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大魔王(予定)は乳離れできない? いいえ、必要ないのです。  作者: あなぐらグラム
旧版 大魔王(予定)は乳離れできない? いいえ、必要ないのです。
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旧第10話 初心者たちの顔合わせ

 

 怪しい集団がモンヒャーの町を見下ろしていた。

「――使えない男だったな」

「初めから使えるなどと思っていたわけではあるまい」

「あのお気楽な女程度、容易いと思ったのだがな……」

「策は与えた。上手く活かせなかったのはあの男が欲に駆られたからだろう」

「……たしか捕まる直前に人攫いをしたとか?」

「くだらん真似を……! そんなことで計画をぶち壊しにしたのか!!」

「……どうする? 始末しに行くか?」

「我々のことを話される前にか?」


 仲間の発言にどっと笑いが起きる。

 接触はしたが、素性は隠した。

 利用する程度の価値しかない男だと初めからわかっていたのだ。


「だが、このまま引き下がるわけにもいくまい?」

 しかし、続く言葉には皆沈黙を選んだ。

「……そもそも、奴は本当にそうなのか?」

「……わからん。確証があったわけではない」

「だとすると、危険を冒してまで手を出す必要があるとは思えん」


「――意味のない話をしているな」


「これは……! 御使い様」

「ミカエル様!」

 謎の少年の登場に空気が一変する。


「奴が、エルジィが真に魔王と繋がっているかどうかなど我々には関係のないこと。神が言っておられるのだ。魔王と関わりのある者はすべて滅ぼせと」

「そ、それはわかっております」

「わかっている? では、先程の話し合いはなんだ? 一度疑われた者を処罰するのを躊躇っているように聞こえたが?」

「「「…………」」」

 少年とは思えない迫力に飲まれた男たちは言葉を噤み、仲間のように失言をしないようそれだけを考えていた。


「……だが、お前たちの疑念ももっともだ」

 張り詰めた空気が一気に弛緩したかと思えばミカエルは天使のような笑みを浮かべていた。

 別人なのではと錯覚を抱くのを止められる者はいない。

 ミカエルの周囲には光の粒子が舞っているかのように、彼の周囲だけ明らかに光の当たり方が異なる。その光は頭には輪っかを、背中には羽根を見せる。


「世界に魔王がいかに危険な存在か説いて回っているが、まだそれを真に理解する者は少ない」

 御使いと呼ばれる神の代弁者たちが先頭に立ち、世界に訴えかけていても、彼らが現れる前から魔王は存在していた。

 では何が危険なのか? 

 具体的に告げられるほど、魔王はわかりやすい存在ではない。

 ただそこに存在するだけの者を恐れる者は少ない。


「だからこそ、我々は活動しているが、関係性の定かでない者を傷つけることに心を痛めるのも当然」

 雰囲気だけでなく考え方まで真逆なことを言いだしたが、困惑するではなくその言葉に聞き入っている。

「――だが、魔王と繋がりのある者から逃げてはその言葉が届く時はさらに遠くなる」

 まるで洗脳されているかのように頭の中に入ってくる言葉に、疑問を抱くことなくミカエルの齎した報せに従うのが正しいとさえ思っている。


「明日、モンヒャーから新たな冒険者たちが誕生する」

「それは魔王と繋がりのある者の部下となる。いずれは強大な敵となるやもしれん」

「ならばこそ、彼らには神の試練を与える」


「「「はっ!!」」」


◇◆◇◆◇


「集まったな新入りどもっ!!」

 エルジィからメンバーを選び終えたから来てくれと言われて行った冒険者ギルド。

 そこで待ち構えていたのはひげ面の暑苦しい男だった。


「オレがお前らの監督をすることになったオーボンだ! ランクはD!! わかったか!!」

「「「「…………」」」」

 エボルを含め、集まった四人全員が言葉を失くしていた。

「わかったか!?」

 念を押すように言われても、なんと答えたらいいか。


「あの――」

「てめえらの紹介を今からしてやる! ありがたく思えやぁあああ!!」

 意を決して一人が質問をしようと手を上げるも、オーボンと名乗る男のバカでかい声で遮られてしまう。


 オーボンは不満たらたらだった。

 新人の監督役に選ばれるというのはある程度ギルドに信頼された証。

 それは嬉しいことだが、集まった面子が問題だった。

 ハッキリ言って、冒険者を舐めているとしか思えないような子どもばかり。

 こんなのを鍛えても、碌にランクも上がらない。ランクが上がらないということは指導者の質を問われかねない。

 面倒な時に当たったと嘆くも、一度引き受けた以上断れば悪評が立つうえにギルドからペナルティをかけられるだけでなく今度仕事を回してもらう時に何か面倒なことになる。

 先の不安を取り除くために、今すぐに窮地に追いやられるわけにはいかないと苦渋の想いでやって来たのだ。


「まず、イケスそしてマシス! こいつらは双子、カガミ族だ!」

 新入りたちを無視してせかせかと紹介が始められていく。

「えぇ~、そんなざっくりとした紹介じゃなくってさぁ~」

「もっとちゃんとしてよ。将来の英雄候補、美しき冒険者とかさぁ」

 双子は不満たらたらだ。

 エボルはそんな双子を見て、本当にそっくりなんだと初めて見る双子に新鮮な思いだった。

 ただ、カガミ族というのがどういう種族かわからないので後で聞いてみようと思っていた。


「んで、あとはエボルとナナ。どっちも人族だ」

「……わかってたけど、紹介が雑」

「…………」

「無口だね」

「……気にするな」

 この対応である。


「ジョブなんかはてめえらで紹介しろっ! わかったら、さっさと行くぞ!!」 

 うう~んと集まった面子に不安を覚え始めるエボル。

 試験管から詳しい内容も説明されないままついて行くことに異議を唱えないこと、明らかに協調路線を取りそうにない個性的なこと、何よりもやる気を感じられない試験管。


「まあ、なるようになるか」

 初心者用の試験でそんなに難しいことはやらせないだろうと気にしないことにした。

 エボルも自分のことを聞かれても答えにくく、ある程度は手を抜いて試験を受けるつもりだった。



「「ねえねえ、君ってどこの生まれなの?」」

 と、思っていたのに……。

 異口同音、別々の相手に向けられた質問はまるっきりナンパだった。


「……えっと?」

「あっ、アタシはマシス! 生まれはモンヒャーに近いウルミっていう町だよ!」

 なんと答えたらいいか戸惑っていたら、さらにぐいぐい来られた。

 少し離れたところからはイケスも「オレってば、壮絶イケメンじゃない?」という似たような?ことを言っているのが聞こえてくる。


「僕はミルルの森の向こうの生まれだよ」

「ミルルの森の?」

 あらかじめ決めていた答えを返すと、マシスは少し迷ったようだが納得してくれたらしい。

「ミルルの森の向こうっていうと結構遠くだよね~。人の事は言えないけど!」


「……僕も聞いていい?」

 質問攻めにあうのをさけるため、こちらも興味ありますよアピールをすることにした。

「いいよ! なんでも聞いて?」

 ほんっとにぐいぐい来る……!

「試験管の……オーボンが言ってた、カガミ族ってどんな種族?」

 若干、押され気味になりながらも紹介された時から気になっていた質問を投げかけてみた。


「あ~、そこかぁ~」

 言い難いというより、言いたくないといったテンションになったことにおやっ?と思ったものの、一度言ったことは取り消せない。

「……答え辛い質問だった?」

 オーボンが紹介の時に言うぐらいだから大したことないと思っていたエボルとしては意外な反応だったのは否めない。


「ううん。気にしないで!」

 そんなことはないと笑い飛ばすも、どこか空元気感を隠せていない。

「……混ぜてもらっていい?」

 気まずい空気の中、思いもよらぬ人が加わって来た。

「ちょっと、ちょっと~。オレを無視してそっちに行っちゃう?」

 置いてけぼりを食った形になったイケスも合流して、受験者全員で話をすることになった。

 ……彼らに興味のないオーボンは一人前を歩いていた。


「で? 何の話をしてたんだい?」

 結果的にナンパ相手を取られた形になったイケスは取り戻そうとして会話の主導権を取りたがっていた。

「あ~、カガミ族のこと」

「…………」

 気まずそうに片割れが言えば、こちらも見る見る不機嫌に。


「そんなに言いたくないなら、別にいいよ?」

 ここで空気を読めるのが出来る少年。

「いやっ、言うって!!」

「なら初めから聞くな」

 もはや意地になっているマシスに対し、イケスはエボルの言うことであってもそこは受け入れたいらしい。マシスにとってはエボルはナンパ相手だが、イケスは邪魔されたからだろうか?


「イケスは黙ってて!!」

 まあ、男女がぶつかった時は基本的に男が折れるもの。例に漏れず、というより普段から主導権を握っているであろうマシスが押し切った。


「カガミ族っていうのは、珍しい種族なの」

「……オレたちは常に男女の双子で生まれてくる」

「えっ? 生まれやすいってわけじゃなくて、絶対?」

 本でしか知らないけど、そうなると人口が多そうと見当違いのことを考えながら、同じ顔が至る所にいる光景を思い浮かべて少し困惑してしまう。


「それにはもちろん、理由があるよ。アタシたちは、成人するまで二人で一人の人間なの」

「……二人で一人? 二人で一人前みたいなこと?」

「まあ、そんなところ。簡単に言うと、成人したら男女が一人の人間になって性別も統一されるってこと」

「!?」

 二人で生まれたのに、後に一人になるとは……。

 珍しいというより、衝撃な種族である。


「その性質のせいでオレたちは魔族として扱われることが多い」

 実際は、特殊な人族ということだが、聞いてもイマイチ人族とは思えない。

「生まれたのがカガミ族集落じゃなかったから、普通の双子として育ったの。だけど、大きく成るにつれてカガミ族ってことがバレると友達だと思ってた人から化け物扱いされるようになったの……」

「……だから、早く冒険者として一人前になって見返してやるんだ!」


「あれっ? だけど、冒険者として活躍しても大人になったらどちらか一人しかいなくなるんじゃ……?」

「ああ。だから、カガミ族は基本的に成人してからしか冒険者にならない」

「目標は成人前に有名になること! もしも、無理だったら、諦めてどちらかが意思を継ぐって約束してるの!」

「……子供時代の記憶は一つになった時に引き継がれる。名前は二人の名を合わせたモノを使うから変えなきゃならないけど、その方が二人で成し遂げた感が強くなる」


「ちなみにナンパしてるのは大人になってから良い相手を探してもパートナーがいる人が多いからだよっ?」

「うわぁっ!?」

「ふふふっ、この話を聞いても対応を変えないのは珍しいよ」

「いやっ、僕は……」

「――離れたら?」

 気に入っちゃったと抱き着いていたが、ぐいっと剥されてしまう。


「キャンッ! もうっ、何すんのよ!!」

「……別に。見てて鬱陶しかったから。それだけよ」

「はは~ん、あんたもエボル狙いねっ!」

 ぷりぷり怒って負けないんだから、どこか嬉しそうなマシス。

「…………羨ましい」

 ただ、イケスにも気遣ってあげて欲しい。

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