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001 第4世代遊戯用没入型仮想現実機器 『クロノス』


 濁流のように押し寄せるターゲットパネルが煌びやかな賞賛の文字とエフェクトを残して消えていく。

 コンボ数は3桁後半に近いほどの数字をたたき出し、今尚増えている。

 スコアは加速が止まらない。

 刻むステップを一手でも間違えればその瞬間に復帰は不可能なレベルなのがこの曲だ。

 だがボクがミスることはまずない。なぜならばこの程度は日常レベル。

 何かをしながらプレイすることなどまず不可能と言われるレベルでもボクにとってはながれプレイが可能なほどだ。

 だからプレイ中に掛かってきたコールも余裕で取れる。


「兄上、届きました!」

「兄様、届きましたわ!」

「りょうかーい」


 掛かってきたコールは2本だったけど、内容は同じだ。

 見事に同じ内容を口にする息ぴったりの双子コンビに返事を返し、最後のターゲットパネルにステップを刻む。

 リザルト画面で集計が始まるが、そんなものは見ないでもわかる。

 理論上の最高スコアが表示されるのはノーミス、オールエクセレントが日常のボクには当たり前の話だ。

 だからリザルトが完了する前にログアウト。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ゲームといえばバーチャルリアリティ――VR、といわれるほどにVRが浸透した時代。

 すでに3代目を数える遊戯用没入型仮想現実機器だが、2年半もの長き沈黙を破って最新型の遊戯用没入型仮想現実機器の発売が決定された。

 第4世代となった遊戯用没入型仮想現実機器は名を『クロノス』といい、世代を重ねるごとに増えていったVR内での感覚器のうち嗅覚と味覚を新たに実装した機器だ。

 さらに現実不可能とまで言われていたゲーマーの憧れである、タイムアクセレーションシステムも実装。

 加速倍率は6倍であり、VR内の1時間が現実世界では10分となる。

 しかしVR内と現実の時間のズレの影響は無視できず、『クロノス』の1日の最大利用時間は専門の医師の監視下以外では7時間と決まっている。


 そんな制限のついている『クロノス』だが、待望の新型ということもあり、初期ロット5000台が予約開始わずか0.8秒で完売していたりするほど期待値は高い。

 ボクももちろん予約をしており、0.8秒の中に滑り込んでいる。

 ちなみに色々と頑張ったボクは3台の『クロノス』の予約に成功しており、弟と妹の双子コンビにプレゼントしていたりする。

 その『クロノス』が届いたのが1週間ほど前の話。


 『クロノス』の発売と同時に発売されたタイトルは実は1つしかなく、現状では専用機だ。

 同時発売のタイトルは『ラビリンス・シード』。

 今では珍しくもないVRMMORPGだ。


 しかし旧世代の遊戯用没入型仮想現実機器では実現できなかった現実と大差ないクオリティの世界を『クロノス』ではかなりのレベルで作り上げることが出来ているらしい。

 参加者を同じ場所に集め1週間缶詰にして行われたβテストの情報では旧世代とは雲泥の差だという話だ。

 『クロノス』自体が未発売の時期に行われたテストであるため、遊戯用没入型仮想現実機器を配布することはできなかったために一箇所に集めての缶詰テストだったのだ。

 ただβテストでの情報自体は最大接続時間の兼ね合いもあり、テスト開始当初からかなり拡散していた。

 運営側も許可していたというか、むしろ積極的に宣伝も兼ねて拡散させていたようだ。


 そんな背景もあり、テストに参加できなかったボクや双子コンビも事前予習はばっちりである。


 『クロノス』の初期設定や『ラビリンス・シード』で使用するアバターのクリエイトもすでに終了していて基本動作のチュートリアルなども終了している。


 『クロノス』の発売日と『ラビリンス・シード』の発売日は同じだったが、『ラビリンス・シード』の正式サービス開始日は発売から1週間後であったのはじっくりとキャラクリと『クロノス』に慣れてもらうための準備期間だろう。

 人によってはキャラクリに異常に時間がかかる人もいるからね。


 とはいっても現状のVRでは自身のアバターはそれほど大きくは弄れない。

 とある事件をきっかけとした法整備による影響だったりするがその辺は割愛。

 それでも弄れる部分は結構あるので凝ろうと思えばどこまでも凝れてしまうのがキャラクリの怖いところだ。


 ちなみにボクは髪をちょっと伸ばして目の色を変えただけというキャラクリ勢から見ればがっかりなカスタマイズ具合である。

 それでも普段しないような髪形や色、目の色で十分別人に見えるレベルである。

 身バレの心配はまずない。

 双子コンビもボクと同じような感じのカスタマイズだ。


 キャラネームも同様にほんのちょっと弄っただけ。


 橘春海という名前から取って、『ハル』。

 安直だけど双子コンビと一緒にプレイする予定なので全然違う名前にすると面倒なのだ。

 同様に双子コンビも本名をちょっと弄っただけである。


 双子の兄――橘奈津樹は『ナツ』。

 双子の妹――橘秋菜は『アキ』。


 春夏秋と来れば冬もいそうだけど残念ながら3人兄弟なのでいなかったりするが、まぁどうでもいいよね。


 そんなこんなの慌しい1週間もあっという間に終わり、遂に『ラビリンス・シード』正式サービス開始日。

 真夏の日差しと遠く聞こえる蝉の声。

 ボクと双子コンビの長い夏が始まる。


らびしーまめちしき


・コール

遊戯用没入型仮想現実機器に標準搭載されている会話ツール。

IDを登録しておけばタイトル問わず使用可能。


・遊戯用没入型仮想現実機器

遊戯用に特化された仮想現実機器。

医療用、軍事用とはまったく異なる規格であるためかなりの制限がある。

第1世代『サターン』。

第2世代『メビウス』。

第3世代『ヴィーナス』。

第4世代『クロノス』。


・タイムアクセレーションシステム

ゲーマー待望の時間加速システム。

仮想現実内の1時間が現実時間の10分となる。

精神及び、肉体に与える影響を考慮し、専門の医師の管理下になければ1日の利用制限が付く。


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