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イザベラ

 国王様達の許可を貰って、私は念願のヴァネッサ・アカデミーの入学が決定。

 慌ただしく荷造りを済ませ、シオン様の馬車で早速ディオラ王国へと向かった。

 二週間の道中時間を用いて、私達は無事ディオラの王都・イセに到着してメインストリートを馬車で通っている。


 揺れる馬車の窓からは、私が生まれて一度も見たことがない壮大な風景が広がっていた。

 密集している建物は端が見えないくらいに四方に広がり、歩道には人々で溢れている。

 小国の村に住んでいた私が都会! と想像していた通りの世界だ。

 王都は別名学園都市と呼ばれるくらいに学校が密集しているため、制服姿の生徒と思われる人達の姿も発見。

 もうすぐこの風景に自分も加わる思えば感慨深い。


「こんな大都市に来たのは初めて!」

「そんなにはしゃぐものか? どこも似たようなものだろ」

 王都の風景を見て感動している私とは違い、反対側に座っているシオン様は相変わらずドライだ。


「シオン様が住んでいたムーランアグア国は大国ですからね。見慣れていると思いますよ」

「人が多くて煩わしい」

 不機嫌そうに眉間に皺を寄せながら、シオンは腕を組むと瞳を閉じる。


「あの……シオン様」

「シオンで良い。どうせ同じ年で同じクラスになるんだし。敬語も不要だ。護衛だと周りにバレると面倒だし」

「じゃあ、シオン君と呼んでも?」

「構わない」

「私に護衛は不要だと思うんです。多分、未来視の巫女だから付けて貰っていると思うんですけど……一応、魔力保持者なので自分で自分の身は守れますよ」

「『外からはな』」

「えっ?」

「護衛は必要だ。入学条件に書いてあるだろ」

 シオン君に言われて、隣に置いている鞄を漁って封筒を取り出して確認すれば、確かに護衛付きという表記がある。


「アカデミーの寮が男女別だから、もう一人の護衛は女だ。先にアカデミーの寮で待っている」

「どういう人?」

「俺達よりも三つ年上の『イザベラ』という名で俺の部下だ」

「えっ!? イザベラ様っ!?」

 夢の中で聞いた名前だったので、私は大声を上げてしまう。

 すると、シオン君が眉を顰めながら視線を向けてきた。


「イザベラを知っているのか?」

「……いいえ。その……珍しい名前だと思って」

「そうか? 普通だと思うが」

 なんとなくだけれども、予知夢で聞いた名前ですというのは言いにくい。

 だが、これで私の死亡フラグに近づいているのははっきりとわかった。


 折角の憧れのアカデミーに通って、死亡フラグを回収なんてことになったら終わりだ。


 ――シオン君とイザベラ様は仕方がないけど、『カルド』と『ヴィヴィ』には近づかないようにしないと!


「シオン君も寮なの?」

「あぁ、男子寮の第三。ミーアとイザベラは女子第二寮だ」

「王族や貴族も通っているって聞いたけど、みんな?」

「人それぞれだな。協調性を学ばせたいと寮に親が入れる場合もあれば、『屋敷を購入し使用人達と暮らしている』生徒もいる。基本的には寮は無料だ。俺達もそうだが、大半は寮生活を選ぶだろ」

「そうだよね」

 なんせ寮は太っ腹な待遇なのだ。一人部屋ではなく二人部屋だけれども、朝夜の食事付きで無料。

 私は実家では妹達と一緒だったので、狭い部屋でぎっしりと六人で寝ていたから、一人一つのベッドがあるのが嬉しい。


「アカデミーが見えてきたな」

「えっ、どこ!?」

 シオン君が窓の外に視線を向けているんだけれども、私にはどの建物かが全くわからない。

 お店や家々の後方に大きな建物が複数窺えるが、その中のどれがアカデミーなのかが全く想像出来ず。


「緑色の丸みを帯びた屋根が窺えるだろ? アカデミーの中央ホールの屋根だ」

「あった!」

 平べったい屋根をした大きな建物があるんだけど、ちょうど中央dさけ半円形になっているものを発見。

 どうやらあそこがヴァネッサ・アカデミーらしい。


「ずっと聞きたかったんだが、どうして人助けをしているんだ?」

「どうしてって、どういう意味?」

「自分が怪我したり、危険な目にあう可能性も高いだろう。俺達のように金を貰ってしている仕事じゃないし。周りに褒められたいと思っているのか?」

「んー、考えた事ないや」

 私の答えに対して、シオン君は目を大きく見開き、口をぽかんと開けている。

 まだ二週間しか彼と一緒に居ないけど、初めてこういう表情を見たから新鮮だ。


「……まさか、見返り求めないでやっていたのか」

「うん。私の力で誰かが助かるなら、いいかなぁって」

「お人よしだな。俺には絶対に真似できないし理解できない」

 シオン君は複雑そうな表情を顔に貼り付けると、「寝る」と言って瞼を閉じて長い睫毛を伏せた。


 ――何か気に障った事でも言ってしまったのかな?


 訊ねたかったけれども、私は唇を結びそっとしておくことに。


 馬車は十五分くらい進んで止まった。

 煉瓦の塀で囲まれた建物の前に到着したんだけど、塀の奥にはクリーム色の壁を持つ赤屋根の二階建ての長方形の建物が立っている。


 煉瓦塀には、第二女子寮と彫られた鉄製の建物の前には煉瓦の塀があり、フレームが埋め込まれている。

 フレームの前には、右頭の高い位置で髪を結っている少女が立っていた。

 彼女のウェーブかかった濃い茶色の髪が風に遊ばれて靡いている。



 馬車の窓越しに彼女と目が合えば、深々と頭を下げられてしまったので、私も同様にお辞儀をする。


「もう一人の護衛のイザベラだ」

 いつの間に起きたのか、シオン君が告げた。


 ――彼女がイザベラ様かぁ。


 馭者さんにより馬車の扉が開けられ、シオン君が先に降りて私に手を差し出してくれたので、彼の手を借りて私は馬車から降りる。

 すると、イザベラさんが穏やか笑みを浮かべながらやって来た。


「長旅ご苦労様でした。ア……」

 イザベラ様が突然固まってしまったため、彼女の言葉は途中で止まってしまう。

 シオン君は片方の眉をぴくりと動かすと唇を開く。


「シオンとイザベラでミーナの護衛をするんだ」

 シオン君のため息交じりの言葉に対して、イザベラ様は「あっ、そうでした!」と声を上げる。


「しっかりしろ。何年この仕事をやっているんだ?」

「申し訳ありません」

「報告書は俺が提出しておく、後の事は任せるが大丈夫か」

「勿論です。お任せあれ!」

「大丈夫なのか、本当に」

 イザベラ様とシオン君はお仕事の話をしているらしく、私は静かに彼らの話が終わるのを待った。


「ミーア。俺は自分の寮へ向かう。絶対にイザベラから離れるな」

「私、命狙われてないから大丈夫だよ。そんなにガチガチに護衛しなくても」

「いいから言うことを聞け」

「わかった」

 大丈夫なんだけどなぁと思いつつ、私は頷いた。


 私が大国の姫君とかなら話は別だ。ただの村娘の命を狙ってもメリットが全く無いから、やるだけ無駄。

 未来視の能力だって、夢を見ないと始まらないから自由に使えないし。


「じゃあ、イザベラ。後は任せた。何かあったら通信魔法で連絡を」

 そう言い残すと、シオン君は男子寮と書かれた立て看板の方へと歩いていく。

 彼の背を見送っていると、「私達も部屋に行きましょう!」とイザベラ様から声をかけられたので頷いた。


「寮は二人部屋と伺いましたが、私はイザベラ様と同じ部屋ですか?」

「様づけなんてやめて下さい。シオンから説明があったと思いますが、同じクラスメイトとして潜入するんですから」

「ですが、年上の方ですので……」

「気にしないで下さい。任務ですし。誰かに勘繰られるとマズいので普通にお願いします。あっ、護衛の件は理事長と一部の先生以外は内密にしていますよ」

「わかりました。では、イザベラさんと呼んでもいいですか?」

「勿論。私もミーアさんとお呼びしても?」

「はい!」

 私が頷けば、イザベラさんは満面の笑みを浮かべてくれた。


 念願のアカデミーに通えるし、寮で部屋が一緒の人も優しそうな人なのでほっとする。

 アカデミーに来て本当に良かったなぁと思う。


「さぁ、寮に入りましょうか。明日、入学式ですから風邪でも引いたら大変ですし。楽しみですねー。私、久しぶりの学生生活なんですよ」

「私もです。前は王都の庶民が通う学校で読み書きを。イザベラさんは以前どこの学校に?」

「え」

 イザベラさんは間の抜けた声を上げると、鼻の頭に汗をかきながら視線を彷徨わせてしまう。

 何か聞いてはいけないことでも聞いてしまったのだろうかと思っていると、彼女は寮へと足を踏み出しながら言葉を放った。


「ムーランアグアの王都にある学校に通っていましたよ。希望者が多数いたので、倍率やばくて入るのが大変でした」

「へー。人気の学校なんですね。どういった学校なんですか?」

「えっと……手に職を作れる学校ですかねぇ……あっ、お腹空きませんか。私、町を散策しておやつを買ってきたんですよー。一緒に食べましょう。さぁ!」

 がしっと突然腕を掴まれ、私はイザベラにより強制的に寮の玄関へ連れて行かれてしまう。


 慌ただしく始まったけど、こうして私の学園生活は幕をあけた。





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