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ヴィヴィの好きな人

 寮の部屋にお風呂はついていないため、一階にある大浴場に行かなければならない。

 入寮した時は初めて入る大きなお風呂に私もイザベラさんも興奮していたけど、今ではすっかり慣れてしまったため落ち着いてお湯に浸かっている。


「お風呂気持ち良いですね。疲れが取れます」

「えぇ、本当に」

 綺麗に形を整えられた石を組み合わせて作られた浴槽には、私とイザベラさんの他にちらほら寮生の姿も窺えた。

 時間的にあまり混んでいないため、今日はゆっくりと浸かることが出来そうだ。


 イザベラさんと私がまったりとお風呂に入りながら寛いでいれば、後方から「こんばんは、ミーアさん。イザベラさん」という声が聞こえてきた。

 二人で同時に振り返ると、ヴィヴィの姿が。

 ヴィヴィは髪を束ねてタオルを巻いている。


「あっ、ヴィヴィ。こんばんは」

「さっきぶりですねー」

 イザベラさんと二人でヴィヴィに挨拶をすれば、彼女は不安そうな表情を浮かべた。


「どうかした? もしかして悩みごと?」

「……実は、イザベラさんに伺いたいことがありまして」

 ヴィヴィの台詞を聞き、私はイザベラさんの方へと顔を向ければ、彼女は首を傾げている。


「遠慮せずにどうぞー」

「イザベラさんはカルドの事が好きですか……?」

「はぁ?」

 ぐっと眉間に皺を寄せているイザベラさんの唇から放たれたのは、今までに聞いた事が無い声音のもの。


 ――私、イザベラさんと結構一緒にいるけど、そんな素振り今まで見たことがないなぁ。もしかして、三人でパフェ食べに行った時に何かあったのかな。


 ヴィヴィはイザベラさんの反応を見て察したようで、「すみません……」と肩を縮ませる。


「今日、二人が随分仲が良かったので……もしかして、私はお邪魔だったのかなと考えてしまったんです」

「えっ? 仲が良かったシーンなんて全く記憶がありませんが。食い過ぎだろうが! って、罵られていただけですけど。もしかして、罵られたいんですか?」

「そういうわけでは……」

 仮に罵られたかったとしても、寮生が集まっている大浴場では認めないだろう。


「ヴィヴィはカルドのことが好きなの?」

 私が尋ねれば、彼女は両手で顔を覆ってしまったため、質問の内容が正解だと私でもわかってしまった。


「なるほど、ヴィヴィはカルドの事が好きなんですねー。安心して下さい。私はカルドのことは友人としか見ていません」

「でも、カルドは……」

「無いと思いますよ。だって、私の事を好きならば、お前といると財布が段々軽くなるって言いませんって」

「イザベラさん、どれだけ食べたんですか?」

「これでも押さえましたよ。事前に言って下されば、二人きりにしたのに」

「いいです! その……どうお話をして良いのかわかりませんので……」

 長くお風呂に入っていたのだろうか? それとも恋愛話のせいだろうか? ヴィヴィは顔を真っ赤にさせている。

 逆上せて倒れてしまわないか心配になってしまった。


「だ、誰にも言わないで下さいね」

 瞳を潤ませながらヴィヴィが唇を開いたんだけれども、その様子が可愛らしい。

 いつもクールな彼女からは想像出来ないものだったから……

 まさか、ヴィヴィと恋の話をする日が来るなんて想像もしていなかった。


「勿論、誰にもいいません。ね、イザベラさん」

「勿論です」

 私が大きく首を縦に動かせば、イザベラさんも同様の仕草を取る。


「でも、驚きですよー。まさか、ヴィヴィがカルドを好きだったとは。いいですねー。学園青春って感じで」

「カルドって誰か好きな人いるのかな? 聞いた事ないけれども」

「どうなんでしょうかねー。本人に直接聞いてみるしかないかもしれません。それか、シオンに聞いてみるとか。寮でも同室みたいですし、何か聞いているかもしれませんよ。しかし、カルドのどこを好きになったんですか?」

「えっ、あの……恥ずかしいので、それは……」

「えー、いいじゃないですか。どこですか?」

 その後、私達はお風呂に入っているという自覚を忘れて話しをしてしまった。

 そのため、結局三人とも逆上せてしまう羽目に。





 +

 +

 +


(シオン視点)


 ミーアと湖から戻った俺は、風呂に入ることにした。

 寮は部屋に風呂がないため、寮生達は館内にある大浴場を使用している。

 基本的にはどこも造りは同じだと思うが、風呂は石造りだ。

 あまり混雑しない時間帯のはずなのだが、今日はやたらと混んでいた。


 ――シャワーのみにすれば良かったな。


 風呂に入りつつ、増え続けている寮生を眺めながらぼんやりとそんなことを考えていると、俺の名を呼ぶ声が聞こえたため左手へと顔を向ける。

 すると、カルドの姿があった。


「どうだったんだ? ミーアとのデートは。俺が咄嗟の機転で二人きりにさせてやったんだぞ。ありがたく思え」

「ありがとう。ミーアに告白したよ」

「マジで? 返事は!?」

 がしっとカルドに両肩を掴まれ、俺の体が前後に揺さぶられてしまう。


「なんて言って告白したんだ? どんなシチュエーションで?」

 やけに質問攻めにするなとは思いつつ、俺は唇を開く。


「キスして好きだと告白した」

「告白してキスじゃね? 普通、逆だろ」

「ミーアが可愛すぎて我慢できなかった」

「両想いじゃなかったら大問題だぞ。まぁ、でもおめでとう」

「ありがとう」

 最初は面倒な学園生活だった。

 けれども、ミーアに感化されたお蔭か、カルドを始めとするクラスメイト達との交流も悪くないと思い始めている。


 ――師匠に拾って貰った時に強制的に学校に通わされた時は嫌だったが、今はそれなりに楽しい。


「……俺も告白しようかな」

 ぽつりと零したカルドの台詞を聞き、俺は首を傾げた。


「カルドは好きな奴がいるのか?」

「あぁ、同じグループに」

「ミーアは俺のだ。そして俺はミーアのものだ」

「惚気んなよ」

「ミーアでなければイザベラか」

「なんでだよ、普通そこはヴィヴィだろ」

「へー。ヴィヴィか。全く気付かなかったな」

 結構五人で過ごしている時間が多いが、そんな素振りを感じたことは一度もない。

 どうやら俺は恋愛関係には鈍いようだ。

 ミーアの事が好きだというのも、師匠に言われて気づいたくらいだし。


「最初は堅物王女というイメージだったけど、実際はもっと優しくて色々考えていた奴だった。本当はみんなと仲良くなりたいのに、ついツンツンとしてしまう不器用さとか可愛くないか?」

「どうだろうな。俺はミーアが一番可愛いから」

「惚気かよ」

「惚気というか事実」

「羨ましいぜ。俺とヴィヴィは、まだ友達の距離感じゃん。だから、もう少し距離を縮めてから告白しようと思っているんだ」

「そうか。俺も協力できることがあったら協力するよ」

 自分で言った台詞に驚き、俺は手で口を押える。

 まさか、自分から誰かに対して無償で手助けを申し出るなんて思ってもいなかった。

 俺が何かしたくなるのはミーアだけと思っていたが、どうやら自覚していないがカルド達との距離も変わっていたらしい。


 ――友達なんて居たことがなかったからわからないけど、こういうのが友達ということなのだろうか。


 仕事で通っているアカデミーだけれども、俺にとっても良い方向に動いているのかもしれない。







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