夢の中で視た私の死亡フラグ
僅かに感じる浮遊感を通じ、これが夢の世界なんだと改めて確信する。
「パーティーっぽいけど、サルター城のかな? 私、城って謁見の間しか入ったことがな――えっ!?」
ふと視界に入った人物を見て声を上げてしまう。
その人物は至って普通の少女だった。
レモンイエローのワンショルダータイプのドレスを纏っていて、顔はどこにでもいそうな平凡な顔立ちをしている。
茶色の肩につくかつかないかくらいの長さの髪には、宝石で作られた小さな花々が集まった髪飾りを付けていた。
右側の頭部を埋め尽くすくらいの大きさで、庶民の私には絶対に手に出来ない代物だ。
首には髪飾りと同様のネックレスをして、薬指には指輪をしている。
「なんで、『私』がいるの?」
私の夢には一つだけ弱点があると思っていた。
夢で自分の未来を視ることは出来ないって。
でも、今その弱点が覆されようとしている。
だって、『私』の目の前には『私』がいるのだから……
まさか、予知夢の内容は私が関係することなのだろうか。
眉を顰めながら私は未来の私を追いかけて彼女の近くに寄れば、「ミーア」と私の名を呼びながら少女と少年が現れた。
年は私と似たような年齢っぽいから、十六~十八くらいだろう。
ピンクのふわふわとした長い髪の少女は、この会場でも一番綺麗だと断言できるくらいの容姿をしている。
寄りそうように隣にいる濃い深緑の髪を外に跳ねさせている青年も凛々しくて男らしい。美男美女でお似合いだ。
二人は私の前に立つと、柔らかく微笑む。
どうやら知り合いらしく、夢の中の私は顔を緩め出す。
「『カルド』、『ヴィヴィ』。婚約おめでとう」
未来の私が彼らを祝福していたため、彼らの指を見れば確かにペアリングが光っている。
「ありがとう。貴方達の婚約も楽しみにしているわ」
「わ、私はまだそういうのは……」
ヴィヴィと呼ばれていた少女の言葉に、私は顔を真っ赤にさせている。
――待って! 婚約って何。私、テシス様と婚約するの!?
混乱して頭が真っ白になりかけ、状況を整理しようとするがこれは未来の出来事なのでわかるはずがない。
「でも、指輪」
「これはその……」
「今すぐじゃなくて将来の話はしているようね」
穏やかに微笑んでいる二人と照れている夢の私の姿を見て、「私、誰と結婚するんだろ」とつい呟いてしまう。
「おめでとう」
「お前らが結婚したら盛大に祝ってやるよ。料理も酒も用意してやる。そういえば、あいつは?」
「知り合いがいるからあいさつに行ったよ」
「そっか。『イザベラ』もか?」
「イザベラさんは、料理を食べに行ったよ」
「……料理長達には大食いがいるから、多めにつくるように言っているけど足りるだろうか」
カルドが苦笑いを浮かべ出せば、「カルド様、ヴィヴィ様」と二人を呼ぶ声が届いてくる。視線を向ければ、見るからに高貴な身分だとわかる人達の姿が。
「私はいいから……」
「わかったわ。では、また後でね」
「じゃあな」
二人は立ち去るとしたけど、すぐに振り返って戻ってきて私に抱き付いた。
「俺達はずっとお前の友達だからな」
「終わったらいっぱいおしゃべりしましょうね。絶対よ」
「どうしたの? 二人共。『シオン』君も様子が変だったけれども……」
「なんでもない」
二人は同じ台詞を告げると、夢の中にいる私から体を離す。
「ちょっと感傷的になっちゃったのかも。じゃあ、また後で」
「うん」
小さく手を振った私の表情は、複雑そうだ。
傍から見ていた私でもなんか違和感を覚えずにはいられなかった光景だから、きっと未来の私はもっとなのだろうなぁと思った。
『カルド』『ヴィヴィ』『イザベラ』『シオン』という四人の名は、現在の私の交友関係には全く覚えがないので、これから知り合う可能性が高いようだ。
――私が薬指に指輪をしているってことは、恋人がいるってことなのよね? さっき「貴方達の婚約も」と言っていたから、婚約はしていないけれども。
ぼんやりとそんなことを考えていると、一瞬停電でもあったかのように大広間が真っ黒に染まってしまう。
全く周りの風景画見えなかったけど、すぐに明かりが灯され元の様に戻っていく。
だが、さっきとちょっと違っていた。
夢の中の私は、手にグラスを持っていたから。
どうやら場面転換が行われたらしい。私の夢では珍しくもないのでさほど驚かず。
「何の味なんだろう?」
未来の私が手にしているのは、淡いコスモス色をした飲み物で、どんな味がするのか気になる。
けれども、未来の私に今の私の声が聞こえるはずもなく、グラスを手にしている私は唇に近づけると傾けたかと思えば、未来の私がグラスから手を離して喉元を押さえ出す。
割れるグラスの音に、はじけ飛ぶ破片。
「嘘っ……」
毒殺という二文字が頭に浮かんだ。
それよりも支えないと! と思って体をぐらつかせている未来の私へと手を伸ばしかければ、黒い霧の塊のようなものが阻止するように遮る。
なにあれと意識を塊に向けた時だった。
ぐっと背中を何かに掴まれ意識が強制的に切断されてしまったのは。
「あっ!」
目を開けて広がったのは、大広間ではなく馬車の中だった。
私の隣にテシス様が座って、私の肩に手を添え揺らしている。
「よかった。やっと起きたようだな。ずっとうなされていたぞ、お前。大丈夫か?」
「大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろ。顔が真青だぞ。少し馬車を止めるか?」
確かに大丈夫ではない。
だって、『私が死ぬ夢』を見てしまったのだから。
予知夢以外の夢の可能性もあるかもしれないけれども、私は予知夢以外は今まで見た事がないので可能性はかなり低い。
そのため、この未来がほぼ百パーセントの確立で起きる夢だと断言できる。
――え。私って死んじゃうの?