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厨二病の日々

作者: 玖波 悠里

駆けている。疾く、速く。

約束の時間まで、あと僅か。

我が足は俊足、閃光と共に駆け抜ける。通学路を。

駆けこんだ先は学び舎、始まりの鐘が響く。始まりが終るときまで、鐘が鳴り終わるその時までに。はるか上階に向かって駆け上り、そして疾く駆ける。鐘が鳴り終わるその時までに。

刻よ、止まれ。

「はい、遅刻。」


目の前に命題が。証明すべき。

いかに難解な問題が我が前に立ちふさがろうとも、我が悪魔の頭脳の前には児戯に等しい。スパコンだろうと、私の速度には追いつけない。にやり、と笑って鉛筆をとる。だがしばし待つがいい。こんな命題、私にかかれば一瞬で済む。ならば―

「はい、次の人。この問題やって。」

「すみません。まだできてないです。」


ぼんやりと教卓を眺める。実につまらない。退廃的な雰囲気の教室の中で決まりきった授業を聞く。均一化された生徒たちに、マニュアル化された学校。ぼんやりと溜息をついてシャーペンの先で机を敲く。そしていつしか、このつまらない現実世界に穴が開いて…

眠りに落ちていくのだ。実に心地よい仮想現実を夢想しながら今日も1時間を無駄にする。


金床から抜けない剣、失われし秘宝、封印されし竜の卵。そんなものを探して、だだっ広い外を眺める。ふいに雷鳴が閃き、暗雲が立ち込める。真っ暗になった空に巨大な魔法陣が輝き、そこから巨大な召喚獣が舞い降りて、咆哮する。彼に立ち向かいうるは神々のひらめく雷。全能神の怒りの鉄拳をもって彼を打ちのめすがいい。

けれどそこに降るは教室の支配者にしてPTAに封印されし秘技、我が担任の怒りの鉄拳。

「授業始まってからお前校庭しか見てなかったぞ!」


実に腹が減った。

溜息をつくが、この哀しき現実に変容は起こりえない。だが、私は宮廷魔術師、そこらの3文魔術師にはできずとも現実の変容など私にはたやすい。ただ目の前の白い紙につらつらと文言を書きつける。たったそれだけで私の望みは達される。かなり書いた。もうこれで十分だろう、今日の所はこれまでにしておく。

「はいじゃぁ、ノート提出してください。」

危機である。


最後、だった。

この授業が終われば、最後、今日は金曜、そして今は最後の授業である。だがいかに週末といえども、この授業は終わらねばならぬ、気分は終末のそれである。だが数ある時間もいつしか過ぎ去りやがてその時はやってくる。週末の鐘は鳴り響き、天使たちが我々につかの間の休息をもたらす。

しかし、受験戦争に赴く者、部活に挑む者、彼らに休息など、ない。彼等にとってかの鐘は終末の鐘に等しく、彼等は次なる戦場へ。


我が魂に安寧あれ。

受験戦争時代です。

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