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過去回想 1

葵の決意

「やったー、これで逆ハーエンドっ」

「逆ハー?」


 嬉しそうにコントローラーを放り出す幼馴染。

興味が無くて同じ部屋で寝転んで漫画を読んでいたあたしは単語の意味が判らず、起き上がって彼女の見ていた画面に目を向けた。

 すると、この恋愛ゲームとやらに登場する攻略対象の美形の男性キャラ達が全員主人公の少女の傍に寄り添い、こぞって彼女に笑顔を見せ、自分へとその微笑を向けて貰おうとこちらが恥ずかしくなる位の甘い言葉を囁いている。主人公の顔はうっとりと頬を染めてまんざらでもなさそうだ。


「なっ、なんじゃこりゃ」

「あおちゃん、これぞ乙女の夢、逆ハーレムエンドですよ。攻略キャラの各ベストエンドを全部一回ずつ見た後じゃないと見れない特殊仕様のエンドなんだよ」

「どこが乙女の夢だよ。こんなのただの可愛い顔した性悪(ビッチ)じゃねーか」


 呆れた顔のあたしに、ふふんと得意げな顔で幼馴染が解説する。

 近頃、この部屋に来る度に何度も耳にしたエンディング曲を背景にスタッフロールが流れるのを目の端に入れながら、今までのゲーム内容を思い出す。この部屋に足を運ぶ度にキャラのエピソードを熱心に語る幼馴染から聞かされて、プレイしている場面も見せられていたが、それぞれの男性キャラと心が近付く内に知っていく相手の抱えている悩みや問題を、主人公が受け止めて初恋を実らせていく過程は見ていて照れ臭くなったり、微笑ましくなったり、死んでも口には出さないがちょっとドキドキさせられたものだ。

 恋愛は一対一でやるものじゃないのか。あのピュアな主人公はどこに行った。

それなのに、この全員取り巻きになるのが乙女の夢とか正直理解できない。

 そんなあたしの気持ちが表情に出ていたのを読み取ったのか、幼馴染が苦笑しながら言った。


「現実的にあり得ないからこその夢なんだよ~、あおちゃん。格好いい男の子沢山にちやほやされて、素敵な愛の言葉を自分だけに囁いて欲しいっていう夢がこのゲームでは誰にも迷惑掛けずに叶うの。実際に目にしたらあたしだってドン引くわー」

「実際いたらな……。あたし、身内なら性格、矯正するわ」

「うっ、あおちゃんが矯正とか言うと、洒落になんないからやめて」

「あんたは矯正しても治らなそうだよねー……」


 肉体言語こわい、とか謎の言葉を呟く幼馴染に今度はその呆れた眼差しをあたしは向けたのだった。





 自分があの時のゲームのキャラクターの一人だと気付いたのはいつ頃からだったか。多分、自分を含む周囲の人の名前や設定、ゲームの中でよく見た自宅の背景や内部の画像、地名や学校名やその画像などが全て記憶に残っていた物と瓜二つだった事に気付く度、私の疑念は確信へと変わっていった。

 そうして、生まれたばかりの妹を見つめながら幼い私が思った事は、ただひとつ。


(この子をあの性悪(ビッチ)にだけは、絶対させない……!)


 私の中の固い決意だった。

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