ドレス
ごろごろとベッドに寝頃がりながら、私は手にしている婚約パーティーの招待状を眺めていた。
死亡フラグの事は気がかりだけれども、お祝いごとなのだから友人の婚約パーティーには参加したい。
私の死亡理由はグラスに入っていた毒。だから、飲み物を飲まなければ死ぬことはないだろうし。
――出席するのは問題ないけど、ドレスなんだよね。
私はパーティーというものに一度も参加した事がないのだ。
家族や友人の誕生日パーティーになどはあるけど、お城で開かれる大きなものとは無縁だった。
ドレス代や装飾品などの購入を考えると、私の所持金ではとうてい支払えるものではない。
友人にドレスを持っている人がいるか聞いてみようかなぁと思っていると、イザベラさんから声を掛けられたので、起き上がって彼女の方を見た。
「ケーキ食べませんか? さっきシオンの師匠であるアヴィオン様から差し入れがあったんです。茶葉も頂いたので、美味しい紅茶もありますよ」
イザベラさんはティーカップとケーキが乗せられた銀のトレイを学習机に置いた。椅子も二脚準備がされている。
「アヴィオン様ってシオン君のお父さん代わりの方でしたよね?」
「えぇ、そうです。総帥と呼ばれる私達のトップに立っている方です。シオンは次期総帥なんですよ。あっ、紅茶とケーキどうぞ。冷めないうちに」
「ありがとうございます」
私はイザベラさんの元へと向かって、椅子へと腰を落とす。
ケーキは苺や葡萄などのフルーツが零れそうなくらいに乗せられ、フルーツの甘酸っぱさが鼻を掠めた。
ケーキというよりはフルーツ盛りのようだ。
「ミーアさん、パーティーのドレスってもしかして決まっちゃいました?」
「いいえ、まだです。ドレスで悩んでいたんです。私、持ってないので。借りられるのでしたら、友人に声をかけて借りようかなぁと考えていました」
「良かった! さっきアヴィオン様が来た理由ですが、ドレスの件です。私とミーアさんの二着を作って貰えるようになりました。採寸が明後日になりますが大丈夫ですか? 費用なら心配不要です。私の分は経費として落とせることになりましたし、ミーアさんの分はシオンが支払いますので」
「え」
私は狙いを定めた苺へとフォークを動かせたが手を止めた。
既製のドレスですら値段が張るのに、オーダーのドレスなんてもっと値段が高い。
シオン君に支払って貰うなんて彼に負担がかかってしまう。
「シオンはミーアさんにドレスをプレゼントしたいんですよ。シオンはミーアさんの事が大好きですから。ドレスや宝石類を購入したからって、シオンが破産するような財力ではありません。シオンはちょっと特殊な能力を持っていますから。危険手当や報酬などでたんまり貰っています。報酬に上限が無いので」
「でも、それはシオン君が稼いだお金です。私、やっぱり友達に聞いてドレスを持っている子がいたら借りますよ」
「シオンが肩を落としちゃいますよ。ドレスのデザインの注文までしていますし。それに、キャンセル料がかかりますよ?」
「ち、注文しちゃったんですか……」
本人の知らぬ間に結構話が進んでいて、驚きと同時にシオン君大事なことはちゃんと言って! と思った。
「気にしなくても良いですよ。もし、気になって仕方がないのでしたら、ありがとうって言ってキスの一つや二つでもすれば対価支払ったことになりますって」
「対価にはならないかと……」
「なりますよー。シオンは恋愛に関しては偏愛主義みたいで、ミーアさん以外要らないと言い出したんです。ミーアさんと過ごすからミーアさんの護衛が終われば仕事も辞めるって言いだして、慌てたアヴィオン様が今回止めに来たんですよ。大打撃ですからね、シオンが抜けると」
「シオン君は頼りにされているんですね」
「えぇ、不愛想でクールですが仕事は出来ますから」
「クールというのはわかります。最初、シオン君のことが怖かったですから」
「わかります。私も最初に配属された時には、マジ無理って思いましたもん。喜怒哀楽がわからない上に口数も少ないし」
「でも、一緒にいると段々わかってくるんですよね」
私はシオン君と過ごした時間を思い出し始め、自然と顔が緩んできてしまう。
私の村で出会った時は怖いし圧力を感じたけれども、アカデミーで過ごしていくうちに彼のことを知って好きになった。
二人でいる時は表情が柔らかい時もあったりして、私には気を許してくれているのかな? と感じる時もある。
「そういえば、テシス王子がこの間来たって伺いました。ミーアさんに会いにきたんですか?」
「うん。報告に来てくれたみたい。テシス様、結婚したい人が出来たからって連れてきてくれたの。国王様達にはお伝えしてないようだけど、納得して下さると良いなぁ。国王様達はまだ私との結婚話を押しているみたいだし」
「どうしてミーアさんとの結婚を押すんでしょうね」
「わからない」
イザベラさんが顎に手を添え思案したため、私は首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いえ。もしかしたら、国が滅びそうだなぁって……ミーアさんの敵はシオンの敵なので」
「えっと……?」
「なんでもありません。とにかくケーキ食べましょう」
「うん」
イザベラさんがケーキに向かってフォークを動かしたので、私も同様の仕草を取りケーキを食べる。
生クリームの甘さが口の中に広がって至福の時間に包まれているというのに、私の心は妙な胸騒ぎにより苦く重い感情が広がっていった。
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「おはよう、シオン君」
「おはようございます。シオン」
翌朝、イザベラさんと共に女子寮を出れば、寮前の道路に植えてある木に凭れ掛かるようにしてシオン君が待っていてくれた。
彼はいつも遠回りしてくれ女子寮に寄り私達と合流し一緒に登校するのが日課だ。
「おはおう、ミーア。イザベラ」
シオン君がこちらにやって来ると、イザベラさんが唇を開く。
「シオン、婚約パーティーのドレスについてミーアさんに教えてあげていなかったんですか? ミーアさん、心配していましたよ」
「そうなのか?」
「うん。私、ドレスを持っていなくて……」
先読みの巫女なんて呼ばれているけど、私はいたって普通の村娘だ。
王族とは顔見知りだけれども夜会にも呼ばれたことがないため、ドレスを着たことがないし、マナーも詳しくわかってないので今は二人の婚約パーティーのために本で少しずつ勉強をしている。
私が恥をかくのは構わないが、カルドとヴィヴィに恥をかかせないようにしないと。
「ドレスは俺の方で準備しているんだ。デザインの打ち合わせは終わっていて、後はミーアの採寸だけだよ。相談しなくて悪かった。デザイン画を見た時、ミーアに着て欲しいドレスがあってさ」
「ううん。その……ドレスを着たことがなかったから、むしろありがたいかも。どういうドレスを着たらマナー違反にならないかとか、わからないことだらけだったから」
「シオン、しっかりミーアさんのエスコートして下さいね」
「勿論だ」
「二人はパーティーとか出たことあるの?」
「私達は仕事の付き合いで時々参加を。美味しい料理がタダで食べ放題なので、私はパーティーに呼ばれるのが大好きです」
イザベラさんらしい返事に対して、私は自然と笑みが浮かんできた。
ちょっとだけ私がパーティーに参加するのが不安だったけど、二人と一緒ならば大丈夫だって思う。
「カルドとヴィヴィの婚約パーティーもきっと美味しい料理ばかりでますよー。両方大国ですからね」
「仕事も兼ねているのを忘れるなよ?」
「勿論ですって」
「ミーア。ドレスの件で放課後に行きたい場所があるんだが、何か今日は用事あるか? イザベラは日直だから、二人で出掛けたいところがあるんだ」
「大丈夫だよ」
「良かった。放課後に一緒に行こう」
「うん」
私は大きく頷くと、シオン君が微笑んで私の頭を撫でた。




