エイプリルフール
「あのね、雄真。」
「うん。」
4月1日。
今日から新年度が始まる。つまり、あたしは高校生になった。……うん、まあ、その、入学式はもう少し先だけど。
高校の入学者説明会の時にもらった宿題を一緒にするという名目で、あたしはお向かいに住んでいる幼なじみの雄真の部屋にお邪魔している。
「えっとね、あの……」
あたしは、昔からずっと雄真のことが好きだった。……あれ。ちょっと待って。過去形じゃないよ、現在進行形だよ。今も雄真が好きだからね、大好きだからね。
「うん。心配しなくても、ちゃんと聞いてるぞ。」
こういう優しいとこ、大好き。……って言ってる場合じゃなくて。
「あたし、ずっと言おうと思ってて。」
そう、ずっと。
いつか言おう、いつか言おう、って思いながら、いつも言えないままここまできたから、雄真と同じ高校に合格できたら告白するって決めたの。
雄真が好きって。
「うん、なにを?」
「あの……」
でも、いざ言おうとすると、怖くて。幼なじみっていう関係が、崩れちゃうかもしれないわけだし。
……あぁ、昨日の夜、ちゃんと決心したのに!!
「なんか、言いにくいことなのか? ……言う? 言わない?」
「い、言うっ」
反射的に、そう返事をしていた。
「うん。だから、絵理佳が言うの待ってるから心配すんな。」
「……うん、ありがと。」
言うって決めたんだから。今頑張らないと、きっと後悔する。あたしは意を決して、口を開いた。
「あのね、雄真。……あたし、雄真が好きなの。付き合って、ください。」
言えた…! 頑張った! よくやったあたし!! そんな風に、ひとしきり満足感に浸った後。さすがにそろそろなにか返事はないのかと思って雄真を見ると、驚いたように目を見開いていた。……雄真? どうしたの?
「……え?」
雄真が発したのは、間の抜けた声だった。それ切り、なにも言ってくれない。しかも、なんだか難しい顔をしている気がする。……もしかして、幼なじみの関係を崩さないでおくために、どうやって断ろうか悩んでいたりするの…? そ、それは申し訳ない! そう思って、あたしが謝ろうとした時だった。
「…………で?」
雄真が、困惑したような顔で、言い放った。…………いや、いやいやいやいや! 「で?」って何?! 告白の返事が「え?」と「で?」ってどういうこと?! あたし、すっごい勇気振り絞ったんだよ?!
既に頭の中は混乱状態なのに、雄真は追い打ちをかけるように言った。
「えーっと……それは、嘘ってことでいいのか?」
「は、はいぃぃっ?! な、何のメリットがあって嘘の告白なんてするの! なに言ってるの!? 本気だよ、本気っ!!」
あたしの告白が、嘘だと思ったってこと?! それはいくらなんでも酷いよ雄真! どういうことなの雄真!
「いや、今日エイプリルフールだから、俺のことからかってんのかと……」
「……え?」
…………あ。確かに、言われてみれば。
「……ホントだ。」
「……え? 知らなかったのか? ……じゃあ、絵理佳の告白、本気? 嘘じゃなくて?」
「…………。」
悔しくて、雄真を睨んだあと、分かりもしない数学の問題に手をつけるフリをした。
「絵理佳ー?」
「……いいよ、なにも聞かなかったことにして。」
最悪だ。よりによってエイプリルフールに告白するなんて。なんてことだ。もっとちゃんと告白する日を選ぶべきだった。
「絵理佳、もっかい言って? ちゃんと聞くから。」
「やだ。」
「もう一回。もう一回言ってくれたら、絵理佳が欲しい返事、あげるから。」
「……っ、あ、明日言う。」
「何で?」
今すぐ言えばいいだろ? なんて雄真は言うけど、嫌だ。
「……やだよ。だって、エイプリルフールだもん。」
そう言ったあたしを見て、何故か笑う雄真。あぁ、笑顔が素敵……じゃなくて。
「明日言おうと今日言おうと、返事は同じなのに。」
雄真は、あたしの頭に手を置くと、髪の毛をくしゃって撫でた。
「俺も好きだよ、絵理佳。」
反らしていた視線を、雄真に戻す。
ちょっとだけはにかんだような笑顔につられて、あたしも自然と笑顔になっていた。
「俺と、付き合ってください。」
あぁ、あたし雄真が好きだなあって再確認した、幸せな瞬間。
*おまけ
「えっと、それ、ホントだよね? 嘘じゃないんだよね?」
「わざわざそんな嘘つかねーよ。……エイプリルフールに告った絵理佳が悪い。」
「だ、だって忘れてたんだもんっ」
絵理佳ちゃん
女子バレー部(予定)。160cm。
幼稚園の頃から、幼馴染みの雄真くんに片思い。実は中学の頃から両片思いだったと知るのはもう少し先。
雄真くん
男子バレー部(予定)。184cm。
中学の頃、絵理佳ちゃんが告白されたと知って自分の気持ちに気付いた。自分から告白できなかったのは残念だけど絵理佳が可愛いから許す、と密かに思っている。