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テシス王子

「シオン君、手伝ってくれてありがとう。お蔭で早く終わることが出来たよ」

 私は手にしている箱を棚に入れながらお礼を言った。

 棚には怪しげな壺から厚い本まで色々なものが収納されている。


 ここは魔術道具収納庫。担任の先生に日直が掃除を頼まれたんだけれども、私と同じ日直の子が体調を崩して早退してしまった。

 そのため、掃除を一人でやる予定だったんだけど、シオン君が一緒に手伝うと申し出てくれたのだ。


 収納庫は教室くらいの広さで壁全体に棚があり、中央には黒いテーブルが設置されている。

 魔法が使えるのだから魔法で掃除を……と思うけれども、授業以外は魔法禁止のため、モップや雑巾を使用しての掃除。

 シオン君が手伝ってくれて本当に助かった。きっと、私一人だけならば、時間がかかって夕方になってしまっていただろうから。


「一人ではこの広さは大変だからな。手伝ったら早く終わるし」

「助かったよ、シオン君。あっ、食堂で飲み物でも飲んでいく? お礼に奢るよ」

 テーブルの上に置いてあった鍵を手に取り、窓際にいるシオン君の方へと顔を向ければ、彼はカーテンを閉めている所だった。


 私も手伝うためにもう半分のカーテンを閉めれば、シオン君がじっと私の方を見詰めているのに気付く。

 なんだろう? と首を傾げれば、近づいて来た彼に口づけをされてしまう。


「ちょうどキスしやすそうな角度だった」

「どんな角度っ!?」

「こういう角度」

 もう一度キスをされ、私は目を大きく見開く。


「シオン君、人が来たらどうするの!?」

「来ないよ。授業も終わったからこの棟には。カーテンも閉めたし、外からは見えない。なんなら鍵を閉める? 色々できるかも」

「い、いっ、色々」

 裏返った私の声を聞き、シオン君が肩を震わせている。


「また私をからかう」

「からかってないよ。ミーアがあまりにも可愛いから。ねぇ、色々ってどんなことか当てて? 外れたらキスね。間違えてもキスするけど」

「結局キスするなら、普通にキスして欲しいよ」

 私が頬を膨らませながらそっぽを向けば、「拗ねちゃった? ごめん」という声が届く。

 大きな手が私の頭に伸び、優しく撫でられる。


「ミーア、こっち向いて。俺、大好きなミーアの顔が見たい」

「ずるい……」

 そう言われたら、シオン君の方を見る以外ないのに。


「愛している。俺、ミーアさえいれば他に何もいらない。ミーアの敵は俺の敵。俺達の邪魔する奴は全部消してあげるね」

「物騒だよ、シオン君。闇を感じる台詞だし。大丈夫だって。私達、別に敵国同士の者じゃないから」

「どうだろうなぁ。ミーア、テシス王子と結婚させられていたじゃないか」

「あー! テシス様。そういえば、あの話どうなっているんだろう。私もテシス様はお互い友達としか思っていないんだよね」

「俺、ミーアのことを手放す気はないから」

「私だって、シオン君の傍に居たい」

「本当? じゃあ、ずっと一緒にいよう。ミーアが嫌だって言っても離すつもりはないよ」

 シオン君が私の頬に手を伸ばして撫でたので、私が瞳を閉じた瞬間だった。

 突然、壁に付けられている魔法具から館内放送が入ったのは。


『魔術課のミーアさん。面会のお客様がいらっしゃっていますので、至急面談室までいらっしゃって下さい』

 予想もしていなかった呼び出しに対してすぐに瞳を開ければ、不機嫌そうな顔をしているシオン君の姿が。


「今、このタイミングで?」

「誰だろう……」

 面会に来てくれる相手が全く想像出来ない。お父さん達から手紙は届いているけど、そんな話は聞いてないし。



「俺も一緒に行ってもいいか? 面会者を確認させて欲しい」

「うん」

 私とシオン君は収納庫を施錠すると、面会室へと向かう。

 生徒の両親でもアカデミーでは申請をして校内に立ち入りをしなければならない。門の所にある守衛室で申請書類記入や身分確認を行い、昇降口にある事務室で書類を提出し面会室に行ける。


 私達は「面会って誰だろう?」と話をしながら一階の面会室と書かれたプレートが掲げられている扉の前に到着。

 ノックをし、私とシオン君が入室すれば、待っていてくれた人は予想外の人物だった。


「久しぶりだな、ミーア」

「テシス様?」

 彼の隣には、見覚えのない少女の姿が。

 さっと見る限り、年齢は私と同じくらいだろうか。金糸を溶かしたような真っ直ぐな髪に、ふっくらとした頬に大きな瞳とぷっくらとした薔薇色の唇をしている。

 彼女は立ち上がると、私に向かって深々と腰を折った。


「初めまして、未来視の巫女様。私、ワイト侯爵の娘・バイオレットと申します。以後、お見知りおきを」

「初めまして。ミーアと申します」

「そんなに畏まらなくてもいいだろ。堅苦しい間柄ではないんだから」

 テシス様は立ち上がるとバイオレット様の肩に手を添えた。


「説明して貰っても良いですか?」

 全く状況がわからないため、私がテシス様に尋ねれば、彼は私の隣へと視線を向けて口を開く。


「お前も説明しろよ。そいつ、誰」

「あれ? 会ったことないっけ? シオン君は私の護衛で同じクラスメイトだよ。それから……その……」

「ミーアの恋人だ」

「なら、ちょうど良い。シオンも一緒に話を聞いてくれるか?」

「構わない」

 シオン君と私はテシス様達が座っている反対側のソファへと腰を落とせば、優しく包み込んでくれるソファの柔らかさに感動。

 さすがは面会室。上質なものを使っているなぁと感心してしまう。


「実はさ、俺とバイオレットも付き合っているんだ」

「そうなんですか。おめでとうございます」

 バイオレット様へと顔を向ければ、彼女は「ありがとうございます」と嬉しそうにはにかんだ。

 テシス様が時折バイオレット様へと気遣うように視線を送るのに気付き、相思相愛だと理解出来る。


「今日はその報告に?」

「そうだ。ほら、ミーアと俺の結婚話が出ていただろ? だから、一応報告までにこっちに来たんだ」

「では、私達の結婚話は消えたんですね。良かった」

「いや、それがそうでもないんだよ」

「え?」

「まだ、父上達には告げてないんだ。兄上には伝えてある」

「お伝えした方がよろしいかと思いますけど」

「父上と母上は俺とお前の結婚を望んでいるから反対する。特に母上が一番ミーアとの結婚を進めてくるからな」

「早く諦めて欲しいですよね。テシス様、説得して下さい」

「わかっている。ちゃんと父上達には言うつもりだ。バイオレットと共に」

 テシス様は、バイオレット様の膝の上に添えていた手に触れると包むように握り締める。


「俺の体はもう心配しなくても良いんだけれども……あの頃と違って体調も良いし。そりゃあ、子供の頃はベッドの上で生活していたのが多かったけどさ。守って貰う存在から、守る存在に変わったんだ」

「守るべき相手がいると、人は強く慣れるからな」

「そうなんだ。俺、バイオレットと出会ってそう思ったんだ。だから、今まで結婚の事に関して父上達に意見が言えなかったけど、ちゃんと言うつもり。バイオレット以外、俺の隣に立つ女は考えられない」

「気持ちはわかる。俺もミーア以外は考えられないからな」

「シオン君……」

 シオン君は私の方へ手を伸ばして肩を抱き寄せる。


「ミーアに付き合っている奴がいることを父上達に言っても構わないか?」

「うん」

「ありがとう。ミーアに彼氏がいることを伝えれば、きっと考えも改めてくれると思うんだ」

「……そう簡単にはいかないだろうな」

 シオン君がため息交じりで言ったので、私達は首を傾げる。

 国王様も王妃様も私よりもバイオレット様の方を選ぶと思う。だって、私は村娘で貴族ではないし、侯爵家ならば王族と婚姻関係を結んでも問題ないし。


「とにかく説得するさ。悪かったな、今日は急に来て」

「ううん」

「あっ、そうだ。カルド様とヴィヴィ様って知っているか? 確か、アカデミーの魔術課に通っているらしいんだが。婚約パーティーの招待状を貰ったから、お祝いのあいさつをして帰ろうかなって」

「知っているよ。私もシオン君も仲良くして貰っていて、婚約パーティーにも参加する予定なの。ヴィヴィ達どこいるだろう……?」

「カルドとヴィヴィなら、イザベラと一緒に町でお茶しているはずだ」

「そうなの?」

「残念だな。まぁ、仕方ない。パーティーで当日、声を掛けさせて貰うさ。バイオレットと共に。じゃあ、帰ろうか」

 テシス様は立ち上がると、バイオレット様へと手を差し出す。

 すると、彼女は腕を伸ばして彼の手に触れた。

 テシス様もバイオレット様も美男美女だから絵になって見惚れてしまいそうになるが、「ミーア」と隣から名を呼ばれて数秒で視線を外した。


 ――シオン君は、相変らず焼きもちやきだなぁ。そういう所も好きだけど。


 私はテシス様達を見送るために立ち上がった。






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