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未来視の巫女

 濃い緑に覆われた青々とした森の中には、小鳥の鳴き声に交じりながら男達の野太いうめき声が聞こえていた。

 その発生源は、私の傍にある大木に括りつけられている破落戸達。

 人数はさっと確認して十~十五人くらいだろうか。


 年齢は二十代から五十代までの男女で、腰には剣や短銃が収められている。

 森を越えた先には村があり、括りつけられている破落戸達はその村を襲撃するつもりだった連中だ。

 私が魔法で攻撃し事前に捕まえたため、事件は未然に防ぐことに成功したため村人達は全員無事。


「くそっ。どこで情報が漏れたんだ。まさか、俺らの中に裏切者が……」

「誰だよ。そういえば、お前怪しかったよな」

「私じゃないわよ。あんたじゃないの? しかも、こんな小娘に全員負けるなんて! 情けない」

「俺じゃねーよ。じゃあ、ラッドか!」

「俺じゃない」

 口々に破落戸達がお互いを疑い始め出しているが、ぽつりと一人の男が唇を動かす。


「おい、ちょっと待て。聞いたことがあるぞ。まさかこの女、サルター国の『未来視みらいしの巫女』じゃないか? 十五〜十六の小娘だって聞いたことがあるぞ」

「未来視の巫女ってあの夢で未来を視て、未然に犯罪などを防いでいるって奴……? 確か、高魔力保持者でもある小娘だよな」

 破落戸達が一斉に私を見て答え合わせを待っていたので、私は頷く。


「はい、正解です。ミーア=ハイデリアと申します」

「くそっ。だから俺達を簡単に捕まえられたのかよっ! こんな山の中の村で魔力保持者なんて珍しいと思ったんだ」

 未来視の巫女。私は物心ついた時からこう呼ばれている。

 三歳くらいの頃から、夢で見たことが現実の世界に反映されることがしばしあった。俗にいう予知夢というやつだ。


 夢を見たら必ず城に連絡し対策を取って貰うけれども、知らせたら終わりではなくちゃんと自分で動く。

 私には予知夢以外にも高魔術が使えるため、人々を守ることができるから。


 元々、私には魔力なんてなくて、予知夢が視られるだけ。

 でも、ある時……私が七歳の頃に城に招かれ突然倒れてしまってから、巨大な魔力を授かったのだ。

 お菓子食べて気分が悪くなって少し部屋を借り眠って起きれば、自分の中に魔力が流れているのを感じることに。

 人々は『女神・レムリア様からの授かりし物』と称え、生き神として崇める人まで現れてしまっている。

 私は国境沿いにある一介の村娘のため、そういうネームバリューは重い……


「早いな、ミーア。もう捕えたのか」

「テシス様!」

 突如、右側から響いてきた声に私が弾かれたように顔を向ければ、すぐに「あっ、王子様だ」と断言できるような恰好をした見目麗しき青年が騎士団を連れ立っていた。

 金色のさらさらとした髪を一つに束ねている彼は、この国の第三王子であるテシス様だ。


「もう全員捕えているのか」

「私の予言は日時や時刻がわかりませんので、ずっと張り込んでいたんです。しかし、珍しいですね、テシス様がわざわざ足を運ばれるとは」

「父上と母上が行って来いって。ついでに城でお茶会でもしようってさ。だから、お前から事前に連絡を受けていた騎士団とやって来たというわけだ」

「陛下達がですか……? なんか、最近多いですよね。陛下達がテシス様を私の元へ遣わすのって」

 私はただの村人であるため、城に呼ばれるのも王族達と接するのも年に一度くらいだ。城のパーティーなどには勿論呼ばれたことがない。


 テシス様と私は付き合いが長い。

 五歳の頃に彼が未来視の巫女という存在を聞き、私の元へとやって来たのがきっかけで、年が同じということもあって良き遊び相手となってくれた。

 王族の中で一番面識があり、親しみもある。

 だが、ここ数か月の期間は、陛下や王妃の命を受けてという形で訪問してばかりだ。


「ミーアの誕生日が近いからだろ」

「それが何か?」

「結婚だよ。当面は婚約だと思うがな」

「誰と誰が」

「俺とお前」

「ど、どういう事ですかっ!?」

 誕生日と結婚が全く結びつかず、私は大声を上げてしまう。


 サルター国は男女共に十六から結婚は出来る。

 テシス様はこの間の誕生日で十六歳になったので、私が十六歳になれば結婚は可能だ。


「未来視の巫女の存在はサルター国では大きい。なんせ、外れない予知夢を視ることが出来るんだ。それに、ミーアの魔力は『ヴァネッサ・アカデミー』のSSクラスに入学できるくらいに強い。なんせ、人々からは魔力が女神・レムリア様からの授かりし物と言われているくらいだからな。ミーアは、生き神として崇められているくらいだし。王妃は身分的に無理でも、他の王子とならばってことなんだろうな」

「……断って下さいよ。テシス様だって私と結婚なんてしたくないでしょう?」

「俺だってお前のことを友達にしか思ってないよ。でもさ、俺が意見を言える立場だと?」

「思いません。それにテシス様、ただでさえ陛下達に弱いですもんね」

「そうなんだよ。ほら、俺って子供の頃に体が弱くて何度か死にそうになっていたじゃないか。今は医療の発展の恩恵を受けて元気だけど。それで、父上も母上も未だに心配してさ。迷惑かけたから、俺は両親には弱いんだって」

「なんで急に……村長や両親に相談したいので、城に向かう前に村に寄って貰っていいですか?」

「構わない。道中だし」

「もう一度聞きますが、断ってくれないですよね? 私から断るのって難しいんですけれども……村娘なので……」

「断ることが出来るのならば、とっくにやっているさ」

 突然の出来事に私は頭が回らなくなったので、案を出して貰うために村長や両親を頼ることにした。



 テシス様が乗ってきた馬車にのせて貰い、私は村へと向かった。

 私が暮らしているロキ村は王都からは比較的近いため、城に行こうと思えばいつでも行ける距離だ。

 王都にも何度か行ったことがあるけど、まさか私が結婚して王都で暮らすことになるなんて思ってもおらず。

 しかも、テシス様と結婚してお城で暮らすなんて……


 ガタガタとした路地を走っているせいか、馬車の動きが激しいけれども、早朝から破落戸達の襲撃を見張っていたせいで私に眠気が襲ってきてしまっている。

 少し眠って頭を休め考えようと思い瞳を閉じた。

 うつらうつらと夢の世界と現実の世界を何度か往復して、私は夢の世界へと足を踏み入れ、意識を黒い布で覆われてしまう。


 ――……ん。


 ぼんやりとしていた意識の決定権が自分に戻ってきたため、私が瞼を開けば広がった視界に対して何度も瞬きをしてしまう。


「え」

 目の前に広がっているのは、絢爛豪華な城の大広間。

 ついさっきまで馬車の中で眠っていたのに。


 私が立っているのは、白い大理石を組み合わせて作られた床。天井には大きなシャンデリアが吊るされているし、黄金で縁取られ美しい花や植物の絵も描かれている。


 周りには心を震わせるような演奏をしてくれている音楽団や、ドレスなどで着飾っている貴族と思われる人々で溢れかえっている。

 もしかして、夜会の途中なのかもしれない。


「ここって……」

 私は自分の手を見た。

 すると、やはりいつも通りのブラウンのワンピース。馬車の中で眠っていた恰好をしている。

 私の恰好はここではかなり浮くのに、誰も気づかない。


「夢の中だわ」

 僅かに感じる浮遊感を通じ、これが夢の世界なんだと改めて確信した。





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