転生しました。
転生した先は
強い衝撃があった、と感じた後は真っ暗闇に包まれてそのまま意識を失ってしまった。痛みは無かった。そうして、次に気付いた時に目に入ったのは柔らかい光だった。視界がゆらゆらとして定まらない。
「……ぁ…?」
(ここ、どこ……)
場所を確認する為に頭を巡らせようとするが、体が思うように動かない。病院なのかと思ったけれど、体に痛みは無く、全身が柔らかくて温かいものに包まれている感じがした。
「あ、目が開いた。見てよ、蝶子さん」
「本当ね。あたし達の事が判るかしら?」
仲睦まじそうな男女の声が頭上から降ってきて、ぎょっとする。
自分をすっぽりと腕の中に抱きかかえた見目麗しい大きな人達がじいっとこちらを見下ろしてきたのだ。
あおいちゃ~ん、パパですよ~、と男前の男性の方が突然とんでもない事を言った。
(なっ、何なんだ、この人たち…!!)
見知らぬ男性から自分の名前を呼ばれて、しかも突然の父親呼ばわり。
近付く顔を慌てて振り払うとパシリ、と目の前の男性の顔に自分の手が当たった。あいて、とへらへらと幸せそうに笑う男性の顔が視界に入ったが、そんな事よりその手を見て悲鳴をあげそうになった。
どこからどう見ても、赤子の手。
目を瞠ったまま固まったあたしは、叫んだ。
(なんだよ、これー!!!)
「ふ、ふぎゃあぁ……っ」
混乱と悲しさが急激に胸の内から沸き上がる。
感情がうまくコントロール出来ないあたしの体はそのまま、火のついたように泣き出してしまった。
「ああぁ、あおいちゃんごめんねぇ、びっくりしたね~」
「そうよ、いきなりパパの顔なんか近付いたら泣いちゃうに決まってるわ」
「蝶子さん、ヒドい……」
ぐすん、と泣き真似をした男性と突っ込みを入れる女性。
そんな二人を尻目にあたしは未だ涙を流していた。
そうして、それから暫くしてあたしの気持ちが周囲を見渡せるほど落ち着いた頃、改めて気付く。オタクの幼馴染のお陰で何となく理解したこの状況。
あたしは再びどこかに転生したのだ―――
◇
という事で、あたし、改め私は、神前 葵から百瀬 葵として再びこの世に生を受けた。ファンタジーの世界とかではなく現代にだが、正直ある意味ファンタジーだろうとあた…じゃなく私は思う。
あれから時は流れて、現在私は今年の春から高校3年生になる。
一気に飛びすぎだろうと言うかも知れないが、これからが私の人生のステージの中で非常に大事な一年になる事を知っていた。
受験生だから、というのもあるがそうじゃない。
私のこの世界での妹、百瀬 小春の為にこの一年はあると言っても過言では無いからだ。
そして、私はその事に深く関わらざるを得ない。
この世界は、前に生きていた世界での幼馴染に目の前で散々プレイしているのを見せられた恋愛物のゲームの世界と瓜二つで、その主人公は私の妹、小春だったのだから。
乙女ゲームの主人公の姉でした。