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受験勉強がいらない世界になれ

作者: 簪紅有

 日本は、政府が打ち出した政策によって、大きく変わった。その政策とは、「学校をなくしてしまう」というものだった。なくすといっても、勉強しなくていいというものではない。


 情報通信技術などが大きく発展した世界、そこでどうしてわざわざ学校に集まらなければいけないというのか。どうして受験をしなければならないのか。


 学校などなくとも家で授業を受けることができる。学校に行かなくとも勉強はできるのだ。ならば、なぜ。なぜ受験しなければいけないのだ、という考えを持っていた若い政治家が、復習という単語に塗りつぶされた日本を変えるために立ち上がった。それが、改革への第一歩だった。


 政治家は考えた。そもそも受験勉強とは、生徒に無理をさせ、本来の学力ではない状態での進学をさせるというブラック企業並みの重労働だ。ならばどうすればいいのか。解決策として、政治家は学校という組織を一括化させてしまえばいいのだと考え出した。


 いくつにも分けられているから受験をしなければいけないのであって、そもそもが完全なひとまとまりであればいいのだ。そう、政治家は学校を塾のような体制でやればいいのだと考えたのだ。


 学校をひとまとまりにしてしまえばそもそも進学のために受験など必要ないし、より個人に合った勉強をさせることが可能になる。


 資料などを処理しきれない?おいおい、お前はAIというものを知らないのか。人員不足?おいおい、お前はこっちが何度も説明しなければいけないほどなのか。といった調子で、長年の努力のかいあって総理大臣になった政治家は学校を全てまとめる政策を出した。


 もちろん野党は集団生活をさせることも学校の意義なのだと反対したが、考えてみてほしい。VR,AR技術が全世帯に普及している昨今、わざわざ集まらなくとも集団での行動を体験させることは可能だ。体育に関しても、開始時刻をまとめてしまえば、現代は移動技術も進歩しているので集まって授業をすることは容易だ。だというのに、どこに反対するべき要素があるのだろうか。


 無駄な抵抗もほどほどに、学生たちの歓喜を受けながらその政策は実施された。


 こうして今となってはもう若くもなんともない政治家は、若い頃からの夢を実現した。しかし政治家は、そのことがうれしくあるとともに、虚しくもあった。そもそも彼は受験をしたくないという考えで努力をしてきたにも関わらず、自分ではその状態を体感せずに大人となってしまったのだ。


 政治家の政策によって大人であっても受験をせずに学校に行くことが可能になったが、そうではない。政治家が求めていたのは、そんなことではないのだ。政治家は、ただ学生時代の情熱を破壊してしまう受験をせずに過ごして大人になりたかったのだ。


 政治家は眼を閉じて一言、学生時代に戻りたいなあ、と……




 目が覚めた。何か、自分が何か大きなことを成し遂げる夢を見た気がする。それが何なのかはわからない。でも、きっと、自分にとっていいことだったのだろう。


 いつものように、勉強机へと向かう。自分は高校三年生で、受験勉強をしなければならないのだ。そう考えていると、一つ、疑問が頭に浮かんだ。なぜ、受験勉強をしなくてはならないのだろう。その疑問はどんどん膨らんでいって、ついには勉強なんてくそくらえだ、なんて考えが思い浮かぶ。


 ああ、今すぐベッドに寝転がってスマホをいじくりまわそうか。漫画を読もうか。小説を読もうか。


 だけど、勉強はしなければいけないのだろう。嫌な気持ちが頭の中を埋め尽くす。……ふと、名案が浮かんだ。そうだ。受験が嫌なら、変えてしまえばいいのだ。この世の中を、受験のいらないものへと。


 そのためには、今は耐えなくてはならない。いつかこの世の中を変えてやって、笑うために。受験なんていらないんだ、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の、受験勉強が嫌いなだけで、勉強自体は実のところ嫌いじゃなさそうな点。過剰負荷を感じず、自身の役に立つことならやりそうな感じ。強いられていることがいや、という印象です。 [気になる点…
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