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dreadnought/ドレッドノート  作者: 有角弾正
3/6

デンジャラスデリンジャー

 第三話 デンジャラスデリンジャー


  

   

 俺はキッチンにダッシュした。


 「コラ!ムラマサー!!お前これどーすんだよ!俺の家財の中では一番高級なんだぞこれ!


 あーあ!コレ酒冷やせなくなったらどーすんだよ!!なに考えてんだよお前ぇーー!」



 俺は冷蔵庫に穿たれた弾痕に呆然とした。


 女物のパンツを被ったムラマサは、ガンスモークを吹きながら

「新しいの、買えよ。」


 

 こいつーー!!


 やっぱりコイツら部屋に入れるんじゃなかったぁー!!


 今更ながらに俺は猛烈に後悔したが、後に立つのが後悔だ。




       ー少し前ー



 ビリヤード玉大の氷が床を転がり、タバコにぶつかり、ジュッ!と音を立て、その火を消した。



 ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイーーー!



 スンゴイ見てるー!



 虎南「おい、ムラマサ……。今から少し、変なこと言うぞ。


 良いな?落ち着いて聞いてくれ。


 今、河村の左手から氷の玉が出たように俺には見えたんだが……お前も、そう見たか?」

ピッチリした黒い長袖のビルダーみたいなのが俺を真正面から凝視しながら言った。



 隣の銀髪の美男子は目を細め、同じく俺をじっと見ている。


「んー……そうだな。


 でも、どー考えても、こいつは手品なんか出来るほど器用じゃない…。


 今日のコイツ、何か変だ。」



 ムラマサがティッシュ箱を手に取る。


 あっ!と言う間もなく。


 当然、鮮やかな緑の両生類がうずくまっている。


 

 虎南「うん?カエル、の箸置きか。」

腕組みで少し身を乗り出す。


 ムラマサ「いや、箸置きはトクントクン脈動したりはしねー。

虎南、こいつは青蛙っていうんだ。


 普通、冬の今頃、大学生のアパートに住んでる生き物じゃねー。」



    あぁー!ヤバイーーーー!




 「虎南、空けろ。」

ムラマサの目が据わっている。


 隣の筋肉オバケが黙ってうなずき、一度だけ俺の顔をうかがい、容赦なくスポーツバッグを開く。



 あぁ終わった。

はい、出ましたお金の山。



 二人の瞳孔が開いていく。


 ムラマサは新しいタバコを出して火を着け、一服すると。


       カキンッ!


 とライターの蓋を閉じた。


 俺はその音にビクッと首をすぼめた。


 「フム。河村君、さぁ君のターンですよー。説明を始めて下さい。」

唇を横に寄せ、誰も居ない方向に紫煙を吐いた。



 くっそー!こうなりゃ、もう逃げられねえ!



 「分かった!分かったよ!あらいざらい話してやる!

ただし条件がある!


 1つ、今から話す事は絶対に人に話すな。

 2つ、話の最後まで嘘だろ?って言うな。

 3つ、お前、病院行けって言うな!

どうだ!守れるか?」

俺は一気に捲し立て、三本指を立てた。



 ムラマサは細い片眉を上げ。

「まっ、そちらさんの品、次第だな。

今の俺達を納得させるに足るか、だ。」


 隣の岩もうなずいた。


 クッソ!


 俺は早朝の謎の外国人との遭遇から、この二人が来るまでを、身ぶり手振りで全て話してやった。



 「以上だ。プレゼンを終る。」

冷めきったコーヒーをあおった。


 あれだな、コーヒーってのは喉乾いた時に飲むもんじゃねーな。



 虎南「フム。どーだ?ムラマサ。

確かに奇妙な話ではあるが、物語に妙な整合性はある、と思うが。」



 当たり前だ!全部ホントなんだからな!



 ムラマサは膝の上に頬杖をついたまま。

「あぁ。こいつには強盗をする度胸も、ペットショップでカエルを買って机に置いとく洒落ッ気も、あんなデカイ氷を掌から出すほどの器用さも無え。

おまけに一人の彼女も居ねぇ。」

言い捨て、最後に笑った。



 「うるせー!彼女は関係ねーだろ!!彼女はよー!!」

俺は激昂しムラマサを指差した。


 「それより絶!対!に誰にも話すなよ!

大変なことになるからな?!」

能力の他言は俺の命に関わる、しっかりと念を入れておく。



 虎南が、雄牛のような身体を揺すり、笑った。


 ムラマサも吹き出す。

「言わねーよ!つか第一誰が信じるよ?こんなやっすいSFみたいな話!

まっお前のプレゼンテーションはギリ合格だな。

敢闘賞、みたいな感じか?


 あとはあれだ、プレイの方だな、ここで俺達の前でやってもらおうじゃねーか。

そのゴッドハンドプレーをよ!」

痩せた左手を俺に向けヒラヒラとかざす。



 ま、そうくるよな。



 「良いだろう!じゃあ、もう一回氷を……。」

左の袖から手首を前に伸ばす。


 「待て。」

ムラマサが止めた。


「万が一お前が本当は凄腕のマジシャンだった場合を考えて、出す物はこちらが指定する。

そうだな……予め用意出来ない様な物……。


お前が買ったり、貰ったり出来ないものだな。」

思案顔で紫煙を登らせる。



 「おい、何でも良いけど、掌サイズじゃないとダメっぽいからな?」

俺なりに、何となく分かった能力の制限を教えてやる。



 ムラマサ「分かった。」

タバコを持った右手の親指で顎を押しながらうなずく。



 虎南がまるで小さく宣誓するように手を挙げた。


 顔はこちらでムラマサ「なんだ虎南」



 虎南「ウム。それなら、プロテインとかどう……」



 ムラマサ「アホか?!俺達ならお前がそれ言い出すの予想するのは簡単だろ?

そりゃねーよ!多分腋テロ長でも分かるぜ。」

うんざり顔で喚いた。



 確かに、な。お前らしいよゴリ三。



 ムラマサ「よし!決めた!パンツ!」

ヒョウ柄のスキニーの膝を叩いた。



 「はっ?!パンツ?!」

思わず声が出た。



 「そうだ!可愛い娘が履くようなヤツだぜ!死んでもブリーフとか出すなよ?


 うん、流石俺様!何とお題にそった品だろう!


 お前が彼女いねーのは周知の事実だし、

大体、一人暮らしの大学生が女の子のパンツなんか持ってるわけ、ん?

お前ならあるかも知れんなぁ…。」

神妙な顔で細い首を傾げた。



 「あああ、あるか!変態か俺は?!」

怒鳴った。



 「よし!ならお前が想い描きやすいように画像検索してやる!」

ヒョウ柄からスマホを出した。


 「よーし!コレだ!このバイオレットだ!これ出せ!な?」

細長い指で画面を差した。



 俺は「えー!そりゃお題にはぴったりで良いけどよー!それ出してその後どーすんだよ。」

と言い、多分顔が赤くなったと思う。


 ムラマサ「おやおや?出せないんですか?


 ゴッドハンドー!ふーん。

照れたふりして断るわけね?

ヌハハハ!女物のパンツは流石に用意してなかったか?


 やはりネタありきの手品だったかー。


 よし!通報だ!この金は絶対おかしい!」

銀髪はブラウザを閉じ、通話画面にする。


 「うおーい!!待て待て!!分かった!分かったよ!やるよ!やるやる!やればいんだろ?!」

クソ!やっぱりコイツら部屋に入れるんじゃなかった…。


 ムラマサはニッコリ。再びブラウザを開く。

「OKゴッドハンド!じゃ、お手並み拝見といきますか!」

スマホを俺に向ける。

さっきのバイオレットだ。



 只の画像なのに直視出来ず、俺は斜に見る。

コレで本物が出たらどーなることやら。


 ちきしょー。女慣れしていない自分が情けない…。



 虎南「ウム。こいつ照れているぞ。やはりここはプロテイ、」


        パチン!


 ムラマサ「虎南、少し黙ってろ。」

指を鳴らしビルダーを制した。



 くそー!何でこんなことになっちまったんだぁ!!


 昼間っから大学生の男が懸命になって

パンツ出ろ!パンツ出ろ!

とか……。情けねぇ。



 俺はムラマサに、握りしめた左手をゆっくりと正拳突きの様に突き出す。



 「お、おう。」


 慌てて受け止めるように、俺の拳の下に手を広げる。


 俺は二人の目を代わる代わる見て

「お前らちゃんと、見てたな?」


 虎南とムラマサはお互いを見、俺に向き直り、うなずく。



 ムラマサ「あぁ、種も仕掛けもねぇ、と思う。

品もこちらが沢山の画像から無作為に指定したモンだ。

これで出たら河村、お前マジでゴッドハンド、いやゴッド(神)だぜ!」



 フンッ!チャラ男にパンツを授ける神様なんか居るかよ?

全く馬鹿馬鹿しい。



 手を開く。

          

        パサッ。



 「おぉーー!!!」二人が叫ぶ。

「出たー!マジで出た!!」



 俺はこの能力に少し慣れて来てるから、しかめっ面で二人を眺めているだけだが、まぁ初見ではこうだよな。


 俺は少しだけ得意気な顔になっていたかも、な。



 狭い安アパートの部屋に異常な興奮が沸いた。


 うるせー。


 ムラマサなどは爆笑し、例のバイオレットパンツを銀髪の頭から引っ被り、虎南とハイタッチだ。


 何だこの光景は…。



 ムラマサ「いやー、参った!参ったよ河村!お前ホントスゲーよ!」

笑い涙を拭きながらソファーに座り直した。



 「いやースゲー、スゲーよお前。」

新しいタバコに火を着け、ようやく落ち着いたようだ。


 虎南も満足しているのか、何度も深く頷いている。


       「だがな。」



 ムラマサだ。


 「ん?どうした?まだ何か不満か?」



 ムラマサは頭に被ったシルクを指差し「あぁ、確かにコイツを出したのはスゲーよ。

だがな、俺さっき言っただろ?」


 「あぁ、確か……。最初の指定は、俺が買ったり、貰ったりして、予め用意出来ないモノってヤツか?」

ホントに疑り深いやつだ。どーしたいんだよ?



 ムラマサ「あぁ、そうだ。確率はとんでもなく低いが、俺が女好きなのを知っているお前が、俺がギャルのパンティおくれ!

とか言い出すのを予想していた可能性がないわけじゃねぇ。


 で、後は色のバリエーションを揃えときゃ良いわけだからな。」



 確かにそうだ。が、パンツ被ったやつにアレコレ言われたかねぇ。


 「じゃどうすりゃいんだよ?何出しゃ俺の話信じてくれんだよ?」

タメ息を吐き、ウンザリ顔で言って、うなだれた。



 虎南が再び挙手した。


 「ウム、安心しろ。今度はプロテインではない。


 考えたのだが、高い山、例えば富士山の頂上にある氷とかだな。

そういう物なら、いきなりは都合を付けれまい。」

腕を組みし、自信満々とムラマサを見た。



 ムラマサは、はぁ?という顔で紫煙を吐きながら

「お前はアホか?じゃ富士山の氷ってのはアレか?富士山です!て書いてあんのか?


 大体、氷なんかコイツの得意技だろ?

それじゃあマジでコイツの思うつぼじゃねーか。

頼むからお前ちょっと黙ってろ……。」



 ま、確かにな。証明のしようがないわな。



 ムラマサ「んー。コイツは小動物並みに気が小さい。ってことは色々と準備するのはどっちかっつーと得意分野だ。そうなると……んー。手強い。」



 なんて疑り深いヤツだ。


 わーパンツ出たー!スゲーよ!またなー!

じゃダメなのかよ……。



 ん?



 またもや、懲りないゴリ三が挙手した。


 「ちょっと良いか?」


 ムラマサは被ったパンツのゴムをビンビン伸ばしながら

「おーい虎南、ちょっと黙ってろっつっただろ?

気が散るんだよー。」


 虎南「今度は素晴らしい品を思い付いた。

ウム、我ながら妙案だ。コレが駄目なら俺は黙る。」

かなりの自信作らしい。


 ムラマサ「はぁ? んー、分かった。

一応聞いてやる。

ダメなら静かにしてろよ?」


 虎南は神妙にうなずくと

「ウム、すまん。繰り返しになるが、河村は気が小さい。

ということは色々と準備するだろう。」


 ムラマサ「あぁ?そりゃ俺が今言ったぜ?」


 虎南はひるまず、小さくうなずくと。

「ウム、そうだ。だが気が小さいということは、逆に非合法な物などは恐くて手が出ない、ということにならんか?


 そこでだ。掌大ということになれば、昔からデリンジャーという小さな拳銃があってだな。

主に暗殺や、女性が使用する拳銃として……」


 バン!


 ムラマサが、虎南の雄牛の様に筋肉で盛り上った背中を叩いた。



 「うおーい!筋肉大将!!それだよ!!そういうのだよ!!

やるじゃねーか!今のは場外満塁ホームランだ!!しかも電工掲示板ぶち抜くレベルだぜ!!


 よーし!ゴッドハンド!それで頼むぜ!そーとなりゃあー」

再びスマホでの画像検索が始まった。


 この度も首尾よくデリンジャーと幾つかの弾が出た。

画像に弾も出てたからな。



 ムラマサは小さな拳銃をいじりながら

「ヤッパスゲーな!ホントとんでもねー能力だよ!!」


       

       「ただな…」



 今度は何だよ?



 ムラマサ「世の中にはな?モデルガンっつーものがあんのよ?

で、こいつがそーじゃねー非合法のシロモノって事を証明する必要がある。


 となると、手は1つ…。」

パンツ男は弾を装填し、デリンジャーを構えた。


 嫌な予感しかしない。


       カチリッ!


 撃鉄(ハンマー)が起きる音。



 「おいバカ!!止めろ!!!」



       

       パン!!



 撃った!撃ちやがったぞコイツ!

なんてヤツだ!信じらんねー!!


 ソファーに伏せた俺の後ろへ、本物の拳銃をろくに躊躇いもせず……。


 俺はキッチンにダッシュした。


 「コラ!ムラマサー!!お前これどーすんだよ!

俺の家財の中では一番高級なんだぞこれ!


 あーあ!コレ酒冷やせなくなったらどーすんだよ!!なに考えてんだよお前ぇーー!」



 俺は冷蔵庫に穿たれた弾痕に呆然とした。


 女物のパンツを被ったムラマサは、ガンスモークを吹きながら


「新しいの、買えよ。」


 こいつーー!!

やっぱりコイツら部屋に入れるんじゃなかったぁー!!

今更ながらに俺は猛烈に後悔したが、後に立つのが後悔だ。



 ムラマサ「よし河村!お前は正しい!その左掌の能力は本物だ!


 じゃ早速、コレからの俺達に、おいしー能力の利用法を考えようぜ?

ヌハハハハ!


 初めて撃ったぜ、以外と引き金重いのな?」



 「バカ!それこっちに向けんな!」

ちきしょー!俺の冷蔵庫がぁ~。

 

 ん?おいしー利用法?

俺達、に?


 その時、玄関のインターホンが鳴った。

何?今度は何だ?次から次によー!!



 思ったより小さかったが、正か銃声を聞きつけた同じアパートの住民か?


 警察?そりゃ早すぎる!


 何だ?誰だ?!


 新たな弾丸を装填し終えたムラマサと目が合う。


 ムラマサは目を細め、インターホンのモニターがある柱に華奢な顎をしゃくる。



 俺は無言でうなずいて向かう。

が、それより先にドアの向こうから自己紹介が響いた。


 「あのー、王子警察署の者ですが。」


       

       いっ?!!



   部屋の中が一瞬で凍りつく。

今、俺が一番聞きたくない自己紹介であった。



    も勘弁してくれーーー!!!

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