旧第9話 数ある目的地
「それじゃあ、エボルにつける監視員を紹介しよう! 入って来てくれ!!」
「……やれやれ。どんな立場になっても相変わらず人使いが荒いな」
現れたのは初老の男性。
短く切り揃えられた髪は額から頭頂部にかけて大部分抜け落ちており、僅かに残された毛が苦労を物語っていた。
「紹介しよう。我がモンヒャー支部の副ギルド長を務めている、ウルバス・モンヒャーだ」
「……エルジィが言ったように、副ギルド長をしている。と言っても、最近の騒動で職を辞することになった前任者から引き継いだ新任だ」
「元々は個人的な部下として扱ってたんだが、急に前任者が体調を崩してな。急遽こいつになってもらうことになった」
「……ったく、わざわざお遊びに付き合ってやったらこんな面倒な立場を押しつけやがって!」
文句たらたらなウルバスの言うお遊びというのが、エボルたちも巻き込まれた町長の起こした事件だというのはすぐにわかった。
ウルバスはマティサが現れなければエルジィを助け出す役を担っていた男で、言うなればエルジィの腹心。
そして、どうやら前任の副ギルド長こそが町長と裏で繋がっていた内通者ということらしい。
「こう見えてもBランクになろうかっていう実力のある男だ。万が一のことがあっても無事に連れて帰るぐらいは朝飯前だぜ?」
「……言っておくが、エルジィの知り合いだからと言って手心を加えるつもりはない。無謀なことをして命を落とそうとするならガキといえど見捨てる。それは覚悟しておけ」
知り合いが来るから待機しておけと言われてみれば、どこかの良い所のガキの世話とは……。
権力者が騒動を起こしたばかりの町の住人としては気分がいいものではない。元々、粗野なところがあるウルバスは頭を掻きむしりながら、足早にギルド長室をあとにした。
「ハハッ、あんなんだから禿げるんだよな~」
「聞こえてるぞ! 言っておくが、オレのハゲは遺伝だ!! オレの家系は皆、毛が薄いんだよ!!」
聞こえてたかと悪びれもしないエルジィだったが、そこはよく知った仲。
「……どうした? 早く行かないと置いて行かれるぞ。あいつは結構せっかちなんだ」
「えっ!? わ、わかりました!」
促されたエボルは慌てて追いかける羽目になる。
これを見ていたマティサなどは眉を吊り上げるが、エボルはウルバスが本当にさっさと行ってしまったので逆に感謝していた。
◇◆◇◆◇
「……本当に大丈夫なんですか?」
エボルが出て行った扉を心配そうに凝視していたマティサの口から不安な声が漏れていた。
「大丈夫。大丈夫。心配すんなって」
エルジィはそう言うが、マティサたちはあのウルバスという男を知らない。
それに、彼の名前が気にかかっていた。
「モンヒャーといいましたか。彼は、もしかしなくてもこの町の……」
「そっ、開拓者の末裔」
本人も隠すことなくあの名を名乗っているのだから、隠すことでもない。
「今じゃあ、ブルジョアの一族が仕切ってるけど、この町は元々数人の開拓者が拓いた町だからね。ウルバスの祖先は特に貢献したとかで、一族に騎士の称号が与えられたんだよ。もっとも、町長なんて柄じゃないからって自由にやってるらしいけどね。冒険者なんてやってるんだ。それぐらいはわかるだろ?」
一般的に平民には苗字はない。
苗字があるのは騎士や貴族といった国から認められた一部の者たちだけ。
ウルバスは特殊な形で恩恵を受けて今でも町と同じ姓を名乗っているが、本人的には別にあってもなくても変わらないと思っていた。
「町に特に思い入れがあるわけじゃない。生まれ育った場所でたまたま冒険者をしているだけさ」
だから、逆恨みなどはしないと伝えたかった。
「……まあいいでしょう」
それはマティサにも伝わっていた。
それに、対面した時の態度からすると面倒臭いとは思っているがそれ以上の悪感情をウルバスから感じることはできなかった。
「さて、話は変わるが……これからの予定は決まってるのか?」
「……あなたに話す必要はないと思いますが?」
「ああ、ないな」
二人の間で空気がピリつく。
マティサとしては、エボルの危険を減らすために同行する人間以外に目的を知られるわけにはいかず、エルジィとしては答えるかどうかでマティサに探りを入れている。
「……ただ、エボルの体質が問題になるんじゃないか?」
どうせこのままでは話は進まないとエルジィは矛先を変えてみる。
「レベルが上がれば赤ん坊の姿になる。その時、食事はどうする?」
「それならミルルの実を大量に取ってあります」
「それでも数に限りがあるだろう」
ミルルの実は名前からわかるようにミルルの森原産の植物。
他の土地で取れるという話は聞いたことがない。
「一口食べれば出るわけでもなし、一回に何個消費するつもりだ? 無くなったら、また取りにでも来るのか? お前のことだから、動物の乳なんかじゃ納得しないだろう? それとも、そこの彼女に頼り切るつもりか?」
出来ないだろうと責めるように言えば、マティサも言葉を噤むしかない。
「アタシを当てにしているというのなら目的を話せ」
確実に協力できるとは限らないが、それでも何かできることがあると信じていた。
「……大体、水臭いんだよ。昔の仲間に変なところで遠慮するな」
普段は図々しいくせに。エルジィは頼られないことにこそ憤っていた。
「…………変わりませんね。そういうところ」
昔も馬の合わない仲間とケンカしていた時、自分も混ぜろと理由も聞かずに殴りかかってきたのを思い出し、少しだけ笑みを浮かべる。
「――先程言った通り、旅の目的は調査です」
あり得ないはずの魔王の資格の調査、それが最終的な目的。
「ですが、それを調べるためにも若には多くの世界を知っていただき、肩書きに相応しい力を身に付けてもらわなければなりません」
「そこで、まず目指すのは魔法大国オリヴァンです」
「オリヴァン……!? お前が、あそこに行くのかっ?」
魔法大国オリヴァン――モンヒャーの北東に位置し、数多のオリジナル魔法を開発してきた国。魔法の聖地とも呼ばれ、魔法に関するありとあらゆる物が揃う国。
そして、マティサにとっては因縁深い土地。
「……えぇ。せっかくですから、ちょっと用事を済ませようと思います」
普段から無表情な顔からさらに感情を消して答える様子に、エルジィは覚悟を悟って何も言えなくなる。
「わかってると思うが、オリヴァンには厄介な奴らが多い。……無茶はするなよ」
高度に発展した魔法を有するかの国はその分警備や人材も豊富。
因縁に対してなんらかの形でけじめをつけようとすれば……そう考えてしまう。
「わかっています。若がいるところでそんな無茶はしません。最優先事項は若なのですから」
「……そうか。だったら、いい」
本当に、今の主に出会えてよかった。
心からそう思った。
「オリヴァンに行く目的は若の杖を作ることです」
「杖? そりゃあ、【魔力】があんなに高いんだから魔法を中心に伸ばしていくんだろうけど……」
疑問だ。
魔法を中心に伸ばすことがわかっているなら、どうして杖を持たせていないのか?
「……変なところで鋭いくせに、単純な問題に引っかかるのも相変わらずですか」
あなたの部下は苦労しそうです……そう語るマティサの背後では彼女の部下であるレイフォンティアが顔を顰めていた。
「あなたが言っていたじゃありませんか。若はレベルアップで姿が変わると」
「あっ! そういうことか。赤ん坊の姿じゃ杖は持てないし、赤ん坊でも持てる物だと小型で威力が小さい物になるのか」
杖の性能は取り付ける魔石――魔力を貯める性質を持つ宝石に左右される。大きい物ならば、威力も高いが重くなり、小さい物だと持ち運びには便利だが威力が小さい。
「その点、オリヴァンならどんな杖でもオーダーメイドで作ってもらえます」
もちろん、多少値は張るがエボルのためなら金は惜しむつもりはない。というか軍資金はかなり余裕を持って渡されているのでそれぐらいなら問題ない。
「ただ……」
そこで一旦言葉を区切ると、通されてから一言も発していない人物に視線を送る。
釣られるようにエルジィやレイフォンティアたちも。
「あ、あの……どうかしましたか?」
「……はぁ。彼女を送り届ける方が優先ですかね」
ため息を吐かれたことにショックを受けるミルフィー。やはり、獲物として狙っているからかマティサとの相性は悪いようだ。
「牛魔族だったな……。この辺りで目撃情報は上がってないが、どこの出身なんだ?」
「出身……ですか? う~ん……」
「彼女は人攫いにあったので、正確な場所はわからないらしいです」
「そうなのか? 例えば、特徴的な風景や植物、動物などは? なんでもいいから情報がないことには見つけるのは難しいぞ?」
「そうですねー特徴的な山と言えば、丸角山ですかね」
「まるつの? 聞いたことないな」
マティサに視線を送ってみると、彼女も首を左右に振っている。
「どんな山なんだ?」
マティサが聞いたことのない地名で、特徴的ということはミルフィーたち独自の呼び方かもしれない。そのように当たりを付けて尋ねてみたら、ビンゴだった。
「険しい山ですよ。それでいつも山頂に輪っかのような雲がかかってるんです」
「……あぁ、エンジェルマウンテンか」
思った以上に有名な山の名に、そんなところに隠れ住んでいるとは思っていなかったと感心する。
「エンジェルマウンテンですか? 可愛らしい名前だったのですね!」
「常に火山の煙が天使の輪っかみたいだってんでそう呼ばれているらしいな。結構な観光地らしいぞ? たしか、温泉が有名だ」
「へぇ~! 行ってみたいです」
自分の置かれている状況を忘れてはしゃぐミルフィーにより詳細な情報を聞き出すべく次なる質問を投げかける。
「この地図を見てくれ」
広げられた地図のモンヒャーと書かれた町を指差す。
「ここがモンヒャー、そしてオリヴァンはここから北東方向」
言いながら指を右斜め上に動かしていくと海岸沿いにオリヴァンと記入されている。
「そして、エンジェルマウンテンはちょっと反対側だな。この町から見えないのはミルルの森でちょうど遮られているからか……」
ミルルの森を迂回したところに大きな山が描かれていた。
「エンジェルマウンテンが見える位置ってだけじゃ範囲が広いな」
「あの人攫いたちの実力ではそう遠くから攫ってくるのは難しいでしょう」
それを受けて、エルジィの中でモンヒャーと反対側の土地は候補から消えた。
「私の村はちょっと小高いところにあって、下に川が流れてました」
「じゃあ、この辺りか?」
川が流れていて、少し高い所。加えてミルルの森に近い。
「……ウェスタウン近辺ってこところだな」
「エンジェルマウンテンの麓にある町ですね」
「うん。治安も結構いいし、牛魔族が隠れ住むにはうってつけかも」
ウェスタウンは牛の飼育で有名なので、姿を見られても勘違いされるんじゃないかという見当の下、ミルフィーたちが住んでいる場所が絞り込まれた。
「あとはどうやって行くかだけど……」
「とりあえずウェスタウンに行って、それからはミルフィーさんの土地勘とレイフォンティアを頼りに探してみます」
「任された」
「ま、任せてくださいっ!」
「へぇ~。信頼してんだ」
わざわざ任せるぐらい優秀な部下らしいとレイフォンティアに対して少し見くびっていたかなと考えを改める。
もちろん、ミルフィーを頼りにしていないのもお見通しだ。
「問題はそこからオリヴァンに行く方法だね」
モンヒャーからならともかく、ウェスタウンに寄るとなるとミルルの森の深部を突っ切る形が最短になる。深部になるとモンスターのレベルも上がるのでマティサが付いていても辛い行軍になるだろう。
「いっそのこと、エンジェルマウンテンを迂回して行く方が安全かもね。都合のいいことにその間に目的らしい場所も通るし」
「……そうするしかありませんか」
「そうと決まれば、有益な情報をあげられそうだよ」
「有益な」
「情報?」
「ミルルの実を増やす方法があるのさ」
「そんなっ!? ミルルの実はこの近辺でしか取れないのではなかったのですか?」
「……新種?」
「落ち着いてください。もしかしたら、他にも生えている場所や育てている農家があるのかも……」
「あぁ~、いやそうじゃないんだ」
期待させて悪いねという言葉通り、がっくりと肩を落とすマティサたち。
「ではどういうことですか?」
「……実は、最近新たなモンスターが開発されてね」
「……モンスターの開発というとココント王国ですか」
「ご名答~! ってまあ、そこしかないか」
ココント王国――西の海に浮かぶ小さな島国であり、ココン島の土地全てが国土。
以前までは名産らしいものもなく、国というより人が暮らす島だったが四十年ほど前からある産業で有名になった。
それこそがモンスターの新種開発。
数多くのテイマーが島外からモンスターを連れて来ては新たなモンスターを生み出している。
「当然、自然界に放たれれば生態系を乱す禁忌の存在なわけだが……それを生業とする人間もいる」
「……魔王マグドーバラ。狂気のマッドサイエンティスト」
「その魔王が最近生み出した新種のモンスターの中に気になるものがいてね」
取り出すのはギルド幹部に配布されている危険指定リスト。
危険な犯罪者やモンスターについて記されたそのリストの中に挟まれていた材質の違う紙の束を取り出した。
「これはギルドが潜入させている諜報員から手に入れた今度のオークションで売り出される品物のリスト。いわゆるカタログ。……で、これを見て」
「プラントペット? これがどうしました?」
エルジィが見せたカタログには甲羅に植物を乗せているカメが描かれていた。
「説明文をちゃんと見て」
「『このカメに一種類の植物を与え続けると、それを背中に生やします』……なんですって!?」
「うってつけだろ?」
マティサたちにとっては喉から手が出るほど欲しいモンスター、いやペットになる。
「オリヴァンに行くなら反対方向だけど、ウェスタウンからエンジェルマウンテンを回り込むならどうせ通り道だ」
「オークションが行われるのは、ココン島ではないのですね」
「さすがにあそこでオークションなんてやったら、ギルドや大国が黙っちゃいないさ。今回のオークションだってギルドは厳重な警戒網を敷いているんだからね」
「あくまでそれは逃げ出した際の保険でしょう?」
魔王に強く出られる人間なんて限られてる。どれだけ大国のバックアップがあっても、ただの人間では関わるだけで死を意味するのが魔王なのだから。
「だからこそ、正規のルートで手に入れれば誰も文句は言えないさ」
「……違法な闇オークションで正規ですか」
「妨害はあるかもしれないけど、金で解決できる問題でもある。しばらくはギルドからの監視が付くかもしれないけど、振り切るぐらいわけないだろ?」
「……決まりましたね。ウェスタウンを出てから、このオークションへ向かいます!」
◇◆◇◆◇
――コンコンッ!
「……んっ? 誰だろ?」
「エルジィ、オレだ。戻って来たぞ!」
どうやらウルバスが戻って来たらしいが、予想よりも早い帰りに首を傾げる。
「ウルバス、どうした?」
「……あん? どうしたも何も終わったから帰って来たんだよ」
出迎えの一言が疑問形だったので、何言ってんだかとズカズカまるで我が物顔でギルド長室に入っていく。後ろからエボルも続いて室内に入り、招き入れたエルジィは訳が分からない。
「いやぁ~見事だったぜ」
ウルバスはいつになく上機嫌だった。
ギルド長の知り合い、その伝手を使うようなボンボンの子守りを任せられた時は厄介ごとだとばかり思っていたが、蓋を開けてみれば久しぶりに心躍る仕事が待っていた。
「初心者用クエストの討伐系『ゴブリン五体を倒せ』……長年冒険者をやってたが、あそこまで見事に倒す新人を見るのは久し振りだ」
「そんなに見事だったのかい?」
「ああ。まあ、冒険者として倒すのならもう少し経験を積む必要がありそうだったがな!」
エボルはゴブリンを倒す際、『ファイアボール』の魔法を使っていた。
ドゥミッホに使った時よりも制御された魔法はいとも容易くゴブリンを駆逐していったのだ。
「五つに分かれた『ファイアボール』が大口開けたゴブリンの口内で爆発してよ? 頭部が吹き飛んじまってなぁ……」
そのせいで討伐確認部位の耳が原形を留めていないので遅くなったと陽気に笑い飛ばすが、エルジィが考えていた時間の何倍も早い戻りだ。
「次からは腹や手足を吹き飛ばすことにしたからよかったものの、あのままだったら首なしゴブリンがうろつくようになってたかもな!」
「……ということは、合格でいいんだね?」
「ああ! もちろんだ。むしろ、あの実力だったら、新人研修なんていらないんじゃねえか?」
「そういうわけにもいかないだろう」
余計なことを……! ウルバスの言葉に反応したマティサの獲物を狙うような視線を感じながら、興奮しっぱなしのウルバスを睨みつける。
ウルバスはウルバスでそれぐらい大目に見ろと言っているようだが、これが大目に見ていられるか!
「とりあえず、最初の試練クリアおめでとう」
試練にはエボルの実力を確認する意味があるのだから何がなんでも受けてもらわなければ困る。
「次の試練はこれからメンバーを選抜するから少し待ってもらえるか?」
「ええ構いませんよ」
「――それは必要なんですか?」
「……どういう意味だ?」
内心ほら来たと思ったことなど、微塵も感じさせずマティサの真意を問い質す。
「先程、その男が言っていたように若の実力は証明されているはずです。その上で、くだらないお遊びに付き合う必要があるのかと聞いているのです」
「お遊びって……」
ド直球な批判に、頬が引き攣るのを抑えられない。
さて、ここで一度は納得したことなのに蒸し返すのかというのは簡単だが、それで納得させられるかといえば無理だろう。
言いくるめるのが無理なら、より単純な手法を取るしかない。
「エボルはどう思うんだ?」
すなわち、なんとかできそうな人物に丸投げだ。
「普段行動を共にしない相手と動くことは確かに少ないだろう。だけど、ゼロじゃない。特殊な状況に陥りやすそうなお前ならそれぐらいわかるだろう?」
「ええ、わかりますよ」
思った通り、エボルに話を振ればマティサはよほどのことでない限り口を挟んでは来ない。
ならばと畳み掛ける。
「だったら、特殊な条件に慣れてみるっていう経験も必要じゃないか?」
「……わかりました」
答えたのは意外なことにマティサだった。
「……どうしたんだい?」
「あなたの条件を呑みましょう」
「…………どういう風の吹き回しだい?」
もっとごねるかと思っていたら、予想以上に素直に従うので面喰ってしまった。
「……別に。ただ、一度は納得した条件を勝手な都合で覆すのは義に反すると思っただけです」
「ぷはっ!」
言うに事欠いて、義に反すると!
しかも、自分が説得に使おうとした言葉を使われ、ツボにはまってしまった。
「わかった。状況は呑み込めないけど、受けてくれるならこっちとしてもありがたい。それじゃあ、すぐにメンバーを編成するから明日また来てくれ」
「……あまり若に迷惑をかけない人選で頼みますよ」
「任しとけって!」
「ぷ~ぷっぷ!」
エボルたちが退出し、一人きりになったエルジィはギルド長室で思い出し笑いを浮かべていた。
「いや~、それにしても笑える! あんな簡単に折れるマティサなんて滅多に見られるもんじゃないよ!!」
自分がエボルの実力を確認したいがために、マティサを言いくるめようとしていたら思いもよらぬ愉快な展開になっていた。
「よっぽど大切なんだねぇ……」
ひとしきり笑い続け、懐かしむように天井を見つめる。
思い出されるのは旅の思い出。
昔、マティサと旅をしていた時もこんなことがあったなぁと過ぎ去った時間に思いを馳せる。
「――入ってもいいですか?」
物思いにふけっていると、聞いた覚えのある声が聞こえてくる。
「……あんたは」
「ギルド長には、折り入ってご相談があります」
尋ねて来た人物を確認し、また面白いことが起きそうだと胸が躍るような気持ちになっていた。