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Short Stories  作者:
2/6

相合い傘

梨歩(りほ)ー。今日雨降るわよー?」


「折りたたみ持ってるから大丈夫! 行ってきますっ」


 ホントに持ってるのー? って言ってるお母さんに、あたしは大丈夫って答えて家を出た。


 高校になると、たいていの人は自転車通学に。だけど、あたしは学校まで歩いて10分だから、歩くことにしてる。


 ホントは、あたしが歩いてると、真辺(まなべ)くんが自転車で追い越しながら、おはようって言ってくれるのが嬉しくて、それだけのために、徒歩で通学してるんだけど。


 今日も、なんとかいつもと同じ時間に家を出れたから、きっと真辺くんにおはようって言って貰えるはず。……慌てて出て来たけど、大丈夫かな。髪型、おかしくなったりしてないかな。あぁ、鏡ちゃんと見てくるんだった…!


 あたしがそんなことを思ってると、額に冷たいものが当たった。


「――雨…?」


 え、もう降ってきたの?!


 あたしはかばんを開けて、折りたたみを探した。たしか、このへんに…このへん、に、……ん?


「な、ない?!」


 何で? 折りたたみ傘、入れたと思ってたのに!


 すると、急に雨が当たらなくなったと同時に、すぐそばで声がした。


「傘?」


「ひゃっ?!!」


 びっくりして、変な声が出てた。


「はは、変な声っ」


 そう言って折りたたみ傘をさして笑うのは、


「おはよ、春井(はるい)。傘、入ってく?」


 大好きな、真辺くん。



「お、おはよう、真辺くん…っ」


 な、何で、傘…? 自転車通学の人は、危ないから雨の日は合羽じゃないとダメだった……よね?


 あたしの思考を読み取ったみたいに、真辺くんは肩を竦めて、笑ってみせた。


「実は、朝寝坊して慌てて来たから、合羽持ってくるの忘れて、さ。かばんに入れっぱなしの折りたたみしかないんだ。」


「そ、そうなんだ……」


「うん。さ、そういうわけで俺、自転車押してくから、傘入って。あ、かばん、かごに入れるよ。貸して。」


「っ、え、いやでも…っ」


 真辺くんが濡れちゃうし、何より、恥ずかしい…!


「……春井? どした?」


「えっと……」


 真辺くんは何とも思わないの、かな。……その、あたしと、相合い傘、なんて。


「い、いいの?」


「いいのって、そんなの遠慮することないだろ? このまま濡れてたら風邪ひくかもしれねーし。」


「……で、でも、相合い傘、だよ…?」


 あたしが言うと、真辺くんは固まってしまった。


 ど、どどどどうしよう…!! 相合い傘だとか、そういうこと、真辺くんきっと気にしてなかったんだ…!あたしなんて、友達くらいにしか見てなくて、って言うか事実ただのクラスメートでしかないし、あ、でもそもそもちゃんと友達って思って貰えてるかすら怪しいけど……。


「あ、あの、ごめんね、変なこと言って。……でも、あの、真辺くん、困るでしょう?」


 あたしが言っても、真辺くんはしばらく固まったままだった。


「……えっと、なにに?」


「な、なにに、って……その、あたしと相合い傘なんてしたら、誤解されちゃうよ?」


 まさか、あたしホントに何とも思われてない…?!


「あぁ、そんなこと気にしてんの?」


 そ、そんなこと?!


「気にしなくていいのに。誤解されても全然大丈夫だから。って言うか、寧ろそのほうが俺的には助かるかも。」


「……え?」


「周りにそう思わせといたら、春井に男が寄ってこなくなるだろうし。」


 えっと、それってどういう……


「あ、春井が嫌なら、無理して相合い傘なんてしない。この傘、貸してあげるよ?」


「そっ、それは真辺くんが濡れちゃうよ! いや、相合い傘してもきっと濡れちゃうんだけど……」


「いいよ、別に。」


「……いいの…?」


「うん。春井と相合い傘できるなら、ちょっとぐらい濡れたって平気。」


 そう言って、真辺くんは笑った。


 ……それは、期待しても、いいんでしょうか。


「俺は春井と相合い傘できたらすげー嬉しいんだけど、春井は、俺と相合い傘、嫌?」


 ああもう、真辺くん! そんなこと言われたら期待しちゃうよ! 自意識過剰にもなっちゃうよ!!


「……春井?」


 嫌なわけ、ないじゃん。


「えっと、じゃあ……、お願いします…」


「ん。お願いされました。」


 そう言って笑う真辺くんに、胸が、きゅんってなる。好きって気持ちが、どんどん大きくなる。


 雨の日だって、大好きな真辺くんと相合い傘ができるなら、嫌じゃないかも。そんな風に思った。


「ほら、入って。」


「う、うん、ありがとう。」


 真辺くんの傘に、恐る恐る入れてもらった。いつもより距離が近くて、ドキドキする。


「……そんな緊張しなくていいのに。」


「む、無茶言わないでよ、好きな人と相合い傘だよ? 好きな人と! ……っ、あ。」


 思わず、漏れてしまった本音。……あー、えっと、この後どうなったかは、皆さんのご想像にお任せします。

春井梨歩

美術部。163cm。

同じクラスの真辺くんに片思い。

おはようを言うのが毎朝の楽しみ。


真辺祐輔

サッカー部。176cm。

同じクラスの春井さんに片思い。

毎朝おはようを言いながら、ドキドキしてるのを悟られないようにするのに必死。

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