グループ
入学式から三か月が経過し、私はやっとアカデミーでの生活パターンが定着し始めていた。
クラスメイトや寮生達にも馴染み、憧れの学校で授業を受け毎日充実している。
念願のアカデミーでの生活は想像していた通りだ。
――眠いなぁ。
私は睡魔と戦いながら午後一の授業を受けていた。
お昼休みに食堂でランチを摂ってお腹が膨れた上に、窓からは太陽の光が私達を包んでくれているせいだ。
なんとか睡魔を追い払いながら、黒板に書かれた文字をノートに写していけば、授業終了の鐘が教室内に鳴り響く。
「ん? 今日はここまでのようだな。魔導書第三条の翻訳は課題にするからみんな忘れるなよ」
私達のクラスの担任・デルフィーノ先生は黒板に書いていた文字を止めて振り返ると私達の方へ。
先生の視線はとある一人の生徒へと注がれている。
その生徒とは、机に伏せてすやすやと眠っているカルドだ。
左右に座っている彼の友達が彼の体を揺らせば、やっと彼は身を起こす。
「おい、カルド。お前、俺の授業で寝るとは良い度胸をしているな」
「俺、実戦向きなんですよ。だから、勉強が苦手で。いつ実戦やるんですか? SSクラスはアカデミーに依頼された仕事もやると伺いましたが。確か、グループごとにミッションクリアするんですよね?」
「グループ分けの発表は次のホームルームでやる。学問も大事だぞ。今日出した課題は、お前に当てるからな」
「えっ!? 俺、寝ていて全く聞いてなかったんですけど」
「俺の前で堂々と言うな。仕方ない。学級委員長はヴィヴィだったな。悪いが、ノートを見せてやってくれないか?」
彼女の名を聞き、私は体を大きく動かしてしまう。
――カルドとヴィヴィさんに接点が出来たわ。
窓際に座っていたヴィヴィさんは、ゆっくりと顔を斜め後方にいるカルドの方へと向けたのだけれども、表情はいつも通り。
しかし、美男美女なので絵になる二人だなぁって思う。
これをきっかけに仲良くなって恋人同士になるのだろうか。
なんか死亡フラグに近づいていないか? いや、でも二人に対して必要最低限関わらなければ大丈夫だ。
私と彼らにはクラスメイトという接点しかないし。
「わかりました」
ヴィヴィは頷くと、再び前を見た。
ヴィヴィは他クラスにも人気で、高嶺の花と呼ばれている。
いつも一人で魔導書を読んで休み時間も勉強しているし、学級委員として先生の手伝いもしていた。
一年生代表に選ばれるくらいに優秀で非の打ち所がない。
「よし、じゃあ。これで解散。グループ分けを楽しみにしていろよー」
そう言って先生は教壇から降りて立ち去ってしまった。
授業が終われば一斉にうちのクラスは賑やかになっていく。
私は教科書をしまいながら左隣に座っているイザベラさんに声をかけた。
「グループ分けをしたら、シオン君達とバラバラになっちゃうかもしれないね」
「それは大丈夫ですよー」
にこにことイザベラさんが微笑んでいたので、私は首を傾げる。
すると、隣から視線を感じたため右側にいるシオン君へと視線を向ければ、彼は頬杖をつきながら私を見ていた。
――何か言いたいことがあるのかな?
シオン君はあのお祭り以来、こうして時々私のことを観察するように見つめている時がある。
何か用でもあるの? と尋ねれば、「俺もよくわからない」という返事が。
そのため、ますます頭の中が混乱してしまう事態に。
シオン君はとてもカッコイイので、見詰められるだけで緊張してしまう。
本人は何気なく見ているだけかもしれないけど、私にとってはいつもよりも心臓が早くなってしまうのだ。
お祭りで泣いていた私を慰めて抱きしめてくれた時以来、シオン君のことを意識してしまう時がある。
シオン君が私の傍にいてくれるのは、お仕事で。
だから、そういう感情は持っては駄目なのに――
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鐘と同時に先生が教室に入って来て、ホームルームの時間が始まった。
これからSSクラス特有のミッションの班分けが始まるため、クラスメイト達の表情はやや緊張気味。
みんなこれから始まるグループ発表を期待して、壇上に立っている先生を凝視している。
「そんなに見詰められると、こっちが緊張してしまいそうなんだが」
と言いながら、先生は教壇に乗せている黒いファイルを開く。
「えー、まずはミッションの説明をするぞ。アカデミーに依頼された案件は、学年やレベルによって振り分けられるのは知っているな? ミッションをクリアすれば、バイト代というわけではないがお金が貰える」
未来視の巫女として破落戸や盗賊を退治してきたことはあるけど、アカデミーのミッションは全く想像出来ず。
一体どんなことをするのだろうという不安と期待が入り混じり、私は先生の話を聞きながら胸が弾んでいた。
「グループは理事長や他の先生達と能力などを吟味して決定している。早速発表するぞ。まず、第一グループ。ミーア、シオン、イザベラ、カルド、ヴィヴィ」
「え」
第一グループにまさか自分が入っているとは思わず、私の口から小さな呟きが漏れてしまう。
まさかの五人。クラスメイトとしての距離感を大事にしようと思っていたのに、何故同じグループになってしまったのだろうか。
――まさか、グループ変えて下さいなんて言えないし。
悶々としている間に、グループが次々発表になってしまっていた。
「ねっ、私の言った通り大丈夫だったですよね? 三人同じグループ」
「……うん。でも」
弾んだ声を上げているイザベラさんとは対照的に、私は不安と期待が入り混じっていたが、期待がどっかに飛んで行ってしまっている。
カルド達は何も悪くないけど、やはり気になってしまう。
死亡フラグに刻一刻と近づいているのかなぁと思っていると、ポンと頭に何か大きなものが乗った。
弾かれたようにシオン君の方を見れば、シオン君が私の頭を撫でてくれている。
「大丈夫だ。俺もいる」
シオン君は、優しげな眼差しで私を捉えている。
最近、慣れてきたのか、シオン君の表情が柔らかくなったなぁってわかる瞬間が増えつつあった。
「おーい、そこの二人。いちゃつくなら放課後にしろ。一応、授業中なんだ」「い、いっ、いちゃつく!?」
教壇の方向から放たれた先生の言葉に、私は一気に血液の循環が良くなり、顔も体も熱くなってしまう。
まるで真夏の様に汗がじんわりと浮かび、私は顔を覆ってしまった。
「いちゃつくってどういう意味だ?」
「「「え」」」
シオン君の台詞に、クラスメイトと先生の声が綺麗に重なった。
「シオン、お前はなにを言っているんだ……?」
「俺はただミーアが悲しそうにしているのが嫌だったから、慰めたかっただけだ」
「イケメンなのに鈍感なのっ!?」
クラスの女子の声が室内に響き渡り、シオン君は「イケメン?」と呟きながら目をぱちぱちと大きく瞬きをした。
どうやら自分の見た目がわかっていなかったようだ。
「あー、女子。誰かシオンに恋愛小説でも貸してやれ。あと、これおもしろいから先輩に報告しておくから」
「師匠は関係ないだろ」
「関係あるって。お前の保護者だぞ。いやぁー、おもしろいものを見つけた」
「先生が生徒をからかっていいんですか?」
「先生特権です。えー、シオンはその感情がなんなのか宿題とする」
シオン君はぐっと眉間に深く皺を寄せると、目を細めて先生を睨んだ。




