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君の涙を見ると胸が締め付けられる

 クレープを食べ終えた私達は、並んでいる屋台を回っていた。

 屋台は食べ物屋さんから雑貨屋さんなど多岐に渡っているから、眺めているだけでも充分楽しい。

 ただ見て回っているだけではなく、クラスの親睦会に持って行ける食べ物などをちゃんと見繕っている。


「いやー、屋台って実に良いですね!」

 私の左隣りにいるイザベラさんは、ついさっきクレープを二個食べ終えたばかりだけれども、片手に砂糖がまぶされた揚げパンと飲み物を手にしている。


「シオン君。私、クレープ奢って貰ったから何か奢るよ」

 私は隣を歩いているシオン君へと顔を向ければ、彼は首を左右に振った。


「気にする必要はない。金ならいっぱいある」

 誰もが一度は言ってみたい台詞をさらりと彼は言ってのけてしまう。


「うわっ。言ってみたい台詞をあっさり言っちゃうんですよねー、シオンは。じゃあ、私も。金ならいっぱいある。シオンの財布が!」

「俺の財布かよ。使う時間がないしあまり欲しい物もないから貯まるんだ」

「シオンは指名率断トツですからね。私達の仕事は命がけなので給料が良いんですよ。私はまだ上の階級ではないので給金がねぇ……」

「シオンってすごいんだね」

「すごいのは、ミーアさんもですよ。なんて言ったって、未来が視えるんですから。もしかして、今朝クラスで驚いていたのって未来視の事に関しますか?」

 何気なく口にしたイザベラさんの台詞に対して、私は頷く。

 後でちゃんと話すと言ったけれども、私はお祭りに夢中になってまだ話していなかった。

 ちゃんと二人に話をしなければならないだろう。


「はい。夢で視たんです」

 私が頷けば、シオン君達が足を止めた。


「少し端に避けよう」

 屋台側では人々の往来が激しいため、私達は邪魔にならないように広場の一番奥へと向かった。

 木製のベンチが等間隔で設置され、屋台で買ったものを食べている人達の姿が窺える。

 私達はちょうど空いているところに腰を落とす。


「実はシオン君とイザベラさんに会う前に、お二人の事は知っていました。名前だけですが……シオン君が私の家に尋ねてくれる前に、予知夢を視たんです。自分が夢の中に現れるなんて今までなかったんですけど、あの時は自分が夢に出てきました」

「ミーアが?」

「うん。夢の中で私はカルドとヴィヴィさんの婚約パーティーに参加していたの。それだけなら問題がないんだけど、夢の中の私が死ぬ瞬間を見たんだ。飲み物を飲んで倒れたから、たぶん飲み物に毒が入っていたのかも」

「飲み物を飲んで……?」

 イザベラさんとシオン君は、私を挟んでお互いの顔を見合わせている。


「他に何かあるか?」

「他には特に。だから、同じクラスになったのに驚いたんだ。婚約パーティーに呼ばれるような仲になってしまえば、私が死んでしまう可能性が高くなっちゃうから」

「その時、周りに誰かいたか?」

「ううん。自分以外はいなかった」

 居たのかもしれないけど、夢では視ることができなかった。


「私、協会に連絡してきますね」

「頼む」

 イザベラさんが頷き立ち上がると、人々の中に溶け込むように去ってしまう。


「ごめん、もっと早く言ったら良かったね。シオン君達は護衛で一緒に居てくれているのに。自覚がないんだけど、私って狙われているの?」

「俺達が護衛をしているのとは別件だ。ミーアを狙う理由はなんだろうか」

「別件……」

 全く心当たりはないけれども、別件ということはシオン君達が護衛をしてくれている件と夢の件で少なくとも二つの案件があるらしい。

 私は自分の知らないところで、誰かに恨みを買っていたのだろうか。そう考えると気分が沈んでしまった。


 ――もし、仲良くしてくれていた人達が実は私の事を殺したいくらいに嫌いだったら?


 普段ならば全くめげないし、ネガティブなことを考えないけれども、今は状況が状況だから考えてしまう。

 視界が滲んだかと思えば、ぽたりとスカートに染みが出来た。


「ミーア、泣くな。大丈夫だから」

 シオン君はそう言うと両手を伸ばして私の顔を触れ、自分の方へと私の顔を向けさせた。


「俺が必ず守る。誰かの涙を見てもなんとも思わなかったが、何故かミーアの涙を見て胸が締め付けられるんだ」

「シオン君……」

 シオン君は私の涙を指で弾くように拭うとぎゅっと抱きしめてくれ、子供を安心させるように優しく背中を叩いてくれている。

 トントンというリズムとシオン君の声に段々と落ち着いてきた。


 私も手を伸ばしてシオン君の背に手を回すと、ぎゅっと抱きしめる。


 シオン君は一見するとクールなんだけれども、優しいし温かい心を持っている人だ。

 女の子にヌイグルミをプレゼントしたり、落ち込んでいる私を慰めてくれたり……

 少しずつ彼と一緒に時間を過ごして、段々と彼を理解し信用している自分がいた。


「ねぇ、シオン君。シオン君やイザベラさんが危険なら、仕事とはいえ私のことを守るのを辞めてね」

「辞めない。ミーアには元気で過ごして貰わなければならないからな。いつもみたいにくるくると表情を変えたり、馬鹿みたいに笑ったりして学園生活を過ごして欲しい」

「いや、シオン。馬鹿みたいってもう少し言い方があると思うんですけど?」

 突然割って入ったイザベラさんの言葉に、私はシオン君から身を離れた。


「イザベラさんっ……!?」

 どうやら連絡を終え、イザベラさんが戻って来たようだ。


 さっきシオン君と抱き合っていたことが頭の中に浮かび、気恥ずかしさが襲ってきたため顔に血液が集中してしまう。

 どきどきと早鐘になる鼓動に、汗ばんだ手。体全身で恥ずかしい! という反応をしてしまっている。


「イザベラ。戻って来ていたなら、声をかけろ」

「一応、空気が読める部下なので。それよりも、馬鹿みたいに笑うってなんですか。もっと良い例えがあったんじゃないですか?」

「何故? 俺は大人しくしているミーアよりもそっちの方が好ましい」

「折角のイケメンなんですから歯の浮く台詞の一つや二つくらい言えるようになりましょうよ。恋愛小説でも読んでスキル上げて下さい」

「どうして俺が恋愛小説を読まなければならないんだ?」

「えっ、だってシオンってミーアのことを……」

「ミーアを?」

 シオン君は私へと顔を向けて首を傾げている。


「えっ、もしかして鈍感!?」

 イザベラさんの言葉にシオン君はぐっと眉間に皺を寄せると目を細め出したため、不穏な空気になりかけてしまっている。


「人を鈍感と言うな」

「いやいやいや、どう考えても鈍感でしょう。じゃあ、伺いますが、どうしてミーアさんを抱き締めたのか説明できますか?」

「抱きしめたいと思うから抱きしめた。ミーアには泣いて欲しくないから。それがどうした?」

「これアヴィオン様に報告した方がいいのですかね。アヴィオン様より、シオンのことで何かおもしろいことがあったら、即報告しろって個人的に言われているので」

「言うな」

「えー、心配しているんですよ。あの方はシオン様の父親代わりですからね」

「……」

 イザベラさんの話にシオン君はむすっとした表情を浮かべているけど、どこか嬉しそうな雰囲気を纏っている。


 シオン君を拾って育ててくれた人であると同時に師匠だって前に言っていた気がするけど、アヴィオン様ってどんな方なのだろうか。


「報告した結果は?」

「経過観察だそうです。まぁ、未来は不確定ですからね。とりあえず、今は屋台を楽しみましょうっ! さぁ、親睦会に持っていくおやつを買いに行きましょう。もうすぐ鐘がなってしまいますし」

「うん」

 私が立ち上がれば、シオン君も立ち上がった。







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