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dreadnought/ドレッドノート  作者: 有角弾正
2/6

自爆キャノン

     第二話 自爆キャノン




 俺は焦った、もう二十年の人生の中で一番焦った。というより完全にパニック。



 一体誰なんだ?!俺が勝手に金を造ったのがバレたのか?

バレたにしてもなんでバレたんだ?


     いやバレる筈がない!



 正か、あの外国人か?それともその仲間か何かか?!


 くっ!まだ玄関のドアを叩いてやがる。

宗教の勧誘?NHK?いや奴等はあんなにしつこく叩かねぇ!



 俺は震える手で大量の五百円玉硬貨、一万円札等をスポーツバッグへ放り込む。


 動揺で手が震え、金をバッグの回りに落としては拾い、落としては拾いを繰り返し、何とか全てを入れ終えた。



 ブンッと頭を振り玄関を見た。

一応ドアノックパンチは止んだようだ。



 どうする?!居留守を決め込むか?!


 幸いこのアパート、家賃は安いがカメラ付きのインターホン装備だ。

とりあえず、ドアの向こうが何者かだけでも見ておくか?



 俺は正におそるおそるインターホンの受話器のある柱に向かう。

この狭い部屋をこんなに広く感じたことはない。



     モニターを見た。



   「何だよ!!はぁーーー……」



 俺は安堵のあまりその場でへたり込んだ。


 小さなモニターに写っていたのは、バイト先の友人、村田(むらた) (まさる)虎南(こなん) 歳三(としぞう)の超ガリと超マッチョの二人組であった。



 一息つくと、もう玄関までは狭い安アパートに戻っていた。

        


 ガチャッ。


 汗を拭い、鍵を空けてやる。

赤いジャンパーの銀髪イケメンと目が合う。



 村田将(まさる)略してムラマサである。


 「おい!おせーぞ!寒いんだから早く空けろよな!


 なっ?居ただろヤッパリ」

後ろの黒い革ジャンの筋肉塊に振り返る。



 「ウム、だが昼間とはいえ、あのノックは近所迷惑だぞムラマサ…」

雄牛のごとき腕を組み、前に立つチャラチャラした村田をたしなめる。



 「でもこいつスマホ電源オフってるし仕方ねーだろ?」

細長い指で、室内の俺を指差す銀髪。



 う~む、とりあえず今はこの左手の能力は誰にも秘密だ。


 コイツらも含め、ハッキリ言って見せびらかしたい気持ちはある。


 だが、人に知られるのは避けなければならない。

まぁこれだけの力だ、必ずや俺の手を調べ、利用したがるやつも現れるだろう。


 こりゃ国家レベルで狙いに来るぜ!!


 う~、もう二度と手首をもがれるなんて体験は御免だ。


 はっ!もしかすると命すら危ないかも知れない!



 俺は左拳を握りしめた。



 し、しかし、いつもつるんでるコイツらに門前払いは逆に不自然、か…。


 仕方ない。

茶でも飲ませて早目に帰すか。



 「まぁ入れ」


 俺は一応、虎南の分厚い体の後ろをひょいと覗き、チェーンロックを解除、キッチンへ向かった。




 上着を脱ぎ、俺の向かいに並んでソファに腰を下ろす二人。



 「何だよお前ら、いきなりどーした?昼間っから来やがってよー。

今、インスタントコーヒー位しかないぞ?」テーブルに向かう。



  俺は目ん玉が飛び出すかと思った。



       ヤバイ!!



 今のところティッシュ箱の陰になってコイツらには見えていないが、金を隠す事ばかりに気をとられ、ヤツを片付けていなかったのだ。



 12月の冬場に水槽もなく、一人暮らしの男の部屋、そのテーブルの上に青蛙!!!!


    ヤバイ!異常すぎる!!


 絶対にあれこれとつっこまれ、そのうち俺の左手の事がばれるじゃねーか!

特にムラマサが不味い!



 こいつはチャラ男の代表みたいな軽い奴だが、残念ながらバカじゃない!

時々鋭い視点で物事の正体を射抜く事がある。



 コラ、カエル!お前もお前で、あんなに慌ただしい土壇場になってたそのテーブル上でのんきにうずくまってんじゃねーよ!

正にカエルの面にアレかよ?!ってうるせーよ!!



 あの、自分ここに居て大丈夫すか?とか言えねーのか?!言えねーか……。

くっそー!



 虎南は良い。見た目も中身も岩みたいなヤツだ。スポーツバッグの金を見せないようにすれば何とでもなるだろう。



 くっ!ムラマサ、ニヤニヤしてんじゃねー!

やたら不安になるだろうが!



 俺は胸の動揺を押さえ込み、二人の前にコーヒーカップを置いてやる。


 ムラマサはイヤな笑みで、細くカットされた片眉を上げ

「いやいや河村、どーしたもこーしたもねーよ。

お前が急にシフトに穴空けたせいでさ、今日休みだった俺が出勤になっちまったじゃねーか。


 しかも腋テロ長(ワキガテロリズム店長)が言うには、お前辞めるんだって?理由聞いて止めてこいってさ。


 どーしたんだよ急に。あー失恋でもしたか?いやそれはねーな、お前彼女いねーし……」

内ポケットからタバコを出し、テーブルでトントンしだす。



 「うるせー!ほっとけ!

まぁシフトの事はお前には悪かったよ。


 だがバイトは辞める。んー、なんつーか他に良い仕事?つーか金のあてが出来たんでな。」

なるだけ冷静を装うように努めた。



 大仰に肩をすくめるムラマサ

「へぇー!そりゃ良かったなー。でも急すぎねーか?俺達に相談もなくよー。


 ん?それだけオイシイ何かをゲットしたってことか。


 恐らく昨夜か、今朝…ってとこ、か。


 何だそのあてってさ。オイ、教えろよ俺達にも!」

紫煙を吐きながら、少し身を乗り出す痩せすぎ男。



 その隣の筋肉の塊が

「河村。お前、正か非合法な事に手を染めてはいないだろうな?」

尋問みたいに聞いてきた。



 「へっ!そりゃねーよ虎南!こいつにそんな度胸ねーって!

何かアレか?宝くじかなんかが当たったか?それかどっかから遺産みてーなのが転がって来たか?」



 うるせー!気が小さいってのは危機管理能力が高いってことでなー!生物としては優れているってことなんだぞ!



 「んー、ま、まぁそれに近い感じだなー」



 俺はすっとぼけ、口数は抑えた。


 推理モノは読むか?

アレさ、よく喋るヤツから捕まるからな。



 慌ててアレコレ話すから墓穴を掘るわけよ。まるで間抜け。

俺はバカじゃない。


      自爆などせん!!!


 見ていろ!この程度の戦局、見事に切り抜けてやる!!



 ムラマサ「へー、良いご身分だな!俺も虎南もバンドに金掛かるから、練習のある日とライブの日以外はほとんど休みなしだぜ?!


 しかも、こいつは追加でジムとプロテインにムダ遣いだしよー。」

親指を立て、隣のいかにもなドラム担当を指す。



 「うん?お前こそ女遊びに散財しているだろうが」

コーヒーに持参のプロテインを混ぜながら額のシワを深くする虎南。



 持ち歩いてんのかそれ?と思いながら俺「おぉ、まぁそういう事だから。バイトは辞めるが、お前らたまに遊びには来いよ。な?」


 

 どーでもいーから早く帰ってくれー!



 銀髪の美男「そっか、まぁ仕方ないな。腋テロ長には、河村はモテなさ過ぎて世を儚み、僧籍に入りましたとさ、とかなんとかウマイこと言っとくぜ。」


 くっ!コイツ!!

ウインクして親指立てやがった。


 「儚んでねーし!!ウマくもねー!!」

クソー!ちょっとモテるからってよー!



 ふぅん。そーだなぁ、バンドとかやってみるかー?モテるかもなー?などとこれからの実りある我人生に想いを馳せた。


 フフフ、俺はコイツらとは違う。

金も時間も思い通りだ…。



       ヘックシ!!


    ムラマサがくしゃみをした。


 ムラマサ「あー、お前がさっさと出て来ねーから風邪ひいたかもしんねーじゃねーか。


 おい虎南、そこのティッシュ取ってくれ。」

タバコでテーブルの上を指す。



 小さく頷き、無言でティッシュ箱を取ろうとする虎南。


 

 俺は心臓が口から飛び出すかと思った。



 バカ!コラ!待て筋肉オバケ!!

「おい!それもう数枚しかないから新しいの出してやるから待てよ!!な?!」

背中に電撃を喰らったように立ち上がる俺。



 怪訝な顔のムラマサ

「え?お前なに慌ててんの?そんなに使わねーよ。」



 ま、そら普通はそう思うよな。

ちくしょー!不味い!


      

      はっ!そうだ!



 俺は背中に左拳を回し、必死にポケットティッシュを思い描いた。


  便利な能力だ。よしよし!


 「あ、これ、ソファの俺の背中に落ちてた!うん、コレ使ってくれ、な?」

ムラマサに差し出した。



 ムラマサは1秒程それを見て。

「おぉ、悪ぃい。」と受けとり、鼻をかみだした。



 ホッ!何とかなったぜー!!

はぁーどうなるかと思った!助かったぁー!

頼むから!も早く帰ってくれぇーーー!



     ってぇーーーー!!?



 虎南!何スポーツバッグ見てんの?!!

オイ!ゴリ三!!ダメ!それに興味を持つんじゃありません!

おいしーもん入ってないから!!



 「おっ?良いバッグだな。ジムに持って行くのに丁度良さそうだ。」



 アラー!!もう持っちゃたのねー?!!



 「ウム、重い。中身はダンベルか何かか?」満足そうに上げ下げするマッシブマッスル。



 そら五百円玉満載だもの!重いさねー!!つーか止めろ!!



 「フム、何処社製のダンベルだ?」ぶっとい指で容赦なくファスナーを開けようとする。



 「ココココ、コラ虎南!君は他所の家の物勝手に弄って良いと教育されたのか?それが君のやり方か?!それが君の生き方なのかー?


 ちゅーか御願いです、それだけは開けないで下さい……。」

最後はテーブルに両手をつき、哀願した。



 虎南はスポーツバッグを割れ物でも入っているかのように、そっと床に下ろすと

「ウム、それもそうだな、すまなかった。」



 隣のムラマサはニヤニヤしている。

「なーんか怪しいなお前ぇー。さっきから目がバタフライで泳いでるぜ?

俺たちに何か隠してるな?


 よし虎南君!君その怪しいバッグ早く開けておしまいなさい!

ドドーンと大金とか出てきちゃったりすっかもよ?!ヌハハハハ!」



 ムムム!ムラマサぁー!!テメ、ムダに鋭ぇんだよ!!ピッタリだよ、お前のそのアダ名!つかスゴいなお前?!

OK!今すぐ死んでくれ!



 虎南はキョトンとしている。

「いや、それは良くない。人には見られたくないプライベートというものがあるからな」



 よーし!ゴリ三!!偉いぞ!立派!お前は後でチューしてやるチュー!



 はぁー。コイツらと居るとマジで寿命が縮むぜ!

ホントに本気で今すぐ帰ってくれぇ!



 あぁ…興奮して、また熱出て来た。頭温っ!!

目眩がしてきたぜ……。


 ふぅ、氷でも出すか、フンッ!


 おうっ!ヒンヤリだ。

俺はビリヤードの玉大の氷を額にあてた。



 ん?向かいの二人が無表情で俺を見ている。何だ?

オイ!ムラマサ!お前タバコ落ちたぞ?カーペットが焦げるじゃねーか!このバカ!



 全く、二人して揃ってバカ面晒しやがって……。




 ムラマサ「おい、お前それどーした……。」




 「ん?あぁ、俺ぁ朝から熱があんだよ。」全くお前らのせいだよ!



 ムラマサ「いや、そーじゃなくてさ……そのビリヤード玉どっから出した?」



 「あん?どっからって、そりゃお前ぇ…」



      はあっはぁっ!!!



 俺は間抜けにも、やっと事態に気付き、カタカタと震え出した。



 震えで左掌から氷が落下。左足の甲にめり込んだ。



    「あっ痛ぇええええ!!!」

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