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dreadnought/ドレッドノート  作者: 有角弾正
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北斗の星

     第五話 北斗の星




 ムラマサ「そうだな。ま、色々やらせたが、俺様が一番確かめたかったのはなー。


 お前のその左手が出せるのは、アリモノだけなのか?っつーことさ。」


 タバコの指で、俺の左拳を差した。



 「は?アリモノ?えっ?何だそれ。

ありんこ?虫か?どーいうことだ?」


 全く!

こいつは次から次に妙な事ばかり言いやがる。



 ムラマサはシルクに蒸れたか、頭を掻きながら

「ヌハハハハ。河村、お前面白いなぁ、ありんこは全然関係ない。


 あのな、よく聞けよ?

今までお前が出してきたのは、入手が容易か困難かは置いといて、世の中に在る、既に存在しているモノな訳よ。


 氷にしろ蛙にしろ、デリンジャーにしろ、な?


 つまりは、アリモノってこった。」



 隣の虎南は、そうそう、と言わんばかりにうなずく。



 「アリモノって、そういうことか。」

要するに現実に存在するモノって事だろ?……変な言い方すんなよな。



 ムラマサ「そこでだ!」

ヒョウ柄の膝を叩き、俺を指差した。



 「今度はお前に、今までみてーな既成のモノではなく。


 う~ん……そ!

もっとファンタジー?

SFつーの?


 何かそーいう感じのモノを出せるかやってみて欲しいわけよ。」


 ムラマサは自分の言葉に何度もうなずきながら提案してきた。



 「あぁ、何となく分かった。そりゃ構わねーけど、例えば、どんなのだよ?」


 想像力に乏しい俺は、この新しいジャンルに少し不安になる。


 誰も責めなどしないが、成果なしはガッカリする。



 ムラマサ「んー。何が良いかなぁー。

お前の左手、一見万能なよーで、掌サイズっつー制限があっからなぁ。


 ふーん……どーせならー。

こう、血湧き肉躍るよーなー、夢叶えるスゲーもんが良いよなぁ…。」


 銀髪の美男は、思案顔でこめかみ辺りをトントン叩き、その指を下げ、今度は頬をトントンし、煙の輪っかを連続製造する。



 虎南が大きな手を小さく挙げる。



 ムラマサは無表情で「はい虎南君。」



 虎南「ウム。夢、と言えばだな。


 俺の父親は昔から洋書、マンガのコレクターでな。

俺は絵本代わりによくその手のヒーロー物コミックを読んだものだ。


 勿論、台詞は英語。細かい設定、内容は少しも分からなかったがな。

だが、ヒーロー達の活躍は画で分かる。


 で、そのうち俺は鍛え上げられた鋼の肉体の無敵のヒーロー達に憧れ出してな。


 自分なりに身体を鍛え始め、ジムの存在を知り、筋肉の増強を加速させ、今に至る。というわけだ。


 そうして鍛え続けた結果、ある程度の筋肉は身に付いた。


 だが、ある日気付く。

どんなにヒーローに憧れ、トレーニングを重ねようとも人は人。


 当たり前だが、常人の千倍の腕力も、どんな攻撃、弾丸をも跳ね返す鋼の筋肉も、所詮はコミックの中の話、手には入らん。


 結局、俺は巨大な、現実という壁に阻まれ、立ち尽くすしかなかったのだ。


 しかしだ!今日、その巨壁を壊せるかもしれん!


 河村!お前のその力でな!」


 カッと目を見開き、既に充分人間を超えているように見える男は俺を見据えた。



 ムラマサはあんぐりと口を開け、だらしなく紫煙を昇らせ

「虎ぉー南ー。とりあえず長ぇーよ。


 じゃアレか?河村に無敵のバトルスーツでも出してもらおうってか?


 掌サイズっつー制約があんだろ?

お前が着るような特大サイズのスーツなんか無…」


 虎南が大きな掌でさえぎる

「ウム、それは無理だ。

だから、俺が出して欲しいのは、無敵のヒーローになれるタブレット錠剤だ。


 飲めばたちまち千人力、どんな攻撃も跳ね返すミラクルマッスル!


 それでいて時間制限も副作用も一切なし!


 フムッフウ!!


 河村!いやさプロフェッサー河村よ!

頼む!やってみてくれいぃ!!!」


 鼻息で俺の目の前のグラスが曇りそうだ。



 誰がプロフェッサーだよ…。



 俺は呆れて、ムラマサを見た。


 ?


 なんと、こっちも興奮してた。



 ムラマサ「なっるほどー!ま、錠剤一粒で色々と都合が良すぎる気もするが、

そこんとこがSF、ファンタジーかー。


 クッソ長ぇーお前の話、聞いたかいがあったぜ!


 よし!河村、えーっと筋力は千倍、どんな攻撃も跳ね返す身体になる副作用のないタブレットだ。


 ま、アリモノじゃねーからやりにくいだろ、モデルはこれにしろ。」


 スキニーのポケットからミントタブレットを出した。



 俺は「ま、ダメ元で、一応やってみるか。」

うなずくと、錠剤の効能を復唱しいしい、左手を握った。



 結果、出るには出た。



 ムラマサは口元を平手で覆い、眉をひそめ、じっと俺の出したタブレットケースを見つめている。



 虎南は震える手で、そのタブレットケースを手にする。

手のひらデケーし、分厚いなー。


 そのままキッチンに歩き、蛇口を捻り、グラスに注ぐ。


 俺とムラマサは、期待と、それよりも一回り大きな不安を胸に、目で追う。



 虎南が感極まったように

「つ、遂にこれで俺の長い旅が……報われる。


 常に限界まで自らを追い込み、筋肉が肥大する喜び、確かにそれはあった!


 しかし、決してヒーローには届かないという現実、それは大いなる壁として我が眼前に……」



 ムラマサ「おい!虎南!長旅の終着駅で感動してるとこ悪りぃけどよ、それさっきビミョーに聞いたし。


 早ぇえとこ始めてもらっていーか?」


イライラを噛みしめ、旅人を指差した。



 虎南「おぉ、すまん。つい、な。

ではいよいよ!スーパーヒーロータブレットが我が唇に!


 強き身体に産んでくれた母よ!ありがとう!

夢を与えてくれた父よ!ありがとう!


 本日、歳三は人生の新たな章へと突入しま……」


   

    俺、ムラマサ「虎南!」



 虎南「ウム、すまん。」


 

 ヤロー、やっと飲みやがった。



 胸に手をあて、目を閉じ、天を仰ぐ筋肉男。

はぁ、何だか馬鹿馬鹿しくなってきたな……。



 ムラマサが三十秒ほど固唾を飲んで静視していたが、待ちかねたように

「虎南、ど、どうだ?!」



 虎南は極太の親指を立て

「ウム、ミント味だ。」



 俺は「いや、そこじゃねー!!」

思わずつっこんだ。



 虎南は天井を眺めるように右上、左上を睨み

「特にヒーローになった実感、湧き上がるようなパワーは感じない、な。」


 眼前で大きな両拳を握り、開く。



 ムラマサはパシンッ!と掌で額を覆い

「アララ、俺がアリモノのタブレットケースを渡したのが不味かったかー。


 きっと河村の中でのイメージが既成のケースに全部持っていかれたな。


 それか、始めっからその左手じゃー、アリモノしか無理だったか…。


 ま、仕方ねぇ。


 河村、お前のせいじゃねぇんだ。気ぃ落とすな。

中々のもんだぜその手…」



 ま、そんなもんかもな。

俺は、コイツ、慰めの言葉もタバコ臭ぇなぁと思いながらうなずいた。


        

        ドンッ!



 な、何の音だ?!

俺は音がした方を振り向いた。


         ん?


 見れば、虎南が右手の人指し指を冷蔵庫の扉に突き入れてるじゃあないか!


 「うおーーい!!てててて、てめぇ!何すんだよ?!


 あー!!俺の大事な冷蔵庫にーーー!!!」

俺は激昂した。



 しかし虎南は振り向きもせず、続けざまに


     ドン! ドドン!


 最後は右手の、その親指を除く四本の指をを突っ込みやがった!!



 俺はキッチンにダッシュした!!


 「こらぁてめぇ!!俺の冷蔵庫に何か恨みでもあんのか?!あーあー……」


 少し前にムラマサが放ったデリンジャーの弾痕、そして今追加された、虎南の指で穿たれた新たな穴達。


 ……俺は呆然とそれを眺めるしかなかった。



 「んこらぁーー!何で北斗七星になってんだよ!!


 あーあー!これ絶対酒冷やせねーよ。

なぁに考えてんだよ!!」

俺は泣きそうになった、いや泣いた。



 虎南「ウム。すまん、実験だ。

     新しいの、買え。」



 「うるせー!何だよおいー!何で毎度俺の冷蔵庫が被験体なんだよ!いい加減にしろぉー!!」



 ムラマサは膝まづく俺の肘を引き


 「おい河村!今は冷蔵庫ごときで落ち込んでる場合じゃねーぜ!


 よく見ろ、普通人間が指で冷蔵庫の扉にスポスポと(あな)を空けられっか?」


 興味深気に弾痕等を撫で、眺める。



 「ちきしょー!俺の酒冷やしマシーンがぁ~。


        はっ!


 た、確かに!じゃあ実験は成功したの、か?」


 虎南を見る。



 無言でゆっくりとうなずくニューヒーロー。


 くっそー!ムカつくなぁその笑顔!!!


       

       

 カチャリ!



 嫌な、音がした。



 振り向くと、デリンジャーを構えたムラマサ。


 「虎南、良いな?」



 「え?!何が?!何が良いの?!ちょっ!マジ勘弁してくんない?!

お前達我が儘プレーが過ぎるぞ!!」


 二人に挟まれた俺は、前に後ろにと忙しく首を振る。



 虎南が「ウム。今、正に頼もうと思っていた所だ!ムラマサ!来い!」

招き入れるように、両手を大きく開く。



 ムラマサはニヤリと笑い

「もしこれでお前が死んだら、弾はある。

俺も直ぐに行く……」


 銃は徐々に上がり、遂に銃口は虎南の額にポイントされた。



 「っ!ちょっと待てぇー!

何するつもりだよ?!危ねぇから止めろ!

死んじゃうだろソレ?!


 虎南も何悟ったような顔してんだよ!


 お前ら!人ん家のキッチンで勝手に覚悟決めてんじゃねーぞ!!!


 おーい!頼むから止めてくれー!!」


 俺は叫び、夢中でムラマサの銃を引ったくろうとした。


 ムラマサはサッと俺から銃を遠ざけ

「まぁ落ち着けって。


 もしこれでお前の左手の力が、アリモノを超える、超ゴッドだと証明されたなら、

どんな病気もたちまち治し、失った身体をも復元させる薬から、

亡くなった家族をも生き返らせる懐中電灯まで、それこそ何でも出来る!


 世界の悲しみの涙を、そのまま全部、喜びの涙に変えられるかも知れないんだぜ?」


 なるほど、台詞は感動的だが、眼が笑ってる。


 こいつ、絶対嘘だ!只の好奇心ですよコレ!



 「いやいやい……」


    

   

    パン!キンッ!ドスッ!


 銃声!


 ひっ!俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。



 撃った!また撃ちやがったぞこいつ!!

イカれてんのか?

マジか?!信じらんねえ!



 俺は片目を開き、恐る恐る虎南を見上げた。



 ケガは?!

どこに当たったんだ?


 虎南の雄牛のような身体を見回したが、

どこにも銃創は、無かった。



 ムラマサ「フー。河村、おめでとう!お前は今日から超ゴッドだ。」


 本日二度目の間の抜けた拍手が贈られた。



 虎南が勝手に俺の手をとり、涙を流し握手をしてきた。



 「痛だだだだだ!!」こいつ万力かっ?!



 虎南「おぉすまん河村、いやさプロフェッサー河村よ!」



 うるせー!さっきからプロフェッサー、プロフェッサーってそれなんだよ?!



 はっ?!こいつが無傷、ということは、デリンジャーの弾は?

そう!跳弾は何処へ?



 うぁあぁあーー!!

俺は頭を抱え絶叫した!



 「また冷蔵庫かよ?!


 テメーら冷蔵庫に親でも殺されたのかよ?!!

ホントいい加減にしろーー!」



 俺は叫んだ、それこそ喉が痛いくらい叫んだ!



 なんと、冷蔵庫の北斗七星の脇には、不吉な弾痕の星が追加されてれていたのだ。



 「うがぁーー!も、ダメだ!

この冷蔵庫終ったー!


 この星が刻まれたら最後、もって一年だよコレ!!あーー!!」

俺は頭を抱えてへたりこんだ。



 ムラマサ「スゲー!スゲーぞ!

火力最弱とは言え、デリンジャーも一応拳銃。


 なのにほれ、河村!虎南見ろ、傷も付いちゃいねー!

んー、ここまでうまくいくとは思わなかった!!


 こここ、いつは金になるぜぇーー!!


 いや!金どころじゃねー!世界征服も容易いぜーー!!よーし!よーし!よーし!」


 チャラ男は小躍りし、歓喜の叫びを上げた。



 ほらな!ヤッパリこいつは世界の悲しみを消すとか、そんな立派な人間じゃない!


 ま、俺も金を造ったり、似たようなもんか……。


 しかし……。



 虎南「ウム。だが、こういう事には念には念を入れて、だな。


 プロフェッサー、ここは確か5階だったな?ちょっと行ってくる。」

ムカつくヒーローは訳のわからない事をのたまい、ベランダへ向かう。



 ムラマサ「おう!虎南、ついでに酒買ってこい!酒!」

手を口に添えて叫んだ。



 はぁ?

五階?そらそーだけど?


 ちょっと行ってくる?



 ま、さ、か!

俺は青い顔でベランダに向かう。


 虎南はすでに空の人になっていた。

そう、無敵を証明するために。


       

       ドスン!!



 あぁ、もうダメ、無理!

俺はコイツらにはついていけない。


 ベランダから下を確認したくもない。



 一体どーなってんだ、コイツらの精神構造は。




        15分後。



 光輝くような笑顔で、少しだけ服がほころびた虎南が帰ってきた。


 どうやらコンビニで大量の酒を買い込んだようだ。


 酒なんか造れば良いだろ?勿体ねぇ……。

あぁ、金も造りゃいーのか!


 ハン!ま、どーでもいーや。



 俺は興奮した二人の乾杯と挨拶を聞かされ、5本目の缶ビールを空けた頃、

ようやく冷静に自分の能力の素晴らしさに感心し、両手を見下ろしていた。



 普段呑めないムラマサが飲んでいる。


 まるで猿のような赤い顔で

「いっやー、最っ高の気分だぜー!


 河村!俺はお前がツレでホントに良かった!

これからは何でも思いのままだ!


 ま、ゆっくりと俺たちの輝ける今後について語らおうぜ!」


 本日数回目の乾杯を強要してきた。



 ムラマサはトロンした目で

「んー。先ずはー、どんな病気も完治させる神薬を出してだなー。


 んでもって、超金持ちのセレブ、権力者達だけに売るー、とー。


 ヌハハハハ!奴等どんな法外な価格でもすっ飛んで来るぜ!

こりゃ整理券でも作っとかなきゃなー。


 ふーん、先ずは、その極秘闇販売ルートの確立からだなぁ……。」

1人でにやけ、勝手な算段を立てるムラマサ。


 ま、変に頭の回るヤツだ。

金儲け関連なら、コイツに任せとけば安心だろう、フフ……。


 いやいや、そんなスゲー薬、テキトーに造っちゃって世の中メチャクチャになんねーのか?



 俺が酔った頭で、喜んだり、不安になったりしていたその時、玄関のインターホンが鳴った。


 俺は不意を突かれた草食動物のごとく、ビクッ!となる。



 ムラマサ「ん?あぁ、安心しろ。

ピザだピザ、流石に掌サイズじゃもの足りねぇからな。


 忘れたのか?さっき頼んだろ?」


 銀髪の美男は、ゆっくりとソファから立ち上がり、

俺のスポーツバッグの一万円札の山から1枚つまみ、ヒラヒラさせながら、フラフラと玄関へ向かう。



 何だピザ屋か!スッゲー腹へったし、丁度良い。



 ムラマサが鍵を開けようとドアに手をかけた。


 その時、外から声がした。



 「こんばんは、初めまして。

エイリアンだ。開けてくれ。」


 声優みたいに渋い、男の声だ。



 俺はそれを聞いて、少しムッとし

「ぶっきらぼうなピザの配達だなー。

変わった名前だし。

何だよ、ピザエイリアンって。


 おいムラマサ、早く開けて上げれば?」

玄関で立ち尽くす銀髪に言った。


 俺は早くピザが食べたいのだ。



 ムラマサ「いや、こんな名前のピザ屋はねぇ……。」真顔でこちらに向き直り、テーブルのデリンジャーを手にし、弾丸を装填する。



 「えっ?!」



 ドアの向こう側「ふむ、エイリアンでは通じんかね?


 んー、他の表現では……。


 そうだ、異星人、異星人ではどうだ?


 この薄い扉を焼き切るのは簡単だ。

だが、出来ればもめ事にしたくない。

どうだろう?ここは素直に開けてはもらえないかね?」


 外からの落ち着いた声に、俺は落ち着けず、鼓動は早鐘の如く激しくなった。



 「い、い、い、いせーじん?!」


 正か?


 俺は手首、ムラマサを見、



      「やっぱり?」



 でも、自分でエイリアンとか名乗るエイリアンなんかいるか?




 くぅ~、本当に次から次に何なんだよー!!

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