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第2話 ミルルの森~救出

 

「す、凄いです! わたしもどうやって逃げたのかわからなかったのに……!!」

 自分のことを信じてくれたものの本当に見つかるとは思ってなかったミルフィーは興奮して今にも叫び出しそうだったが、予見していたマティサに口を塞がれる。

 ただ素人には何が起きたのか判断できないほどの早業は手慣れた感じがあり、再び捕まった恐怖をミルフィーに与えることとなる。マティサも大人しくなるまで話しかけもしないものだからしばらく恐怖で震えるのだった。


「中の気配を探ってみました。数か所に気配が分かれてるので断定はできませんが、位置関係から察するに人攫いだと思われるものは十数名それとは別に三名と推測されます」

 何でもないように……というよりはマティサにとっては本気でミルフィーのことは眼中になく話は進む。意外と精神的にタフなようでミルフィーはきょとんとしながらも「えっ? どうやってわかったんですか?」と無邪気に尋ねている。

 もちろん、マティサが問いかけに自発的に答えるわけもなく見かねたエボルが助け舟を出すことになるのだが。

「説明をしてあげて」

「かしこまりました。簡潔に説明するとこのように電波を飛ばして確認しました」

「ぴゃっ!?」

「どうです? ちょっとビリッと来たのではありませんか?」

「は、はい。ビックリしました」

「これが私の魔法【サーチボルト】です。もちろん、使ったのはもう少し弱めの気付かれない程度の威力ですが、目標に当たれば私には当たった物の形がある程度推測できます」

「はぁ~。なるほどです」


「人攫い以外って言うとやっぱりミルフィー以外にも捕まっている人がいた?」

「視認したわけではありませんので、おそらくとしか言えません。ですが、ほぼ間違いないでしょう」

 説明しやすいよう人攫いに見立てたバツ印を地面に描いていく。するとほとんどのバツ印が複数で固まっているのに対し、最後にポツンと離れた印が現れる。さらにその近くに三つ丸を。

「丸が捕まった人か」

「ええ、お判りでしょうが、この丸だけは随分と密集しています」

「縛られているのか、それとも身を寄せ合っているのか」

 バツ印との関係性から見張りがあり、捕まっていると考える要素としては十分だ。


「ど、どうやって助けましょう?」

 控えめな主張だった。だが、ミルフィーは真剣だ。

 自分も捕まっていた恐怖がある。当然、同じ場所に戻りたいとは思っていないが自分だけが助かればいいという考えも持てない。

 ミルフィーも自分に力がないことぐらいわかっているが、助けたいという思いは譲れなかった。


 エボルは思案する。助けられるなら助けるべきと考えているが、マティサは違うということも理解しているからだ。

 命令をすればマティサは従うだろう。だが、命令をしたいとは思っていない。エボルとマティサの関係は命令をする側とされる側で明確に区別できる関係より少しだけ複雑だった。今はエボルに従っているが、マティサが本来従うべき相手は別にいてエボルもそれは理解している。

 それでもエボルに命じられたり、危機が訪れればマティサは契約の下で行動する。そこにあるのは義務感でしかなく、マティサの個人的意思は反映されない。そんな風にマティサに無理強いするくらいならば見捨てるという選択肢も十分考慮する余地のある話だった。


 この場にミルフィーがいなければ、である。

 助けを求める者がいて、手を差し伸べられる場所にいる。そして力もある。ならば助けるのがエボルの信念だ。


「人質を助けるにしても、犯人に捕まったら意味がない」

「同時に人質がパニックを起こしても困るとなると、ミルフィーさんの協力が必要ですね」

「わたしですか!?」

 できることは協力するつもりだったが、いきなり白羽の矢が立ったことに驚きを隠せなかった。



「こいつ手間をかけさせやがって!」

「キャア!!」

「……ん? ああ、逃げ出した娘か。どこにいたんだ?」

「それがさっき小便をしに外に出たら、繁みで震えあがってたんですよ」

「カッ、逃げ出しといて運のねえ女だ。まっ、せっかく戻って来たんだからしっかり稼がしてもらうかな。おい、今度は逃げられねえようにしっかりと繋いでおけよ」

「へい! 他の奴らとぐるぐる巻きにしてやりまさ!」


「おらっ、さっさと入りな!」

「ひぐっ」

「ほれほれほれほれ!!」

 牢屋に押し込み、鎖を乱雑に巻いて転がすと満足した人攫いはそのまま仲間のもとへと戻っていった。

 後に残されたのは新たに加わったミルフィーを含めた四名。


「……大丈夫?」

「は、はい。ちょっとぶつけただけです」

「あなた、一回逃げたんでしょ? どうして戻って来たの?」

「わたしのこと知ってるんですか?」

「知ってるというかあいつらが騒いでたから。捕まえたのがひとり逃げたって」

「そ、そうだったんですか」

 それだけでなくこの狭いアジトで騒ぐ人攫いの声は普通に牢屋まで届くわけでミルフィーが逃げて怒り狂っていたのも、戻って来たマヌケを笑う声も当然聞こえていたわけだ。


「まっ、戻って来てくれてよかったわ。あんたが戻ってこなかったらあいつらに八つ当たりされるのはこっちだからね」

 だからこそ、捕まっていた女たちはミルフィーにいい感情を持っていなかった。ひとり逃げ出したこともだが、そのとばっちりを受けそうになっていたとすれば良い印象は抱かないだろう。

 特にミルフィーに話しかけているのは一番長く捕まっていたこともあり、人攫いの気性の激しさをよく知っていた。逆らったらどうなるのかも。


「あのっ、実は助けに来たんです!」

 だからミルフィーからこんな申し出を受けた時、イカれているから戻って来たのかと思ったのだった。





「それでは始めます」

 ミルフィーがわざと捕まってから少しして再度【サーチボルト】を発動させ小屋の中を探ると予想通りミルフィーの気配が三つの気配と合流した。

 これで中にいる人攫いとそうでない者が明確に分けられた。まさか犯罪者のアジトに出入りの業者などがいるわけもなく、いたとしてもさほど気にする必要もない。


『ギャアアア!』

 そうした確認作業が終わると合図のように野太い悲鳴が響き渡る。


「合図です!」

 なんとか助けに来たことを信じてもらおうと説得していたミルフィーは部屋の外から聞こえてきた声から作戦開始だと気合いを入れ、作戦通り小屋の外へと誘導しようと声を上げる。

「皆さん、逃げましょう!」

「何を言ってるのよ!?」

 だが、突然そんなことを言われても逃げ出せるわけがない。彼女たちはまだ真新しい恐怖に苛まれている。捕まった恐怖とそこで男たちに逆らったことで受けた罰への恐怖。

 そして、彼女たちを助けに来たミルフィーの存在はその恐怖を思い出させた。たしかにミルフィーが逃げたことで荒れた男たちが怖く、ミルフィーを恨みもした。だが、逃げ出せるもしかしたら助けを呼んでもらえるかもしれないという希望でもあった。

 それがすぐに戻って来た。助けるためと言われても捕まって連れ戻されたようにしか受け取れなかった。だから逃げられない。

「……っ、見てください!」

 彼女たちの諦めきった表情を見たミルフィーは意を決したように立ち上がり、閉じ込められた部屋の外へと駆け出す。何の抵抗もなく開いたドアから出たミルフィーは万歳を始めた。


『いいですか。おそらく捕まっている人たちはあなたが逃げると言ってもついてこないと思います』

 作戦の打ち合わせの時、マティサから伝えれたことだった。

 当然のようにミルフィーはなぜそんなことを言うのか理解できなかった。助けに来たと言えば無条件に信じられると信じていたからだ。


『まず第一にあなたが一度逃げている点。これは捕まっても逃げられないという印象を与えます。なのであなたが逃げようと言っても誰かは捕まると思ってしまうでしょう』

 あえて言葉にはしないが、ミルフィーが誰かを囮にして自分だけ助かろうとしているという風にも取られかねない。

『次に人攫いが無害化されたという保証がない。見えるところにいるならともかく密室に閉じ込められていたら説得にも連れ出すのにも苦労します』

 だからこそ、マティサは一計を案じていた。


「キャッ!」

 人質のうちひとりが悲鳴を上げて気絶したのだ。

 これこそが作戦。一回目の攻撃の後、変わった動きをしたミルフィー以外を気絶させて救出できることを証明するという力技。この時、人攫いが起きていたら咎めるような行動をすることも重要なこと。

 突如気絶したひとりと突飛な行動をするミルフィー。それに部屋の外で待機しているはずの人攫いが踏み込んでこない。これらが揃って初めて彼女たちは逃げ出す決心をした。


「皆さん、これは私の仲間の力です! だから一緒に逃げましょう!」

 好き放題やっているミルフィーについていくしかこの先は選択肢がないと今度こそしっかりと手を掴み逃走するために動き出した。

 

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