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テスト期間

 ヴァネッサ・アカデミーでも、他学校と同様にテスト期間というものが存在する。

 もうすぐテスト期間突入するため、私もシオン君達と共に放課後食堂で勉強中だ。


 私が在籍している魔術課では筆記試験と実技試験が行われる。

 学術課などの他のクラスもテスト期間は一緒なので、落ち着いて勉強できる図書館は大人気。

 けれども、席が限られているため、私達のように食堂で勉強する人も結構多い。

 食堂のメリットは飲み物を飲みながら勉強できることだろう。お腹が空いたら、軽食を注文して食べることも可能だし。


 ――あれ、どうやって解くんだっけ?


 私はノートへと走らせていたペンを止めた。

 問題の解き方がわからなくて、ちらりと左右へと顔を向ければ、イザベラさんは軽食を摂っているし、シオン君は本を読んでいる。

 二人とも、テスト期間だけれども、一切勉強する様子がない。


 シオン君やイザベラさんは以前魔術を学んだ事があるのか、高魔術も全て理解している。

 私の護衛でなければ、生徒ではなく先生に回るくらいのレベルの能力を持っていた。


 シオン君は本を読んでいるためヴィヴィかカルドにわからないところを聞こうと思った私は、顔を上げてテーブル越しに座っているヴィヴィへと声をかける。


「ヴィヴィ、教えて欲しいところがあるんだけど今いい?」

「勿論です」

 ヴィヴィは穏やかに微笑んだ。


「ありがとう」

 私は教科書とノートを持つと立ち上がって、ヴィヴィの元へと向かう。

 ちょうど彼女の隣が空いていたため、隣に座って教えて貰うためだ。

 椅子に腰を下ろし、教科書とノートを開いた時だった。


「私も一緒に混ぜて貰っても良いかしら?」

 という声が届いたのは。


 全員一斉に声が届いてきた方向へと顔を向ければ、金色の髪をゆるくカールさせた女子生徒の姿が。

 彼女の制服のラインは赤なので、私達と同じ学年だろう。

 うちのクラスではないから、魔術課の他クラス生か、違う学課の生徒かもしれない。


 誰だろう? と思っていると、カルドが答えを教えてくれた。


「もしかして、ガレ国の王女殿下?」

「わぁ! 嬉しいですわ。覚えていてくれたんですね」

 にっこりと微笑んだ彼女は、カルドの隣の席へと座り彼の腕に触れた。


「何度かダンスを踊ったことがあるから覚えているよ」

 カルドの言葉に、ヴィヴィの顔がさっと変化し、彼女が纏って空気が冷え冷えとし始めてしまう。

 ぴりぴりと張り詰めた空気により、私はヴィヴィへの様子を探れば、さっきの穏やかな表情が消えて真顔に。


 それはそうだろう。自分の好きな人がベタベタと他の女性に触られているのだから。


「ミーアさん。わからないところはどこですか?」

「えっ、あの……ここなんだけれども……」

 ヴィヴィは淡々とした言葉で私に尋ねたので、教科書を手に取ると彼女へと見せる。

 すると、彼女はさっと一瞥すると、自分のノートに解き方を書いて説明してくれた。


「カルド様に勉強教えて貰いたいんですけど、よろしいですか?」

「俺は別にいいけど、他のみんなにも聞いてくれ。五人でやっているから。二名ほど勉強を放棄しているが」

「よろしいですか?」

 にこりとガレ国の王女殿下に微笑みながら訊ねられたが断りにくい。


「どうぞー。あっ、でもカルドの成績が落ちると悪いので、私が教えますよ」

 イザベラさんが隣の席の椅子を引けば、

「大丈夫です。私はカルド様に教えて欲しいので」

 と、王女殿下にはっきりと断られてしまう。


「カルド様。さっそくなんですが、わからないところがあるんです」

 王女殿下が教科書を持ってカルドへと身を近づけさた。

 二人の間には隙間がないように体をぴったりと寄り添うようにくっついてしまったため、ヴィヴィが纏っている空気が更にひんやりとしたものに変化。

 イザベラさんと私は顔を見合わせると、ため息を吐き出す。


「別にそんなに接近する必要はないと思うが」

「聞きやすいようにですわ」

「……まぁ、聞きやすいなら仕方がないけど」

 カルドは気にする素振りを見せず、問題の解き方を解説し始める。


 ――いや、仕方なくないって。カルド、ヴィヴィに気づいて! もう空気が……


 と私がカルドに念を送っていると、ガタッと硬質な音を鳴らしながらヴィヴィが椅子を引いて立ち上がった。


「ミーアさん、ごめんなさい。体調が悪いので、続きは他の方に教えて貰ってもいいですか?」

「う、うん」

 俯いているからその表情は読めないけど、さっきまでのひんやりとした空気ではなく、どんよりとした重い空気に変わっている。

 自分の好きな人が他の女生と寄り添う姿なんて見たくないから無理もない。


「申し訳ないけど、私寮に戻ります」

 ヴィヴィさんは、教科書とノートを片付けて鞄に入れると足早に立ち去ってしまう。

 段々と遠くなっていく彼女の背を見ながら、私は後を追いかけた方が良いのか、そっとした方が良いのか悩んでいた。


「体調が悪いって、あいつ大丈夫かよ」

 カルドはヴィヴィが消えて行った食堂の入り口を眺めながら呟くと、立ち上がる。


「なんか様子がおかしかったから、俺が送ってくるよ。教科書とか置いていくから任せる」

「えー、大丈夫ですよ。だって、寮はすぐ傍ですし。勉強の続きしましょう」

 王女殿下も立ち上がり、カルドの腕にしがみ付く。


「だが……」

 王女殿下と入口を視線で往復させているカルドに対して、私が「追いかけて」と言おうとした瞬間だった。

 今まで我関せずのまま本を読んでいたシオン君が口を開いたのは。


「カルド。お前は、ヴィヴィが他の男とべたべたしていたらどう思う? それと同じだったんじゃないか」

「あいつ、もしかして俺のことが……?」

「さぁ? 本人に聞いてきたらどうだ。ミーア、おいで。わからない所は俺が教えてあげるから」

 シオン君に呼ばれたけど、私は動けずにいた。


 ――カルドってヴィヴィの事が好きだったの!? だったら、両想いじゃん。


 カルドはシオン君の言葉を聞いてもまだ悩んでいるようで動かず。

 私はうだうだしているカルドに手を伸ばして背中を押してあげようとすれば、突然何の前触れもなく私の視界が真っ暗に染まってしまう。


「えっ!?」

「俺以外の男を見すぎ。いくらカルドだからって駄目」

「シオン君っ……!」

 どうやら私は後ろからシオン君の大きな手により視界を塞がれてしまっているようだ。


「ミーア。俺だって焼きもちやくよ」

 彼はもう片方の腕を私の腰へと回し、ぎゅっと抱きしめられた。

 

「俺、追いかけるから後は頼む」

「行って来い」

「悪い」

 カルドはそう言い残すと食堂の入り口へと向かって駆け出した。


 シオン君の手が離れ、私の視界が開ける。

 取り残された王女殿下は、呆然とカルドの背を見ていたが、やがて状況が整理出来たようで、顔を盛大に歪ませると無言で教科書をしまい席を立つ。


「飲み物でもごちそうしますよ。シオンが」

「結構よ」

 王女殿下はイザベラさんの言葉に対して、返事をすると去って行く。


「どうやら第三者の登場によって、二人は上手に行きそうですね。シオン、ナイスアシストでしたよ! というか、カルドがヴィヴィを好きだと知っていたのなら、早く教えて下さいって」

「べらべらと他人がしゃべるものでもないだろ。だが、友人のことだから気にはなっていた」

「友人ですか。アカデミーに入って随分変わりましたね。アヴィオン様に報告しますね!」

「食堂のアイスを食べたくないか?」

「ダブルですか?」

「構わない」

「じゃあ、トリプル買ってきますね」

 あっ、さすがはイザベラさん。自分の思い通りの方向に物事を進めているなぁと思っていたが、はっと気づいてしまう。


 ――これって、死亡フラグに近づいていない?


 カルドとヴィヴィが無事結ばれ、婚約した場合には予知夢の世界が現実に起こってしまう可能性が高い。

 しかし、私はシオン君と付き合っているので、予知夢の通り大切な人がいる。

 婚約パーティーには、私はパートナーと参加していたし。


「グラスの飲み物を飲まなければ大丈夫かな」

 予知夢では私が婚約パーティーで飲み物を飲んで倒れたため、最終的には飲み物に手をつけなければ問題ないはずだ。






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