散髪しました。
「唯奈?!」
月曜日の朝。いつものように迎えに来た知哉が、わたしを見て目を丸くしていた。
「え? は? な、なんで、髪……」
知哉がびっくりするのも無理はない。だってあたし昨日、背中まで伸びてた長い髪を切っちゃったんだもん。20センチぐらいかな。美容師さんに「勿体無いのにー」って言われたけど、「勢いよくいっちゃって下さい」ってお願いして、ばっさり。
「知哉、短い髪の女の子が好きなんでしょう?」
冷ややかな視線で、淡々と。昨日の夜練習した一言を知哉に浴びせた。
幼稚園からの幼なじみで、高校生から彼氏になった知哉。わたしは、知哉が長い髪のほうがいいって言うから、ずっと伸ばしてきた。手入れは大変だったけど、知哉が髪の毛を梳いてくれるのが好きだから、全然苦じゃなかった。……なのに、クラスの女の子が言ってたんだ。
『知哉くん、髪の毛短い女の子が好きなんだって。』
ねぇ、どういうこと?
知哉、勉強は出来ないけどかっこいいし運動は出来るしで、彼女がいようとそんなの関係なくモテてきた。たまに、僻みを言われることもあったけど、言い返したりせずに我慢してた。気にしないようにしてた。わたしの顔が平々凡々なのは、自分が一番分かってたし。でも、知哉はわたしを選んでくれたから。知哉がわたしを好きでいてくれるよう、わたしなりにできることを頑張ってきた。……なのに。わたしの努力、知哉はなんとも思ってなかったの?
「……え、なにそれ。」
「こっちの台詞よ! とぼけないでよね、うちのクラスの女の子が言ってるの、聞いたんだから! 知哉は短い髪の女の子が好きだって!」
「……唯奈、それで髪切ったの?」
「そうよ、悪い? ……ってなににやけてんの! わたしが怒ってるって分かってる?!」
「や、だって嬉しくて。つまり、俺の為ってことでしょ?」
そう言いながらわたしに抱き着く知哉。
「は? って、人ん家の玄関でなにやってんの! 離れてよ! わたし怒ってるって言ったよね!?」
「あー、うん。誤解はといとかないとな。」
「……誤解?」
わたしが言うと、知哉はちょっとだけ距離をおいた。……手はまだ腰に回ったままだけど。
「俺、長い髪のが好きだよ。」
「は?」
「どんな髪型が好きか聞かれたんだけど、なんか面倒だったから好みと真逆を答えといたの。俺の好きな髪型なのは、唯奈だけでいいかなーって。」
「……。」
なに、それ。じゃあ、こんなに髪が短くなっちゃったわたしは、嫌い…? 好みじゃない?
「でもさー、唯奈。」
「……なに。」
悔しくて泣きたくて仕方ないのを我慢して答えたのに、知哉は満面の笑みを浮かべてた。……腹立つけど好きだなって思う自分に呆れてたら、知哉が言い放った。
「俺、唯奈がショートなのは、全然いける。」
「……は?」
なに言ってんの? って顔で言ったのに。
「唯奈は短くても長くても、可愛い。……うん、要するに俺、髪型とか関係なく唯奈が好き。」
笑顔のままそう言ってキスしてきた知哉に、わたし思いっきり頭突きをかましてやりました。
唯奈ちゃん
テニス部。159cm。
彼氏のために色々と頑張る健気な女の子だが、乱暴な一面も。
照れるとすぐ手もしくは頭が出る。特技は頭突き。
知哉くん
サッカー部。179cm。
愛情表現がどストレートなため彼女から攻撃を受け、よく軽傷を負っている。でも嬉しそう。
彼女の照れ隠しが可愛いのであって断じてマゾではないと言い張る。