旧第15話 闘乳ソファーラの陥落
「――レイフォンティア、構えなさい」
「ん。わかってる」
ミルフィーをエンジェルマウンテン近くにある牛魔族の隠れ里へと送るべく、モンヒャーを旅立ってから三日目。マティサが発動した防御魔法に包まれたデミとミルフィーが急な展開に追いつけない中、脇の林から木々を掻き分けてそれは現れた。
「――疾ッ!!」
姿を認識されるよりも速く、成人した男性を吹き飛ばすほど力強く放たれた一撃は……メイドによって片手で止められた。
「なっ!?」
「……弱い、ね」
唯一マティサの張る結界に守られていなかったレイフォンティアは襲撃者の攻撃をつまらないものであるかのように感想を漏らすと、切っ先の向いた槍の柄を持ち襲撃者ごと持ち上げた。
「う、ウオオオオッ!?」
槍を通す力を伝えるために縮めていたせいもあって、まるで串の先端に団子が一つだけ残っているような状態で宙づりにされた襲撃者は困惑の声を上げるが、それを聞き届けるレイフォンティアではない。
「離して」
端的に用件だけを伝えると、邪魔な存在を落とすために上下に振って地面に数度叩き付ける。
「ウッ! ギャ、グエッ!」
地面に着いてから、再び空中に上がるまでの速さについていけずマヌケな声を上げる襲撃者が槍から手を離したのは結局十回近く上下してからだった。それも状況を理解したわけではなく、訳も分からぬままに必死にしがみついていた腕の力が抜けたからでしかなかった。
「……一体、何が?」
地面に仰向けになった襲撃者は激しい上下運動により、自分がどのような状況にいるのかもわからぬまま空を見上げる形となった。
「――それが残す言葉でいい?」
「ッ!?」
呆けていた頭が一気に冷静になる。
視界には先程まで握っていたはずの愛用の槍を構えるレイフォンティアの姿が映っている。
それを理解すると、襲撃者は諦めに似たため息を漏らし彼我の圧倒的な実力差を悟った。何かを言っても、何も言わなくてもほんの数秒の差で命が尽きることを。
そうなれば戦士として命乞いなどというみっともない真似は出来なかった。
「……構わない。殺せ」
「……そう」
これから命を奪うというのに、レイフォンティアが返したのは経ったその一言だけ。命を奪うことに慣れているというよりも戦士としての心情を慮り、恥をかかさないための短いやり取り。実力は足りなくても戦士としての矜持や覚悟は一人前に至っていたかと今際の際に思うことが出来たのは幸運だろう。
「待ってくださいっ!!」
例え、その覚悟がまったくの第三者によって阻まれようとも。
「……どうしたの?」
レイフォンティアは無粋な発言をした第三者を見つめる。それは普段通り、特に感情を込めていない視線だったが、状況が状況なだけにミルフィーはビクッと肩を震わせた。
「……待ってください、その人はたぶん私の知っている人です」
それでも懸命に勇気を振り絞って声を出し、槍が下りるのを確認する前に仰向けになっている人物の顔近くに膝を着いた。
「……やっぱり」
躊躇いつつも襲撃者のフードを外し、その下から出てきた特徴的な角を見て安堵のため息を漏らす。
「お久しぶりです。ソファーラ様」
フードの下から現れたのは、ミルフィーとは異なるが立派な角。牛魔族の証だった。
「……久しいな、ミルフレンニ。そうか、勘違いだったか」
一度は命を覚悟したが、ミルフィーがレイフォンティアを止めたこと、彼女自身が自分の正体を確認したことで勘違いに気付いたソファーラは起き上がるとレイフォンティアに土下座をした。
「先程は大変失礼いたしました。我はホルの部族、戦士が一人ソファーラ。一族を拐った犯人を捜し出し、救出を目的としており貴方様を犯人と勘違いしておりました。まさか、助けていただいた方だったとは……」
ここで話が終われば、勘違いの襲撃の範疇だったが、続くソファーラの言葉で数人が反応を変える。
「しかし、勝負を挑み負けたのもまた事実。この身を如何様に処分してもらっても構いませぬ」
「えっ……?」
「ほほぅ」
「…………」
「…………」
困惑するレイフォンティア、その態度と自身の目的から喜ぶマティサ、レイフォンティアに見つめられソファーラを見つめるエボルとそんなエボルを見てもしかしてトイレかなとまったく見当違いのことを思い浮かべるデミ。
四者四様に反応を見せるも、ソファーラはレイフォンティアの反応を窺っており顔を上げる様子はない。そのレイフォンティアも自分に判断が委ねられているとは思っていないので無視しており、頼りのマティサは笑みを浮かべるだけ。
《顔を上げてください》
埒が明かないので、エボルが【念話】を使う羽目になってしまう。
「……はっ?」
思わず言われるがままに顔を上げてからソファーラは周囲を見渡した。
声がしたから、そのはずなのだがその声が耳ではなく頭に響いたような違和感を覚えたのだ。
《すいません。驚かせてしまいましたか?》
「……!?」
間違いじゃない。レイフォンティア、マティサ、ミルフィーそれにデミ。全員の顔を見渡したが、誰も口を開いた様子はない。
だとしたら一体?
《ああ、すいません。デミ、少し前か横に移動してください》
「はい、エボル様」
前半はソファーラに、後半の言葉を受けたデミが横へずれるとようやくソファーラの視界にエボルが映り込む。
《どうもソファーラさん。僕は彼女たちの主、エボルと言います》
「…………か、可愛い」
あんぐりと開けた口から絞り出すように漏れ出た声に、ソファーラはハッとして口を押さえる。
《あぁ~、ありがとうございます?》
「い、いやっ、今のはなんでもないんだ! 気にしないでくれっていうかなんで赤ん坊の声がっ!?」
一応お礼を言った方がいいのかなと気を利かせたつもりだったが、ソファーラの羞恥心を刺激してしまったらしい。あたふたと手を振って誤魔化そうとする姿には戦士としての潔さや凛々しさというものは微塵も感じられない。
「ソファーラ様は、小さい子どもや可愛い物を愛でるのが好きな優しい方ですから。きっと、エボル君のことも気に入ったんだと思います!」
本人としてはフォローのつもりだったのだろうが、それでいよいよソファーラの羞恥心の臨界点を突破したらしく「ウオオォォ」と雄叫びを上げながら、頭部にある立派な角を使って地面に顔を埋めてしまった。
《……はぁ。レイフォンティア、彼女には悪いですが引っ張り出してください》
しかし、そうなると今後のことを話し合うことも出来ない。少々強引に引っ張り出されたソファーラは土を付けたまま、目線を逸らした状態で話し合いに臨むという奇妙な格好になってしまう。
《まず、先程の襲撃については特に咎めるつもりはありません。こちらが怪しく映るのは仕方ないと思っていますので》
本心としては襲う前に確認ぐらいしてほしかったところであるし、誘拐犯だとしたらほぼ女性だけで構成されていると本当に考えたのか聞いてみたかったが余計な手間が増えるので控えておく。
マティサからは弱みに付け込んで要求を通した方がという気配はぷんぷん漂ってくるわけだが、そういうのはミルフィーを送り届けてからでいいと考えていた。
エボルはまだ子ども――現在の見た目に至っては赤ん坊なのだから、あくどいことを考える必要はない。
「ですがっ……!!」
納得できないと声を上げようとして、エボルと目が合い慌てて逸らすソファーラ。このままでは本当に話が進まないとデミには抱きかかえるのではなくおぶるようにしてもらうことにした。そうすることでエボルとソファーラの間にはデミが入り、壁越しに話をしているような状況が出来上がる。
【念話】なので顔が見えている必要はないわけだが、近くにいるのに顔が見えない状況で話すというのは斬新である。
また、壁役に抜擢されたデミは複雑な表情を浮かべていた。
《……というのもですね、僕たちとしては言いにくいのですがあなたたちホルの部族と交渉をしたいと考えております》
エボルが言いにくいと言ったのは、ミルフィーを人攫いたちから奪い返しその返却に行った先で旅について来れそうな者の同行を願うことになるからだ。当然、同行をお願いするのはミルフィーやソファーラの一族の人間ということになる。
《内容はまだ明かせませんが、交渉の場で有利にことを進めるためにソファーラさんからの謝罪は保留という形にさせてもらいたいんです》
「交渉と言わずとも、一族を助けてくれた恩人からの申し出ならば喜んで引き受けますが……?」
《それはソファーラさん個人なら出来る範囲のことでしょう? 僕たちの頼みたいことはホルの部族全体に関わることかもしれませんよ?》
「それはご安心ください!」
自信満々だが、その根拠はどこにあるのか?
「エボルさん、私も大丈夫だと思いますよ? こう見えて、ソファーラ様はホルの部族、現族長の娘なのです」
「……こう見えてって」
ミルフィーにはソファーラがどう映っていて、エボルたちにどのように見られていると思っているのか甚だ疑問である。
《ミルフィーの言ったことは本当ですか?》
「……あぁ、間違いない。とは言え、我は六人いる娘の中の一人に過ぎないがな」
「六人……!? 多いですね」
「そうか? ……そういえば人間は少産だったか。我々は子を産む者は早々に産むから、生涯に授かる子の数は多いのだ。かくいう我の母も十を過ぎた頃には一人目を産んでいたらしいからな」
「……それは」
種族的に問題はないのだとしても、社会的に問題がある。
十を過ぎたばかりの少女に子どもが出来るような行為をさせるなど、かなりのロリコンじゃないか。
「それだけではありません。ソファーラ様は、女性では数少ない戦士のお一人。戦士団の中でも実力は指折りで、その発言力は無視できないものがあります」
「……戦士?」
「負けた後では恥ずかしいが、一応戦士として役割を担っている」
《失礼ですが、戦士かそうでないかはどのように決めておられるのですか?》
目の前の二人を見比べてみても、ミルフィーが戦えるタイプの人間でないことはすぐにわかる。華奢であり、筋肉も普通の町娘などと変わらない。
あと、これはソファーラも同様……ミルフィー以上なので関係ないだろうが、動き回るのには邪魔な巨大な二つのコブが存在を主張している。
ただ、実際は見た目でわかる違いだった。
「簡単なこと、この角ですよ」
《角……?》
指差された頭部には彼女たちの種族の特徴とも言うべき立派な角がある。
ただ、それだけでは何が言いたいのかはわからない。
「おや? わかりませんか?」
《……すいません僕にはさっぱり》
「……私も」
「残念ですが、わたくしもですね」
最後の一人、マティサはというと考え込んでいるようだが確証が持てないためか言葉にはせず首を横に振っていた。
「……そうですか?」
少しがっかりしたようにわかりやすいと思うんだけどと言いつつ、あっさりと答えを教えてくれた。
どうやら角の形が巻き角かそうでないか、それが重要らしい。
「どういうわけか、巻き角でない者は訓練をしても戦士としての才能が伸びにくいようなのですよ。ミルフィーはまだ幼い方なので角はもう少し伸びると思いますが、こればかりは生まれつきなモノなので……」
「巻き角の子どもは戦士としての教育を受けて、そうでない子どもは技術を学んだり知識を得たりして一族に貢献するんです」
一般的に男性は八割が戦士として生まれ、女性の九割は非戦士として生まれるらしい。
「なので、よっぽど無茶なお願いじゃなければ聞いてもらえますよっ!! 私からもお願いしてみますね!」
大丈夫と言ってくれるミルフィーには悪いが、割と無茶なお願いをする予定だとは到底言えないと思うエボルたちであった。
◇◆◇◆◇
「皆の者、帰っ――」
「うわあああっ!! ソファーラ様が子どもを攫って来たーーー!!」
ソファーラと合流してからさらに数日後、牛魔族の男性による悲鳴にも似た絶叫によって迎えられた。
「ぬぅあにぃ!?」
「いつかやると思っていたが……、本当にやるとは!」
「ソファーラ様、その子どもにも愛すべき両親や家族がいるのですぞ!!」
「いくら子どもや可愛い物が好きだからと言って限度がありますっ!!」
「い、いやっ! 違うぞっ!? 落ち着け!!」
予想外の展開に弁明しようとするソファーラだったが、一族からの糾弾は止むことはなく一層激しさを増していく。
「何が違うと言うのですかっ! 現に子ども攫って来ているではありませんか!」
「私たちは乳の出が悪い母親にミルクを分け与えることはあっても、母親に変わることはないのですよ!」
「だから違うと言っておろうがぁ!!」
「――騒々しい」
「ち、父上!? 丁度良かった、父上からも何か言ってやってください!」
ようやく話の分かる人物が出て来たと駆け寄ったところ、ソファーラの頬にパアンと痛みが走る。
「……へっ?」
痛みこそあったものの、大した衝撃ではなかった。
それは腕に抱えているエボルを気遣い力加減をしたためだったが、ソファーラは信じられないあまり強烈なショックを受けていた。
「恥知らずめが、早々にその子を親元へ返すのじゃ」
「……ちち、うえ」
「黙れ。子を攫ってくるような娘を持った覚えはない。そして、そのような者を戦士に据えておいた覚えもないっ!!」
空気が緊迫し、状況が待ったなしとなったその時、ついに沈黙を破る者が現れた。
《――横からすいません。少し、話を聞いてはもらえませんか?》
何を隠そう渦中の赤ん坊だった。
抗議のために泣き声ではなく、【念話】で強引に割り込むのはそんじょそこらの赤ん坊では出来ないことだろうが……。
「いやっハッハッハ、そうかそうか私は信じていたぞ。ソファーラが子を誘拐などするはずがないではないか!」
「長、それはあんまりです! 我々だって普段のソファーラ様ならば信じておりました」
「ええ、ええそうですともっ! そりゃあ、たまに危ないなと思うことはありますが……」
「……その上、最近は村の者が攫われたこともあって気が立っておりましたからなぁ」
「であろう? 私もそれが気がかりだったのだ。まさか単身で助けに行くとは……」
「戦士としては優秀であっても、まだまだ若いですなぁ」
「然り然り」
「――言い訳はそれぐらいでよろしいか?」
「まっ、待てソファーラ! 客人の前である!!」
「大丈夫です。あれだけの醜態を晒しているのですから今更……」
「本当に待てっ! 一体何があったというのだっ!?」
エボルとの出会いを知らない者たちは自暴自棄気味なソファーラに恐怖を覚えて逃げ惑う。
エボルからの説明を受けて立場はまさに逆転していた。
《……まあ、ソファーラさんがどうしても抱いてみたいと言わなければこのような騒動にはならなかったのですがね》
追い掛け回すソファーラの腕の中でそう漏らすエボルだったが、幸いにもその声は暴走するソファーラには届かなかったようだ。
実際、村に入る直前まではデミが抱いていた。
『あ、あの……実は前々から気になっていて、そのエボル……殿を抱かせてはもらえないだろうか?』
口ごもったのはソファーラの中で未だにどう呼ぶかが確定されていなかったからと緊張していたから。
《いいですよ》
そんなことを気にしないエボルは快く了承し、渋るデミの腕からソファーラへと渡された。
するとソファーラは完全に有頂天になり、気分よく森の中道なき道を進んでいく。
それこそ案内もなく初めて訪れる場所になるマティサたちには不慣れな道もぐんぐん進み、集落に辿り着いた時にはかなりの距離が開けていた。
ソファーラの興奮、マティサたちがミルフィーに合わせて行動するという悲劇。さらには一族の暴走に近い勘違いがなければ今の状況は生まれなかったと言っても良い。
「……あのっ、一体何があったんでしょうか?」
遅れること数分、結局このままでは埒が明かないとレイフォンティアがミルフィーとデミを抱えて猛追してようやく追いついた時には一族の糾弾もエボルの説明も終わっており、久しぶりに帰ってきた故郷の騒々しさに面食らうミルフィーであった。
「……変人ばっか」
【念話】によって状況説明を受けたレイフォンティアは牛魔族はこういう種族なのだと誤解することになるのだが、誰もそれを正す言葉を持っていなかった。
「……んっ? お、おいっそこにいるのはミルフレンニじゃないか!?」
「えっ!? ミルフレンニ!?」
「あの攫われた?」
ちなみにミルフィーが仲間たちに気付いてもらえたのは、ソファーラが一通り追い掛け回し数人がたんこぶを付けてからだった。
◇◆◇◆◇
「――改めて一族の者を助けていただいたこと、感謝いたします」
「「「ありがとうございました!!」」」
《……気にしないでください》
ただでさえ赤ん坊の前で一斉にひれ伏すとか変な光景なのに、頭を下げられると出来立てのたんこぶが強調されてなんとも言えない気まずさを感じる。ついでに言うと、彼らが頭を下げるということは同時に頭頂部に生えている角の先端が向くということで……これはもしかしたら無言の圧力なのだろうか?
「父上、エボル殿はまだ幼子。そんな風に堅苦しい謝罪では居心地を悪くされます」
「そ、そうか? だが、本来ならばこの程度ではまったく意味がないと思うのだが……」
《とりあえず顔を上げてください》
話が出来る出来ない以前の問題で武器を向けられているようでたしかに居心地が悪い。主に控えるマティサとレイフォンティアがいつその角をへし折りはじめないかという点で。
《道中、ソファーラさんには伝えましたが僕たちは無償で助けたわけではありませんので、そこまでされると居たたまれなくなります》
「そうでしたっ! 父上、エボル殿は何やら我らに頼みたいことがあるそうです」
「……わかりました。どのようなお話かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
《はい。ただし、初めはソファーラさんと……ええっと長さんのお名前は?》
「おおっ、これは失念しておりました。私はトーギヌスと申します」
《では、ソファーラさんとトーギヌスさんにまずお話したいと思います》
《……さて、無理を言って申し訳ありません》
長の家、つまりはソファーラの家に案内されたもののどこから話をしようかと考える。
体質のことを言わなければならないのはわかるが、今告げたところで本当に理解してもらえるか。それが最大の問題だった。
「若、説明を私にお任せくださいませ」
《そう? じゃあ、任せるよ》
「私はマティサと申します。若のお父様にお仕えしている者です」
マティサに任せて後ろに下がったエボルは長時間の【念話】で魔力を消費したことと、説明をしなくて済んだ安堵で急激な眠気に襲われ、マティサの声を子守唄代わりにゆっくりと意識を手放したのだった。
「若が頼みたいことというのは、牛魔族の方々にしか解決できない問題でして――」
「うっ、うう……ぐすっ」
「そのような過酷な運命にあるとは……!」
目を覚ましてみれば、説明をしただけとは思えない異様な雰囲気だった。
「あっ、エボル様目覚めましたか?」
《……うん、これどういう状況?》
就寝前は日が差していたはずなのに、薄暗い室内。どれだけ長い間説得をしていたというのだろうか?
「凄かったんですよ……」
感慨深げに語るデミが言うには、マティサがエボルの今までをそれはそれはオーバーに説明してそれに引き込まれるようにソファーラとトーギヌスも熱狂。最後には感極まって泣き始めたのだという。
《えっ……? どういう風に説明したらそうなるの?》
肝心な部分は言えたのだろうか?
あと、隠すべきところは隠しているかな?
「決めましたっ!! 父上、我は何がなんでもエボル殿に同行し、恩を返すために忠義を尽くしたいと思います!!」
「よくぞ言った!! それでこそ、私の娘いやホルの部族の戦士じゃあ!!」
「父上~!」
「娘よ~!!」
なんだかんだと変な風にまとまっていた。
「……ふふっ、計算通りです」
《……マティサ》
エボルたちにだけ見えるように後ろ手でピースサインを送るマティサに、やらかしたなと疑いの眼差しを向ける。
「……そう言えば、結局のところ私たちへの要望とはどのようなものだったのでしょうか?」
「あっ……」
どうやら会った時からソファーラの態度に感じるものがあり、彼女を落とすことに夢中になるあまり目的を伝えるのを忘れていたらしい。
このあと、エボルが説明を補填してソファーラの同行はホルの一族を上げて歓迎して貰えた。