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*短編*

【短編】雌雄を決す Side F

作者: 小坂みかん

 あいつとの出会いは、たしか親に連れられてご近所さんに引っ越しの挨拶をしにいったときだ。同い年だというあいつは、挨拶もせずに私をじっと見つめていたっけ。そしてようやく口を開いたかと思うと、「お前、縄跳びできる?」と言ってきた。私が思わずきょとんとしていると、あいつは得意気に鼻を鳴らして胸を張った。



「俺、幼稚園で一番長く飛んでいられるんだぜ。凄いだろ。お前のこと気に入ったから、子分にしてやる。それで、俺が飛び方教えてやるよ」



 私は鼻で笑うと、自分も縄跳びが得意であると言って返した。そして、ひとつ提案をした。――勝負をしよう、と。勝負して勝ったほうが今日一日ボスになるのだ、と。

 結果は、私の勝ち。あいつはとても悔しそうに下唇を噛んで、その日は一日私に(かしず)いた。以来、私達は事あるごとに勝負をした。結果は五分の、どんぐりの背比べ。でもだからこそ、私達は熱くやりあえた。とてもいいライバル関係だった。


 ある年、あいつはしょうもない勝負を私に挑んできた。〈どちらが多くバレンタインのチョコをもらえるか〉を競おうということだった。女子たちがクラス内で友チョコを配ろうということを話していたのを聞き、それできっと、自分が圧勝できると思っていたのだろう。あいつは勝ち誇った顔で「まあ、俺がお前に負けるわけがないけれど」とふんぞり返った。

 結果はもちろん、私の勝ち。私は他のクラスの友達とも、友チョコの交換の約束をしていた。だから、残念ながら負けようがなかったのだ。それを知らなかったあいつは、愕然と膝をついた。

 私はニヤリと笑って哀れみながら、チョコレートを差し出した。あいつにも一応、用意しておいてやっていたのだ。するとあいつは嬉しそうに相好を崩し、とても幸せそうにチョコを頬張った。これほどのチョコを集め、さらには敵からもゲットした俺の人格の良さの勝利とか何とか言いながら。私はそんなあいつのことを馬鹿だなあと眺めつつも、やっぱり好きだなあとも思った。そう思ってしまう時点で、やはりこの勝負は私の負けだったんだなとも思った。


 その直後、あいつのあまりの馬鹿さに最悪の形でライバル関係に終止符を打ちかねない事態が発生したけれど、それも何とか回避して。惰性とも言えるような平穏な争いを、今後も続けられるようになって。いつまでこのバトルは続くのだろうと思っていた矢先、あいつは最後の戦いを仕掛けてきた。――が。


 あいつはこれで最後だと思っていたのだろうけれど、その後も結局戦いは続いた。そして今日も、私はあいつに勝負を持ちかけた。そして――



「ははははははは! この勝負、俺の勝ちだなっ! ママよりもパパのほうがいいんでちゅってー! ねー!? これからは、パパがおむつ替えしてあげまちゅからねー!!」



 娘のぷっくりとしたおなかに頬ずりしながら、あいつは勝利宣言をした。そんなにパパがいいんでちゅかパパうれちいでちゅよとか言いながら、幸せそうにデレデレとしている。そんなあいつを見て、私は心中で「勝った!」とガッツポーズした。

 なんて、ちょろい。勝負に勝ったと見せかけて、実はおむつ替え担当に任命されたということに気づかないだなんて。こうも簡単に乗せられるだなんて。この頭脳戦、私の完全勝利だ。――そんなことを思いながら、私はあいつのことを馬鹿だなあと眺めつつ、やっぱり愛おしいなあとも思った。そしてやはり、そう思ってしまう時点で心理戦では敗北しているよなとも思った。






 この先も、幸せなバトルをずっと続けていこう。でも、本当に本当の〈ラストバトル〉は、どうか引き分けであって欲しい。――そう願いながら、私はライバルの健闘を称えるべく抱擁したのだった。

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