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レストラン・オルール  作者: 昭如春香
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3/7

【オードブル】

 

 

 

 食前酒の効果だろうか。次の皿が待ち遠しくて仕方がない。あのクラムというカクテル上手かったなぁ。あぁ、楽しみだ。たのしみだ。たのしミだ。


 扉の開く音がする。さあ、次の料理が来た。


 口元に微笑を讃えた給仕が、珠玉の一皿を携えていた。流麗な動きで、私の前に皿が置かれた。



「本日のオードブルは『ピュティエとアンスランのテリーヌ仕立て オルグイユ風』になります。キャンディット・アム・ソースをつけてお召し上がり下さい」



 どの材料も聞き覚えがない。いや、色々と呼び名が違うだけだろう。ささやかな事だ。そんなことを気にする必要がどこにある? 実に、美味しいそうではないか。


 白磁に金の縁飾りを施された皿の上で、主役っとなるテリーヌは淡い桃色の円が中央を飾り、それを彩るようにアスアパラに似た野菜が一緒にゼリー寄せされている。テリーヌに更なる色彩をもたらしているのは、白い皿に帚星のような軌跡を描いているパステルイエローのソースだ。


 慎重にナイフで切りわけ、口に運ぶ。口の中でほろりとほどけた。ゼリー自体にもしっかりとスープが入っているのか、爽やかでありながら素材の甘みが広がる。テリーヌも上手いがソースが実にいい。最初パンチの効いた胡椒だろうか? その辛みと酸っぱさが駆け抜けて、ぎょっとしたが、後から甘さがそれらを中和し、癖になるソースとして成立している。



「無垢なる生命いのちほど、甘く柔らかなものはないと思いませんか」



 給仕がそう囁いた。確かに、年若い肉ーー子羊や子牛の肉というのは、癖が少なく、量を考えなければ実に良い。今度孫の誕生日にでも、自宅でシェフに喚んでフランス料理というのはどうだろうか。中々にいい案じゃないだろうか。



「その中でも究極なのが、胎児の肉です。大気の穢れも、世界の汚さも知らない、生まれる前の無垢な生命いのちの肉は格別甘く、珍味でございます」


「……今回はそれの肉を?」


「えぇ、大変貴重なものです」



 子牛とか子羊と云われたら、あまり気にならないが、胎児と言われると感じが悪い。そもそもーーーー牛や羊なんだろうか。



「キャンディット・アム・ソースは佐波様の為に()()()調達したものでございます。合性の兼ね合いがありまして、同じ血統の子供を出汁として使用することで、更なる深みに至っております」


「そうですか」



 給仕の物言いが変な含みを感じて気持ち悪い。しかめっ面の私に気がついたらしい。



如何いかがなさいましたか、お客様」



 このまま席を立っても良かったが、予約の大変さを思い出した。ここはアナログ式で次、来れるかどうか……。最後まで食べないのは、モッタイナイ。マダ、空腹はミたさレていない。



「お食事をお続けになりますか?」



 ここで不完全燃焼のままでなくていいだろう。ワタシはうナずいタ。









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