未来を約束する指輪
「シオン君。ここ、宝石店だけれども……」
放課後。私はシオン君に誘われて彼の行きたいお店に同行していた。
白を基調とした清潔感溢れる店内にはガラスケースが設置され、ケース内には星のように輝く宝飾品が陳列。
黒のスーツ姿の店員さんが穏やかな笑顔で出迎えてくれ、私達を案内してくれた。
「ちょっと買うものがあるんだ」
隣を歩いているシオン君は、きょろきょろと忙しなく辺りを見回している私とは違い落ち着いていた。
私達が店員さんに連れて来て貰ったのは、応接セット。
入口とは反対の店内の奥にあり、ふかふかの真紅のベルベットソファと大理石で作られたテーブルが置かれている。
シオン君が座ったので私も彼の隣へ腰を落とせば、店員さんがテーブル越しのソファへと座った。
「シオン様、ご注文の商品は完成しております」
「今日はそれを取りに来たんだが、もう一つ欲しいものがあるんだ。ミーアが今度友人の婚約パーティーに参加するから、それに見合うアクセサリーが欲しい」
「シオン君、待って。私……っ!」
ドレス代も払って貰う上に、アクセサリーもなんて負担を掛け過ぎているため、私は彼の腕に手を添え言った。
彼は私の手を掴むと、優しく包んで口を開く。
「俺からのプレゼントだよ。ドレスはドレス。こっちはこっち。どうしてもミーアが気になってしまうなら、そうだなぁ」
シオン君は私の方へと体を向けると、少し腰を曲げて私の耳元に唇を近づける。
「後でミーアからキスして?」
囁くように耳朶に届いた声に、私の顔は一瞬で熱くなってしまう。
「当日はレモンイエローのシンプルなドレスだ。あまり装飾を施して貰っていない。何か合いそうなものはあるか?」
「畏まりました。では、髪飾りを少し華やかなものにして、ネックレスなどはシンプルなものは如何でしょうか?」
「そうだな」
「では、お持ち致します」
店員さんは立ち上がるとカウンターの傍にある扉へと消えて行ったのを見て、私はシオン君へと話しかけようとすれば、その前にシオン君が口を開いてしまう。
「ミーア。もしかして、迷惑になっているか? 俺、ミーアの物を選んだりするのが楽しいんだ」
「シオン君、楽しかったの?」
「楽しいよ。仕事じゃないから、楽しくなければやらない。初めて誰かが身に着ける物を選びたいって思っている」
「ありがとう。でも、値段が……」
「心配しなくてもいいよ。俺とミーアが一生暮らしていけるくらいの資産もあるし」
シオン君はそう言うと、私の頬を両手で包んだ。
「俺、ミーアさえ傍に居てくれれば何もいらない。だから、俺と一緒に生きて」
「勿論だよ。私、シオン君が好きだもん」
私は両腕を動かすとシオン君の手に触れれば、タイミング良く店員さんが「お待た致しました」とやって来たので慌てて手を離して前を向く。
「今日入荷したばかりの一点ものです」
店員さんは柔らかそうな布が敷かれたトレイをそっとテーブルの上に置いた。
トレイの上には透き通るような水色の花弁を持つ花の髪飾りが。
「かわいい!」
「こちらのお色でしたら、ドレスが負けてしまうこともありません」
「いいな。付けて貰っても?」
「勿論です」
店員さんは立ち上がると、私の元へとやって来て髪飾りを付けてくれた。
テーブルの上に置いてあった鏡を店員さんが持ってくれ、私の前に掲げてくれれば、右頭部には花が飾られている。
重そうだなぁと思ってけれども、実際付けてみるとそうでもなかった。
「可愛いな」
シオン君が目尻を下げて私を見ている。
「他にもオススメの商品がございますので、お持ち致しますね」
「お願いします」
その後、店員さんに色々と見せて貰ったけど、私が選んだのは最初に見せて貰ったものだった。
自然豊かな所で育ったためか、花などの植物にどうしても惹かれてしまう部分がある。
「シオン君。ありがとう」
彼が会計をしてくれ、商品はパーティーの日近くまでお店が預かってくれることに。
寮に持って行って紛失したらどうしようと考えていたので、私にとってはありがたい申し出だった。
「どういたしまして」
シオン君は微笑むと、私へと腕を伸ばして手を繋いだ。
「ありがとうございました」
店員さんが店先まで出てくれ、手にしていた紙袋をシオン君へと渡せば、彼が受け取った。
どうやらこれはシオン君が事前に注文していたもので、今日お持ち帰りするつもりだったみたい。
中身はわからないけど、紙袋の大きさから掌に乗るくらいのものだと推測できる。
「ミーア。公園に寄って行こうか。門限までもう少し時間があるから」
「うん」
私達は寮暮らしだから門限があり、寮生は特別な事情以外は夕食時間までに戻らなければならない。
勿論、外泊も禁止。ただし、学校と寮に申請書を記載し提出して許可を貰えば外出できる。
私とシオン君が公園に向かえば、子供達はみんなお別れの挨拶をして自宅に戻っている途中だった。
もうすぐ空は黒く塗りつぶされていくだろう。
静まり返っている園内を歩きベンチに二人で座り、誰も居ない公園を眺める。こういうふとした瞬間が幸せだ。
「ねぇ、ミーア。左手を出して」
「左手?」
私は彼に言われるがまま左手を差し出す。
すると、彼はさっき購入した紙袋から箱を取り出すと蓋を開けたため、中身を確認した私は目を大きく見開く。
「シオン君。これは……」
箱の中に入っていたのは、シルバーのペアリングだった。
シオン君はリングをケースから外すと、私の薬指へと嵌めてくれた。
「アカデミーであまり目立たないように、シンプルなものにしたんだ」
「ありがとう」
「俺の分はミーアが嵌めてくれるか?」
「勿論」
私は箱を預かり、指輪を外すと差し出されたシオン君の指に嵌めた。
すると、彼が私の方へと手を伸ばして抱きしめる。
「ミーアと一緒ならば、未来が楽しいように思えるんだ。ミーアと結婚して二人の間に子供も欲しい。家族が欲しいなんて一度も思ったことがなかったけど、ミーアと家族になりたいし将来はミーアとの家族が欲しい。今すぐじゃなくてもいい。俺と家族になる道を考えて欲しい」
「返事は決まっているよ。私もシオン君とずっと一緒にいたいから」
私はシオン君の背に手を伸ばして抱きしめれば、シオン君の心地よい鼓動が聞こえる。気のせいだろうか。彼の鼓動も速まっているように感じたのは。
+
+
+
門限があるため、街灯がつく前にシオン君に送って貰い寮へと戻ってきた。
寮の玄関ホールの前で佇み、私は薬指を天井から下がっているシャンデリアに掲げている。
細い飾りもないシンプルな指輪が私とシオン君を繋いるものだ。
ふわふわと地に足が付かず、夢心地で未だに現実なのかわからない。
「あら? ミーアさん。ちょうどよかったわ」
突然後方から声を掛けられたため、私が振り返れば寮母さんの姿があった。
寮母さんは、髪を一つに纏め上げ、シンプルなベージュのワンピースに純白のエプロンを纏っている。年は私のお母さんと同年代だと思う。
「こんばんは、寮母さん」
「こんばんは。ちょうど良かったわ。貴方の部屋にお手紙を届けようと思っていた所なの」
言葉と共に彼女が手にしていた手紙を渡され、私は「ありがとうございます」とお礼を言いながら受け取った。
誰だろう? と首を傾げながら差出人を確認すれば、相手はテシス様からだった。
彼から手紙が届くなんて初めてだったが、この間バイオレット様と一緒に訪問してくれたから、その件だろうなぁと頭に過ぎる。
「ありがとうございます」
私はお礼を告げると、階段を昇って部屋へと向かう。
扉をノックして部屋へと入れば、イザベラさんがお菓子を食べていた所だった。
「おかりなさい」
「手紙ですか?」
「うん。テシス様からみたい」
私は自分が普段使っている机へと向かうと、引き出しを開けてペーパーナイフを取り出す。
そして封蝋を剥がして便箋を取り出せば、荒れた文字が飛び込んでくる。
手紙は読んでいる側に困惑や焦りの感情が伝わってくるような筆記体で記され、読んでいる私の顔が強張っていく。
「……どうして?」
力が弱まった私の手から便箋がすり抜けていった。
手紙の内容は国王様達にテシス様とイザベラの結婚を大反対されている事。そして、私に結婚したい相手がいるならば必ず別れさせると怒り狂っているため、もしかしたら近々国王様達から接触があるかもしれない事が書かれていた。




