拝啓お父上様。~勇者学校からの手紙~
拝啓、お父上様。
桜も咲き綻び春らしい陽気の続く今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
毎日の日記を書き送るという約束通りここ最近の近況をお伝えしたいと思います。
父上が退屈しないように若干デフォルメしたりもしていますが、そこはさらっと流して大きな心で読んで頂ければと思います。
四月一日。
勇者学校の入学式。
なれない都会と全身鎧で少々緊張気味でした。
周りには勇者オルテガの息子やら大魔法使いポップの孫など凄い奴が沢山いました。
でもそこは父上の教えの通り、さわやかに微笑みかけて相手が油断したところを鼻骨にワンパン入れてイチコロでした。
なぜかその後いきなり職員室に呼び出されたのですが、やはり続けざまに止めを刺しに行かなかったのがいけなかったのでしょうか。
さすが勇者学校です。
少しの油断も許されないようです。
四月二日。
今日は校長先生の講話があってためになるお話を沢山聞かせて頂きました。
大変面白いお話だったのですが若干長かったためか居眠りをしてしまう新入生も見受けましたが、そこはやはり歴戦の古兵である校長先生のことですから、居眠りと見るやすかさず火球の呪文を雨あられと打ち込んで寝ようなどという気の二度と起こらないように優しく注意しておられました。
ただ、やはり新入生ということもあって訓練が不足していたのか息絶える者も続出して、保健室付きの司祭様も復活の呪文の連発で少々お疲れのご様子でした。
僕自身は父上の日々の稽古のおかげで多少の全身火傷ぐらいではびくともしませんでしたのでご心配なく。
四月三日。
今日は勇者学校の校舎を案内して頂きました。
暗殺練習室や魔法実験室など面白い部屋が本当に沢山あってわくわくしました。特に興味深かったのは卒業試験の時にも使用するというサバイバルルームでした。
この部屋は明かりが一切なく、そこにS級以上の魔物が放し飼いにされていて、しかも魔法仕掛けのトラップがそこかしこに張り巡らされていて、挙句の果てにこの部屋の中では一切魔法が使えないという本当に夢のような訓練環境なのです。
私も早くレベルを上げて一日も早くこの部屋の使用許可が下りるように頑張りたいと思いました。
その後、校内見学を終えて講堂に戻ってみると新入生の人数が半分以下に減っていました。全くみんな三日目にして早くもサボタージュのようです。
困ったものです。
ここは僕のような真面目な生徒がしっかりしなければならないなと褌を締め直しました。
四月四日。
今日から外部の先生を招いてのマナー講習が始まりました。
一人前の勇者になるためのマナーや心構えなどを現役の勇者の方々が直接指導してくださるという夢のような講習です。
今日お聞きした中で一番勉強になったのは、勇者たるもの常に下剋上の気概を忘れてはならないというお話でした。
確かに伝説の勇者ミツヒデやリョフなども、皆自分の師を乗り越えることによって名声を得たのですからこの教えはなるほどと思わざるをえません。
さっそく実践してみようと思い、放課後校長先生の寝首をかこうと校長室に忍び込んだのですが、そこはやはり校長先生のことですから、あっさり返り討ちにされてしまいました。
次回は校長先生が気付かぬ位超遠距離からの狙撃にトライしてみようと思います。
四月五日。
今日は昨日に引き続きマナー講習を受けた後、放課後二年生の先輩方が私たち新入生のために歓迎会を開いてくださいました。
卒業生の方々の伝説や先生方の裏話など面白いお話を沢山聞くことが出来ました。
一番驚いたのは、今の校長先生はなんと30年前学生時代に当時の校長の暗殺に成功し、その当時から今までずっと校長職を務めてきた方だという話でした。
通りで校長室の刺客対策が万全のはずです。
今日の朝も裏山から校長室の窓越しに狙撃を試みたのですが、超強化防弾ガラスにあっさりとはじかれて失敗してしまいました。
防弾ガラス対策に対戦車ライフルで臨んだのに…。
やはり生半可な覚悟では下剋上は難しいようです。
心を入れ替えて、全身全霊をかけて勝負に臨まなければならないと覚悟を新たにしました。
とまあ、僕の日常はこんな風に慌ただしく過ぎていっています。
新しい環境や習慣に戸惑うことも多いですが、周りの皆も優しいし、先生方も良い先生ばかりなので、毎日が本当に楽しいです。
ですからご心配なく。
父上も、お体に気をつけて、もう御歳なのですから怪我が治るたびに魔王に喧嘩を売りに行くのは控えて、長生きして下さい。
毎日寝る前に父上のことを神様にお祈りしています。
敬具