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夕日の教室

作者: 七式

『まったく終わらない』

僕は夕陽が差し込む教室で課題に追われていた。

休日に出された事をすっかり忘れていた僕は、今日までにそれを終わらせ提出しなければならなかった。しかし、休日に合わせて作られた課題を終わらせる事は容易ではなく、終わらない事に苛立ちを感じ、その苛立ちに対しても苛立ちを感じた。

気分転換だと思い窓の外を眺めると、運動部の活気溢れる姿見や下校する同級生の解放された表情が飛び込んできた。その光景は感じていた苛立ちを大きくし焦燥感や疎外感を張り付けた。

ため息が溢れそうになるのを堪えようとした時、扉が開いた。静かな教室に響いた音に視線を送ると運動着姿のクラスメイトがいた。少し驚いたが彼女はそうではないみたいだった。人のいない教室を想像していたら少しは驚きそうなものだ。彼女は自分の机を探っているが探し物は見付からないらしい。

『忘れ物でもしたの』

少し間の悪さを感じて聞いてみた。

『そうなんだけど、ここじゃなかったみたい』

彼女は困った様な笑顔で答えた。

よく笑う子、日頃の彼女の印象だった。静かな部屋に会話も無く他人がいるというのは、こんなにも落ち着かないものなのか。

『部活中じゃないのか』

気まずさに耐えられず聞いてみる。

『そうなんだけど練習中に思い出しちゃって。気になって休憩だから取りに来たんだけど…見付からないや』

そう言って彼女は手に持った飲み物を飲みながら、机の前に立ち窓に映る夕陽を見ていた。気まずさを紛らわす様に『部活は大変か。』と尋ねてみた。『大変な事もあるけど、好きだからね。楽しいよ』

『そうか、好きなら仕方ないな』

これが好きだと主張するものがない僕は、羨ましさを交えてそう言った。

『部活でもそれ飲んでるんだな』

彼女が手に持つ物を見て気付く。彼女はよくそれを飲んでいた印象だった。

『よく見てるね。なんでだろ、好きだからつい選んじゃうんだよね』

少し照れくさそうに答える彼女に

『好きなら仕方ないな』

と先ほどと同じ台詞に可笑しさを感じながら返した。

『そうだよね。好きなら仕方ないよね』

そう笑いながら答える彼女は夕陽を眺めている。

やわらかな光に当てられた彼女の笑顔はとても優しかった。

大きくなっていた苛立ちは小さくなり、代わりに少しの沈黙に不安感が襲ってきた。沈黙を消そとしたその時、

『好きなら仕方ないよね』

彼女が独り言の様に呟いた。

言葉を遮られた僕は、彼女の独り言への返答を探した。

『好きなら仕方ない』

今度は僕を真っ直ぐ見ながら。

夕陽のせいか彼女の瞳はとても綺麗に輝いていて、僕は目が離せなかった。

沈黙も今は心地好いとさえ思えた。

すると彼女はいつもの笑顔で

『ごめんね休憩に付き合わせて、それあげるね』

彼女は飲み物を机に置いたまま足早に教室を出ていった。

飲み物を手に取りながら、あの綺麗な瞳を思い出す。

『飲んでいいのかな』

僕の好きなものが2つ出来た。

そんな出来事。

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