来るな!変態め!
ああ、綺麗だな。ひらひらと、雪が舞うそれは、桜のようで。
冷え切った、指先で雪を受け止める。
「雪かー・・・寒いわけだ」
フーと、息を手にふく。「あー寒い寒い、外回り向いてないなー」
寒がりの私に、この時期の外回りは向いていないと一人頷くけれど、まぁ実態は変わんないので目的地まで黙々と進む。
わー、ここかー。
大きなビルがそこには、立ちそびえていて。
「よっし、行くぞ!」
ビルの中は暖かく、少し癒された。
やり手っぽい人に、大きな扉の前まで連れて行かれ「ここです」と指さされた。
今日の仕事は、提携先の契約内容の再確認だ。「失礼します、『scarlet』の・・・」
扉を開けつつ、自己紹介をするが
「お前は、自覚がなっとらん!次期当主は、お前だぞ!」と、おじさま。
「うるせーっての!」と、若い男性が。
「自覚をもて!」
わぁ、面倒な場面に出くわした。よし、帰ろう。うん、帰ったほうがいい。
こういうときの勘は、良く当たるものだ。よし、帰ろう。
「お前、なんだ?」
いー!バレた!若い男性は、私服姿でこちらを見下ろしていた。私の身長は、160はあるのに、見下ろすとは!きっと、180はあるな、うん。
じゃなくて、「えーと、『scarlet』の暁月耶です。」
「『scarlet』の、ああ。名前からして男性だと思っておったが・・・そうか。君が」
「ええ、なんだか部長よりお前は肝が据わってると言われ・・・」
「確かに、肝が据わっているようだが・・・今の状況は、理解しておるかい?」
「ええ、帰ろうかなと。思ったのですが、彼が、私を見つけたようで」
おじさまと、淡々と会話を進めるがちらちらこちらを見てくる若い男性がすっごい目ざわり何ですが。
ふふふ、とほほ笑みつつチラリと睨みつける。「・・・っ」
は、なぜに顔を赤らめる!?「お嬢さん、今回はどのような用件で?」
「えーと、契約内容の再確認を」
****
「ねぇ、暁月耶さん。」
甘いルックスの彼は、先ほどおじさまと険悪な雰囲気で言い合っていた彼だ。
なんだ、面倒だなー。
「なんです?」
「これから、お食事でもどーですかー?」
は、こいつは何を考えているのですかねー?私は、まだまだ仕事があるってのに!
今回、ここに来たのは前回まで来てた人が、ぎっくり腰で。ここに来るには、勇気がある人しかこれないからと私が抜擢されたわけで、ここが終わったらオフィスでの仕事が残っている。
ていうか、まぁたしかに肝が据わっていないとこれないわな。ここ、確実に極道一家の社長だった。
あの、おじさま。凄味をかけてきてたし。
「お食事は、無理です。まだまだ、仕事あるんで」
スタスタ、無視して歩き去るが後ろをついてこないでほしい。彼の、ルックスは目立つ。
女性諸君が、みているぞ。まぁ、オススメはしない。彼、極道一家の次期当主だ。あの、会話からして。
「はー、面倒。」
雪が、ちらちら降る。寒いのに、と一人呟いて。
とたんに走る。まくしかないって!ああ、今日低めのヒールはいてきて良かったー。
「嬢ちゃん、ついてきてもらおうか?」
くそ、何だよ。厄日!厄日!「嫌です!」「肝据わってんなー、こりゃ坊ちゃんの好みだ」
「ちょっと、なに?仕事あるんですからね!」
「いいから、坊ちゃんの機嫌損ねるのはわしらもちょっと遠慮したいんで」
強面のくせに、弱いわけ?苦笑しながら、こちらに近づくなって!
「八女、触るなよ。」「へい、坊ちゃん」
と、呼ばれ出てくる奴は先ほどのアイツだ。
「暁月耶さん、俺久遠円李って言うんだけど。俺の嫁にならない?」
ちょっと、食事から飛ばしすぎでしょ。いきなり、嫁は無いと思う。
その前に、ないけど。いろいろと。
「・・・私を怒らせるな、私を誰だと思っている?」
何かが、キレた。私の中で。ぷっつりと、ね。しつこい男は、嫌いだし。権力を振りかざす男も嫌い。
なにより、極道が嫌い!
「嬢ちゃん、痛い目に会う前に・・・」「・・・・は?だーかーらー、私を誰だと思っている?」
仕方なしに、スカートだというのにとび蹴りをかます。八女と呼ばれた、強面の人を。
「ぐへっ!」「ふざけるな、プライベートならまだしもそれも、ないけど!仕事中だっつうの!」
その後ろにいた、私の進路を閉ざしているこれまたイケメンだが野獣的な笑みを浮かべてるやつも気に食わなく、鳩尾にひざ蹴りをしてやると。悶絶していた。
「久遠円李。私は、あんたが嫌いだ!」
精一杯の睨みをきかすと、顔を赤らめていた。
「ねぇ、俺にもナニカ頂戴?」と、笑顔で言われた時私は思った。
・・・・・・・こいつは、変態だと!!
雪が舞う舞う、舞う。寒いはずだー。でも、無駄な戦いのため身体の中は暖かい。
「はー、ちょっと部長!私、面倒事に巻き込まれたんですけどー」
「いやー、はははは。君には最適な場所だと思ったんだけどなー」
「・・・・部長、死にたいですか?」
「・・・・いや、ごめん。ごめんって」
人がいなくなった瞬間に、口調が変わる部長。それもそうだ、
「月耶、ごめーんよ」「兄さんは、知ってました?久遠円李という変態を」
弱冠23という若さで、部長をする兄は瞳を潤ませていたのを即座にキリッとさせると私の肩をグワシっとつかみゆする。「わーわーわーキモチワルイ!」「あ、ごめん!」
「会ったの?」「ええ、あいましたとも。狙われて、一暴れもしてきました」
「うそー、うそー。あの、靡かない男のあいつが?」
その言葉に、疑問を覚えた。靡かないってなに?「あれは、ルックスがいいくせに女にまるで興味がないって有名な奴だぞ?この世界では」
兄の、その言葉は嘘だと思った。けど、本当らしい。
強面だが、イケメンなおじさま。これが、私の父。
「ねーねー、月耶ちゃーん!なんかね、なんかね、月耶ちゃんを調べる輩がいるんだよねー。潰す?潰すよね?」
と笑顔で言う彼は、極道一家の当主様だ。しかし、私や母にはとんと甘い。
「まぁまぁまぁ。カワイイ月耶ちゃんを?」
と、笑顔でいうかわいらしい彼女は私の母。
「いいよ、きっと久遠組でしょ?はーもう、キモイ。変態。」
「ぬぁにー、あれか!あいつか!あの、久遠か!どっちだ、どっち?!」
父は、くい気味に聞いてくるので若干引いた。
「息子、円李?だったかなー」
「やつが・・・・何ということだ!さすがにあの男も、うちの月耶ちゃんには負けたか!」
というので、本当なのだろう。
それからは、大変だった。彼は、私の正体を知らずに求婚する。
「やぁ、結婚しよう!」
「うるさい!」げしっと、脛をければ、恍惚とした表情を浮かべる。
「子供は、何人ほしい?」
「あんたと、子を作るつもりはありません!」
と、グーでパンチすれば赤らめてもっととすがる。
気持ちが悪い!
分っていない、分っていない!
「いっておきますが、家は暁組ですよ?」
暁組は、ここらでも有名だし。海外にも進出している。極道間でも暗黙の了解的なものがあって、
暁組には手を出してはいけないてきなルールがある。
それを、破りつつある彼は大丈夫か?バカだ。といっても、私が暁家の娘だと知る人はいないけど。
極道ほど、面倒なことは無い。面倒なものは、嫌いだ。極道の娘でありながら、極道が大嫌いな私は今日も変態と戦うのである。
「やぁ。俺、暁家に入ってもいいよ!久遠組なんて、あんますごくないし!」
「はいらんで、いい!」
そういって、とび蹴りをする。もう!つかれる!
また、恍惚とした顔でこちらをみるなって!