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「黒幕」

 第一回オリジナル装備コンテスト。

 ユーザーから武器や防具のデザインを募集し、それぞれ武器部門と防具部門で優秀賞を取った二つの装備をゲームに実装させるという内容のプレイヤー参加型企画である。


「そんなのあったんだ」

「少しは調べなさいよ」


 本気で知らなかった祐二に美沙が口を尖らせる。この時彼らは狩りを終えて熱砂の街に戻ってきたばかりであり、そして人目を避けるために逃げるようにして街の片隅に固まっていた。


「中々面白いことするんだな」

「こういうのってやっぱり、燃える人は燃えるんスかね」

「そりゃそうですよ。自分の考えた装備がそのまま採用されて、他の人達がそれを使うんですよ。嬉しくないわけないじゃないですか」


 コンテストの内訳を聞いたロバートが感心するように呟き、パラケルススが不思議そうに言い放つ。そしてその悪魔の言葉に対し、浅葱が拳に力を込めて力説する。


「絵描きにとっては一つの夢ですよ。目標です。なんとしても掴み取りたいと思うものなんです」

「そ、そうなんスか」

「随分力説するんだな」


 その迫力にパラケルススはおろかロバートまでもが驚く。一方で祐二と美沙はそれを横目に、戦利品の確認作業に入っていた。

 今回の戦いで入手したのは武器が九つに防具が八つ。全員が同じ数の装備を入手していた。そして祐二達にとって、その大半は使い物にならない代物だった。


「防御力低いなこれ。ダメだ」

「うわ、何これ。最大HP減少とかふざけてるの? 能力もパッとしないし」

「属性耐性は良さそうなんだけどなあ・・売るかな」

「私ハンマーは使えないのよねー。外れかなー」


 魚人間と美沙は共に渋い表情を浮かべながら、淡々と手に入れた装備を確認していく。確認直前に抱いていた希望の光は、今ではすっかり消えかかっていた。

 そうして次々と戦利品を仕分けしていく二人に反応して、他の三人もそれに続くようにして同じ作業を開始した。ある程度このゲームに馴染んでいた浅葱とパラケルススも先の現人神二人と同じ反応を見せたが、一番の新参であるロバートは彼らとは異なる反応をした。


「こっちの方がいいかな。いやでも、こっちの方が単純に強いし・・」


 初期装備で身を固めていた彼にとっては、そこにある装備はどれも非常に有用な代物であったのだ。その「宝の山」を前にして、私立探偵は険しい顔で吟味を続けていた。


「結構迷ってるみたいッスね」

「まあ、始めたばっかの人からすれば全部宝物に見えても仕方ないですよ」


 それを見たパラケルススと浅葱が言葉を交わす。そしてそれに反応するように美沙が言った。


「今回はちょっと様子見ってことで一番下のレベルに設定して潜ったけど、次からはもっと上の段階に進めてもいいかしらね」

「え」


 美沙の言葉を聞いたロバートが動きを止める。そして驚きの視線を美沙に向け、そのまま彼女に言った。


「次って、次も同行していいのか?」

「私はいいと思いますよ。仲間は多い方がいいと思いますし」

「俺もいいですよ。浅葱さん達は?」


 美沙に続けて祐二が言い、そして祐二の言葉に応えて浅葱とパラケルススが言った。


「私もいいですよ」

「あたしもオッケーッスよ」


 残り二人も快諾する。ロバートは戸惑った。ここまでお人好しな連中には会ったことが無かった。


「で、どうする? せっかくだからギルド紹介しておく?」

「それいいかも。そっちの方が色々楽になるし」

「マイホームにも招待出来ますしね」

「いいッスねいいッスね。そうしましょうよ」


 その間にもお人好し四人はロバートを差し置いてトントン拍子で話を進めていく。そしてロバートがなんとか話に割り込んだ直後、逆にパラケルススの方から彼に話しかけてきた。


「で、どうッスか? ギルド入ってみるッスか?」

「ギルド? それはなんだ?」

「あれですよ。気の合う人達で集まって作るグループみたいなものです。ギルドに入ると色々特典があってお得なんですよ」


 浅葱の簡潔な説明を聞いてロバートが考え込む。素直に考えれば非常においしい話であったのだが、あまりにも話が順調に進むあまり「何か裏があるんじゃないか」と勘ぐってしまったのだった。

 祐二の視界の隅に新着メールを告げるウインドウが表示されたのはその時だった。


「ん?」


 祐二がそれに気づいた時には、美沙とロバートも同様に自分の目の前にそれが出てきたことに気がついた。


「なんだ?」

「メール?」

「誰からだ?」


 三人が同時に声を出し、ウインドウをタッチしてメール画面を表示させる。そしてそこに表示されたメールの文面を見て、三人は揃ってその顔を引き締めた。


「どうしたんですか?」

「あ、もしかして現人神のお仕事ッスか」


 不思議そうに尋ねる浅葱の横でパラケルススが確信めいた口調で問いかける。実際それは当たっていた。


「うん。魚の件で進展があったみたいなんだ」

「今から来れないかって言ってきてるの。悪いけど外していいかしら?」

「急用ッスか? 深刻なことになってるみたいッスかね?」

「会ってみないとわからないな」


 パラケルススの問いかけに祐二が答える。その間にも三人はメールに書かれた手順に従って移動の準備を進めていき、そして三人揃ってワープの用意ができた所で、不意に浅葱がロバートに声をかける。


「ギルドどうしますか?」

「入れといてくれ!」


 ロバートが反射的に叫ぶ。直後、三人は足下から上ってきた光の柱の中に包まれ、そして柱が光の粒子となって消えると同時に三人の姿も消えていた。


「あんな機能あったッスかね?」

「現人神の特権とかじゃないでしょうか」


 その未知の光景を前にして、パラケルススと浅葱は共に呆然と呟いた。それから二人は暫くそこに呆然と立っていたが、その後思い出したようにギルド新メンバー加入の準備を進めた。





「黒幕がわかった?」


 同じ頃、一面暗闇に包まれたどこかもわからない場所に招かれた三人は、そこにいたガイアから放たれた言葉を聞いて一様に目を丸くした。なおロバートは既にガイアの存在を祐二達から聞いていたので、初対面ではありながら過剰に驚いたりはしなかった。


「はい。調査は難航しましたが、とりあえずの目処はつきました」


 なぜか朱色の和服姿を着込んだガイアがゆっくり頷きながら返す。それに対して祐二が尋ねる。


「なんで難航したんですか?」

「迷宮の奥底に雲隠れしていたのです。こちらでも把握していない、自分で勝手に作った領域の中に引きこもっていたのですよ」

「勝手にダンジョン増築したのかよ」

「やりたい放題ね」


 呆れたように祐二と美沙が呟く。その横でロバートがガイアに問いかける。


「それで、その黒幕っていうのは誰なんですか」

「はい。その者はですね」


 ロバートからの問いかけにガイアが答える。


「ダゴンです」

「ダゴン?」

「水神ダゴン。カナンの地に住まう神です」

「?」


 誰それ?

 三人は揃って同じ表情を見せた。ガイアは困ったような表情を浮かべながら三人に言った。


「さすがにご存じありませんか?」

「無いです」

「無いですね」

「誰ですかそれは」


 容赦のない返事だった。ガイアは困ったようにひきつった笑みを浮かべた。

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