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四人で

 放課後。私とシオン君、イザベラさん、それからカルドとヴィヴィさんの四人でアカデミーの食堂を訪れていた。

 食堂の奥には全面が窓ガラスで覆われ、左手にはカウンターがある。

 中央から広がるように長方形のテーブルが等間隔に並べられ、私達はその一角に座っている。


 私達の周りには、お茶をしながら友達としゃべっている生徒や教科書を広げながら勉強をしている生徒の姿などが窺えた。


 昼の時以外でも食堂は大人気。

 基本的にランチは無料だし、放課後は珈琲や紅茶などの飲み物や軽食も注文できるから。

 学生食堂なので少し安いし、ちょっと小腹が空いた生徒は食べにくるようだ。


「で、どうする? 初ミッションの準備」

 私のテーブル越しに座っているカルドがみんなを見ながら訊ねてきた。

 カルドの隣にはヴィヴィさんが座っている。

 私はシオン君とイザベラさんに挟まれているといういつもの定位置。


 ホームルームでグループ発表と同時にミッション表も渡されたため、私達は初任務のための作戦会議を開催することに。


「準備は必要だと思います」

「だよなぁ。下見とかは?」

 私達の初任務は、隣国にある貴族館にて魔族討伐。

 深い森の中にある貴族の別荘を魔族が占拠して人を追い出してしまったらしく、アカデミーに討伐要請があったそうだ。


 ――魔族かぁ。戦ったことがないんだよね。


「……これくらいの魔物ならば下見は必要ない。おそらく中級魔族の仕業だ」

 シオン君は手元のプリントを眺めながら呟く。


「これくらいって魔族だぞ?」

「魔族は魔族でも中級魔族だ。すぐに片付く」

「これ絶対、私達がいるから回したんですよ。普通、一年の初ミッションで持ってくるような仕事ではありません」

「かもしれないな。人使いが荒い」

「シオン、別途料金請求をしましょう! なんで学生やりながら仕事もしなきゃならないんですかー」

 イザベラさんは立ち上がると、シオン君の方を見て力説している。


「もしかして、イザベラさんもシオンさんもムーランアグア国の人達なのかしら?」

 ヴィヴィさんは首を傾げてシオン君達を見た。


「えぇ、そうですよ。よくわかりましたね」

「魔族に詳しいからそう思ったんです。ムーランアグアは退魔士を国が養成していますから」

「退魔士って何?」

 私はシオン君とイザベラさんを交互に見れば、なぜか二人とも固まってしまう。

 だが、代わりにヴィヴィさんが答えてくれた。


「退魔士というのは、魔族を退治する専門家です。ムーランアグアにいるのは、特に寄生型パラサイトと呼ばれる魔族を専門に扱う退魔士協会という唯一の機関ですよ」

「魔族も寄生するんですか?」

「えぇ。詳しくはわかりませんが、寄生した宿主を死に追いやって魂を喰らうそうです」

「物騒ですね」

「本当に。ですが、退魔士の方達に対処して頂けば、命は助かりますわ。料金も貧しいものからは取らないそうですし」

「聞いたことあるけど、代わりに金持ちからは取っているんだろ?」

「よろしいんじゃないですか? あるところから貰えば」

「まぁ、確かにな」

「退魔士の中でも特に名が知られているのが、『白銀の退魔士』と呼ばれる方だそうですよ。確か、名前は『アレク=シュラーク』。とても綺麗なプラチナの髪を持つ少年だそうです。なんでも功績を称えられ、貴族の称号も授かったそうですわ。隣国で退魔士にお世話になったという方から伺いました」

「へー」

 世の中は広いなぁって改めて思った。

 退魔士という存在も初めて聞いたものだし、パラサイトと呼ばれる魔族も初めて知った。

 アカデミーで学ぶことも新鮮だけれども、こうして他の人達と話すのも新しい知識を学ぶことが出来る。


「……すみません、つまらない事をしゃべりました」

 イザベラさんとシオン君は私達の話には入らずただ聞いていたら、ヴィヴィさんがそう言って唇を結んだ。


「いえいえ、つまらなくありませんよ。随分詳しいなぁと感心していたところですって。それよりも、もう少し気さくに接して下さい。私達、同じクラスメイトなんですし」

「あの……でも……」

 ヴィヴィさんは視線を彷徨わせると、テーブルの上に添えていた手をぎゅっと掴んだ。


「すみません。私、人とどう接して良いのかわからないんです。昔から本を読むのが大好きで……本ばかり読んでいたため、祖国では友人と呼べる人がおりませんでした……だから……その……」

「いいんじゃねー? お前、知識を身に着けるのが好きみたいだから、友人関係も今から学べばいいじゃん」

 カルドはぽんとヴィヴィさんの肩に手を添えると告げた。


「今からですか? 私、もう十七なのですが……?」

「別に年齢関係ないだろ。知らないことは知らないんだから」

 確かにカルドの言う通りだと思う。


「そうですね……至らぬ点があるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 ヴィヴィさんは深々と頭を下げた。


 そんな彼女を見て、私は死亡フラグのせいにして、彼女達と距離を置こうとした自分がちょっと情けなくなってしまった。

 折角彼女が勇気を持ち、距離を縮めようとしてくれているのに。


「じゃあ、まずは呼名から決めましょうか。愛称はおいおい決めるとして。んーそうですねぇ。ヴィヴィと呼んでも良いですか?」

「はい。勿論です」

「話し方も徐々に砕けた感じにしていきましょう。急には難しいと思いますし。って、シオン。どこに?」

 イザベラさんの話がまだ途中だったけれども、シオン君が立ち上がってしまう。


「喉が乾いたから飲み物を買って来るだけだ」

 シオンは視線でカウンターを見詰めた。


「あっ、私の分もお願いします。アイスティーとホットサンド!」

「俺、アイスコーヒー」

「私は自分で……」

 ヴィヴィが立ち上がりかけたのをシオン君が制止した。


「まとめて注文をして来るから良いよ。何を飲みたいんだ?」

「あの……では、アイスティーをお願いします」

「了解。ミーアは?」

 シオン君に尋ねられ、私は体を捻って後方へと視線を向ける。正面奥にはカウンターがあり、上部にはメニューが書かれている大きな黒板があった。


 ――んー。ここからだと見えないかな。


「私もシオン君と一緒に行く。メニューを見て決めたいから」

「わかった」

 私は立ち上がるとシオン君と共にカウンターへと向かう。

 すっかり彼の隣にいるのが馴染んでしまっている。

 それが当たり前というか、最近シオン君が隣に居ないと落ち着かないレベルにまでなってしまっていた。

 彼が任務を終えた時に寂しくなってしまいそうだ。


「ミーア」

「ん?」

「カルドとヴィヴィと同じグループで構わないのか? 嫌なら変えて貰うぞ。一応、アカデミーにもミーアの予知夢の件を知らせたんだが、何故か同じグループになってしまった」

「大丈夫。私、さっきのヴィヴィの話を聞いて、フラグの件を気にしないようにしたの。せっかく同じクラスになったんだしさ。死ぬのは怖いけど、絶対に死ぬとは決まってないもん。もし、婚約パーティーに呼ばれてもドリンクを飲まなければいいし」

「ミーアは死なないよ」

 シオン君は突然なんの前触れもなく立ち止ると、私を見下ろした。


「俺が絶対に死なせないから――」

 真っ直ぐな瞳で見つめられ、私は心臓が大きく跳ねてしまう。

 シオン君は仕事で言ってくれているのに、勝手に私が誤解してしまいそうになる。


 シオン君は最初の出会いと違って慣れてくれたのか、私に優しくしてくれる時間が多くなっていた。

 優しい瞳で見守ってくれたり、頭を撫でてくれたり……


「ミーア。制服をどっかにひっかけたのか?」

「え?」

 急に話が私の制服に移ってしまったため、私は間の抜けた声を上げてしまう。

 シオン君の視線の先を追えば、私が着ているワンピースのポケットが破けてしまっていたのだ。


「お財布っ!!」

 いつも金品を身に着けてないと安心できないタイプのため、私はお財布代わりの巾着をポケットにしまっている。

 だが、ポケットが半分以上破けてしまっているので、布がめくれている状態。

 もう確実に財布はないと断言できてしまったため、私は全身の血が引いてしまう。


「ど、どうしよう、お財布落としちゃった……」

「財布落としたのか?」

 シオン君の言葉に、私は頷く。


「一緒に学生事務室に行こう。落とし物として届けられているかもしれない。ここで待っていて。イザベラ達に話してくるから」

「……うん」

 シオン君は私の肩を軽く叩くと、イザベラさん達の方へ歩き出した。





 +

 +

 +




「これです! 私の財布―っ!」

 学生事務室内のテーブル上に乗っているのは、私の愛用の巾着。

 シオン君に促されて学生事務室に行き、事情を説明すればなんと届けられていることが判明。

 ありがたいことに、先生が拾ってくれたらしい。しかも、お金もちゃんと揃っている。


「良かったわねぇ、見つかって」

 事務員さんが穏やかな笑みをうかべながら、書類を持ってきてくれた。


「はい、ここに署名してくれる? あと、学生ナンバーも記載して」

「はい」

 私はペンと紙を受け取ると、必要事項を埋めていく。


「見つけてくれた人にお礼が言いたいのですが、教えて頂くことが出来ますか?」

「貴方達の担任よ」

「担任……」

 隣に立っているシオン君が複雑そうな表情を浮かべている。


「そうなんですか。この後職員室に向かいます」

「そうしなさい」

「はい。ありがとうございました!」

 私はお礼を言って事務室を出れば、手にしていた財布を抱き締める。

 最悪なことも想像してしまったけど、また再び戻ってきてくれた。


「良かったな」

「うん。シオン君が学生事務室に連れて来てくれたお蔭だよ。ありがとう。私一人では絶対にパニックになっちゃっていたから」

「護衛として当たり前だ」

 シオン君は私へと手を伸ばすと、頭を撫でてくれた。


 シオン君が一緒に居てくれると心強くて頼もしい。

 今度何かお礼できればなぁって思う。イザベラさんにも――




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