君に恋するきっかけは、
「青木って、いっつもなんか食ってるよな。」
「ん、んんっ?」
大好きなチョコパンにかぶりついたまま、あたしは隣の席の松本くんのほうをみた。
『いっつもなんか食ってるよな』
って男の子に言われちゃうのって、ちょっと問題なのかな。こいつ大食いだな、とか思われたかな。
少し不安に思いながら松本くんをみると、松本くんは、ニカッて笑ってた。
ただ今、3時間目と4時間目の間の休み時間。つまり、あたしが毎日パンやおにぎりを食べる時間。……いや、お腹すくんだよ。何か食べないとお弁当までもたなくて、さ?
席替えをして、新しい席になってから、今日で2日目。
隣の席には、バスケ部の松本くん。
今まで接点がなくてあんまり喋ったことはなかったけど、割と人懐っこい性格。あいさつは、毎朝交わしてる。
松本くんとあたしは、友達とも、あかの他人とも言えない、ただのクラスメート。………だったんだけどな。
「チョコのクリームかな? 頬っぺたについてる。」
「え、やだ! ほんと?」
クリームを頬っぺたにつけてるなんて何歳児だ! 高校生にもなって恥ずかしいっ
あたしが、どこどこ、なんて言ってあわてふためいてると、松本くんの手がのびてきた。
「……えっ…!」
右の頬っぺたに松本くんの指が触れた。そのまま、松本くんは、何か――きっと、チョコクリームだ――をすくいとった。
「ほら。」
「わわ、ご、ごめんっ! とっ、ととととりあえずティッシュ貸そうか?!」
あたしが恥ずかしくてしかたないのを頑張って隠して言うと、松本くんは
「とが多い。」
って言って、笑った。……なんか、きゅんきゅんしてるのは気のせい…?
なんて思ってると、松本くんはそのまま、指のチョコクリームをなめた。
「ま、松本くん…っ!」
「でも、そういうとこも全部、可愛いんだけどさ。」
そう言って、笑うから。
君の笑顔が、頭から離れない。
「な、ななな何言って…!」
「んー、本当のこと? 何か食ってるときの青木、すっげー幸せそうな顔してるから。」
「へ!?」
「俺いっつも青木見て癒されてんだよ。……うん、今日も可愛い。」
……松本くん、それ、反則。
あたしは真っ赤になった顔を隠す為に、顔を両手でおさえた。
君に恋するきっかけは、席替えと、チョコパンと、はにかんだような君の笑顔。
青木さん
茶道部。いつも背筋がピンとしてて姿勢が良い。
かばんの中に常になにかしら食べ物が入っている。よく食べる。
笑顔が眩しい。小柄。150cmくらい。
松本くん
バスケ部。181cm。
入学式の日に青木さんに一目惚れ。
4時間目の前の休み時間に、なにか食べてる青木さんを見るのが毎日の楽しみ。
思ってることさらっと言っちゃう。人懐っこい。