は偏愛の方かな。ほら、君が死んだらこんな世界要らないから壊す的な。ヤンデレとかもやめて下さいね。シオンみたいに力も金も持っている人間がヤンデレに走ったら脱出不可能ですし」

「おい、上司の恋愛話を聞いて楽しいか?」

「楽しいですよ」

「俺は楽しくないし、上司……師匠の恋愛話を聞きたいとも思ったことがない。もう結婚しているが」

「アヴィオン様って、結婚する前の若い頃はモテモテだったと思いますよ。せっかくの学園生活だから、私もキャンパス恋愛したいっ!」

「任務を忘れるなよ」

「……忘れるわけがないじゃないですか。ミーアさんの命がかかっているんですから」

 ゆるすぎた空気をかき消しイザベラさんが急に真面目な顔をしたので、一瞬で空気が張りつめてしまう。

 肌を刺すようなぴりぴりとしている雰囲気に対して急に怖くなってしまった。


 自分を狙う人なんて周りにはいないと思っていたけど、もしかして自分が予想出来ないだけでいるのかもしれないって思ってしまったから。


「行くぞ、遅れる」

「えっ!?」

 俯きかけた視線だったが、突然シオン君によって繋がれた手により、自然と顔が上がってしまう。


 寮からアカデミーまでは徒歩十分。なかなか離すタイミングを忘れたまま、私とシオン君は手を繋ぎ学校の門を潜ったが、昇降口前にある受付で入学式のお祝いのコサージュを貰うためにやっと手が離れた。


 ――家族以外で手を繋いだのは初めてだったなぁ。


 私はついさっきまでシオン君と繋いでいた手を見詰めていた。

 女の子と違ってごつごつとした骨を感じる大きな手。

 クールな外見の彼と違って、温かかった。


「ミーアさん、手がどうしたんですか?」

 前方からかけられたイザベラさんの声に対して、私は自分の手から弾かれたように彼女へと顔を向けた。

 イザベラさんの胸元には薔薇のコサージュが飾られている。


「なんでもない! あれ、シオンは?」

「理事長と話をしています。あそこですよ」

 イザベラさんが視線で指したのは、校舎の前に立っている銅像の前だった。

 その前にシオン君と女性が立っている。


 ふくよかな中年のスーツ姿の女性で、私達と瞳が交わると陽だまりのような笑みを浮かべた。

 私が慌てて会釈をすれば、シオン君が話を切り上げたのかこちらに足を進めてくる。


「理事長はゴルジュ公爵の叔母にあたる方です」

「そうなんですか?」

「えぇ。ですから、シオンとは懇意にしている方ですよ。シオンはゴルジュ公爵の右腕であるアヴィオン様の一番弟子ですからね」

「それよりも、見ましたかっ!? ここって、食堂も無料なんですよ。つまりは食べ放題です」

 イザベラさんは受付で貰った紙を見ながら弾んだ声を上げている。

 受付ではアカデミーの生活に関わる注意事項や生徒手帳などの他に、アカデミーの館内図やクラスの名簿も貰った。


「行くぞ」

「うん」

 戻ってきたシオン君と共に、私達は教室へと移動した。

 私達のクラスは東棟にある魔術棟の二階。ちょうど階段付近だったので迷うことなく無事到着。


 ダークブラウンの扉の上には、SSクラスというシルバープレートがぶら下がっている。

 どんな人達がいるのかな? って、どきどきしながら扉を開ければ、席は半分くらい埋まっていた。

 まだ入学式当日なので教室内はやはり静かだ。


「おはようございま――え」

 第一印象が肝心だと挨拶をして足を踏み入れれば、私は視界に入って来たクラスメイト達の中に溶け込んでいた二人を発見して固まってしまう。


 窓際の席に座り本を読んでいるピンクのふわふわの髪をした少女と、真ん中付近で左右の席に座っている人とおしゃべりをしている緑色の髪をしている青年だ。この二人は、私が自分の死を予知した夢で見た人達に間違いない。


 ――まさか同じクラスだったなんて! 入学式で早々死亡フラグ回収しちゃったのっ!?




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