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憧れと両想いの狭間で…。

作者: 利々夢

 「今日はどんな日だった?」

 「へぇ~、それは良かったね。」

 「じゃあ、また明日ね。おやすみ。」


携帯電話を2つに折りたたむと、私はそれを枕元に投げた。

ベットの上にだらしなく横たえた体を右へ左へ倒してみる。なんだか気分が晴れない。

彼氏との電話はラブラブイチャイチャな要素がほとんど無く、単なる日常生活の報告会になっていた。


遠距離恋愛はキライだ。時間とともにすれ違っていくだけなら、傷が浅いうちに別れた方がきっと良い。

そう思っていたはずなのに、また同じあやまちを繰り返している、私。ダメだなぁ。

辛いかもしれないけど、彼氏とは早く別れよう。

最近、そんなことを考えることが増えていった。



---



ある日の休日、私はいつものように掃除や洗濯をしていた。

そこへ職場の先輩から電話が来た。


 「これから遊びに行っても良い?」


突然の申し出に私は驚いた。ワンテンポ遅れて、嬉しさが込み上げた。

なぜなら彼は、私がずっと前に想いを寄せていたヒトだから。

今の彼氏と付き合う2年前に出会って、ずっと忘れられなかったヒトだから。


 ピンポーン!


こうして一人暮らしのアパートに、先輩は用事も告げずやってきた。

仕事以外で2人きりになるのは、これが始めて。


――砂時計が上下を返され、音も無く砂粒が落ち始めた。


私は以前このヒトに告白をし、丁重に断られたことがある。

私のことを女の子として見てくれてないのは、なんとなく分かってたから、自分から振られに行ったというのが多分正しい。

あのとき、彼は私に「後輩としてしか見れない。」と言った。

その言葉を聞いて、想いを吹っ切ったおかげで、私は現在の彼氏と付き合うことができたのだけど・・・。


 「りんごジュース買ってきたんだけど、これで良かったかな?」

 「わぁ、ありがとうございます☆これ、初めて見る種類です。早速コップ出しますね!」


今は遠距離恋愛中。そして、先輩の顔を見ると片思いだった頃の自分を思い出す。

好きで好きで、どうすれば振り向いてもらえるのか四六時中考えていた、そんな自分を思い出す。


 「まぁまぁ、とりあえず座ってください。はい、ジュースどうぞ。」

 「ありがと。」


心臓が高鳴らないと言ったら嘘である。

やっぱり、そばにいてくれるヒトはいいなあ。


6畳間の中央にある小さめのテーブル。その上に私はガラスのコップを2つ置いた。

気持ちが落ち着かなくて、台所とリビングを行ったり来たりしてみたが、特にやることが見つからない。

簡単な掃除でもしたいところだったが、すでに思いつく掃除は全部やり終えていた。

先輩も同じ気持ちだったのか、しばらく立ち尽くしていたが、私に促されてようやく座った。


彼はとてもお喋り好きだった。東京に遊びに行ったときの話。テレビで人気のお笑い芸人の話。最近若い女の子に人気のファッションの話。日本がもし戦争をやったら?なんていう妄想世界の話。それから、私が催促したときだけ過去の思い出話もしてくれた。

私は終始笑いながら相づちを打って聞いた。その光景は2年前も今も変わらなかった。

彼氏からこっちに乗り換えたい、なんて言葉が頭をよぎった。


――白い砂粒は、ゆっくりと、しかし確実に落ち続けている。


先輩のお喋りは1時間経っても、2時間経っても止まらなかった。

こんなに長く話をしたのは、さすがに初めてだろう。

どうやら、私と一緒にいる時間はキライではないらしい。


 「俺、最近疲れやすいんだよね~。歳のせいかな?」

 「何言ってるんですか?まだ若いじゃないですか(笑)じゃあ、私が肩もんであげますよ!」


こんな会話をして、彼に触れる機会もあった。

一見自然な流れだけど、実はこれ、意外な展開。


 「俺、肩もみ下手なんだよなぁ。ちょっとやってみていい?」

 「じゃあ、おねがいします。」


しかも肩もみのお返しが来た。

不器用に両手を動かしている姿を直接は見れないけれど、想像するだけでなんかおかしい。


その後もちょっとずつ、ちょっとずつだけど、体が触れ合ったり離れたりした。

付き合ってもいないヒトと、脇腹や太ももを突っつき合うなんて、初めての経験。

って・・・あれ?ちょっと距離が近すぎませんか?


いつも優しいけど、どこか核心的な部分は殻に閉じこもっていた彼。

2年前、私の告白を断ったヒト。そのヒトが無防備に私とじゃれている。

嬉しいけれど、不思議だった。


 「あの・・・なんか今日変ですよ?」

 「俺はいつも変だよ(笑)」


いやいや、そういう問題では無くて…。

楽しかった時間は続いているはずなのに、私の中には小さな戸惑いと不安が生まれていた。

私、甘やかされてる。どうなっているの?この状況?


――砂時計は止まらない。砂粒の落下はただ加速するのみ。


しばらくして。

どちらが手を差し伸べたのか、はっきりとは覚えていない。

ただ、気が付くと彼の腕が私を囲うように輪を作り、お互いの頬が触れ合った。

どうしちゃったんだろう?顔が赤くなるのが分かる。


 「こういう状況はありなの?」


彼の問いに私は言葉が出ない。ただ流れに従い小さくうなづいた。心臓の鼓動が大きくなる。

私の背中に彼の胸板が密着する。

彼は私の肩や腕をさすった後、脇腹からお腹へゆっくり手を回した。

体型に自信の無い私は恥ずかしくて居たたまれない。


 「大丈夫だから。」


彼は私の考えが読めたのか、一言そう言い・・・私のお腹に当てていた手のひらを上に這わせた。

そして、胸に手を掛けた。擦られると感じてしまう。


あ・・・そこは、ダメ・・・。


声にならない台詞が脳裏を駆け抜けたが、彼には届かず。

ただ為されるがまま、体は敏感に反応してしまった。


背後も左右も塞がれ、長座の態勢で立ち上がることもできない。

私が抵抗しないことを確認した彼は、今度は右手を下へ滑らせた。お腹を通り越してもっと下へ。

その手はスカートの紐をほどいた後、下着の奥に侵入してきた。

そして核心部の手前で止め、らすように指先を擦りつけて来た。


え?ヤバイ!ヤバイよね、これ・・・。


私の頭に血が昇る・・・。ようやく、この先何が起きるのか読めてきた。


 「お願い…。辞めて…。」

 「何で?良いだろ?カワイイよ。」


カワイイなんて一度も言ってくれたこと無いのに、なんで今日はそんなに嬉しい言葉をくれるの?

首筋にキスされ、耳に吐息を掛けられる。あぁ…ん。エッチなことされてるのに、嫌じゃない。

呼吸が荒くなる。熱くなった体を冷ます手段が見つからない。


 「ホントにホントに…ダメ!!」


私の振り絞った声に、ようやく彼が怯んで手を引っ込めた。少しの間、時間が止まる。

でも、これで終わりでは無かった。

今度はTシャツをめくり上げると指先を"上"に這わせてきた。


彼の指はすぐにブラジャーまで到達した。恥ずかしくて声が出ない。力も入らない。

そして…それは服と一緒にめくり上げられてしまった。後ろから覗き込まれながら揉まれる。あぁ!

両手で上げたり寄せたりされる度に、私は全身で反応してしまう。気持ちいい。


 「もっと見たいなぁ。」


おねだりするような甘い声。耳元がこそばゆい。

首筋を甘かみされて、ますます力が抜けていく。それでも抵抗してみる。


 「ってか、もう見えてるじゃないですか!?それに…これ以上はダメです。」

 「いや、見せてよ。大丈夫だから。」


と、ここで彼が体勢を変えてきて…私は押し倒されてしまった。

床に背中が付いた直後、彼の両手によって胸をわし掴みにされる。

そのまま激しく揉まれて…時おり唇で吸われたり、舌先で転がされたりした。

いや!いやじゃないけど…でもダメ!


天井の蛍光灯がはっきり見える。逆に彼の表情は分からない。

どうしよう…。どうしよう…。

何が起きているのかは一目瞭然。なのに、それが何を意味するのか理解できない。


ずっと好きだったヒト。2年前にこうしてくれていたら、私には何も拒む理由が無かったのに。どうして、今なんですか?

あなたの心が分からない。いつから私を好きになってくれたの?それとも、もしかして衝動的な気まぐれ?

分からない。何を考えているのですか?

私はもうとっくに、あなたを諦めたのですよ。あなたは知らないでしょうけど、彼氏もいるんですよ。

なのに、こんな事されたら気持ちが揺らいで…私、どうしたらいいか分からなくなるじゃないですか。


 「ねえ、君の全部が見たいなあ。」

 「…!?」


本当は嫌じゃない。このまま誘惑に従えれたら、どんなに楽だろう。幸せな気持ちになれるかな?

でも、ダメです。きっと次の瞬間、彼氏への罪悪感で心が支配されてしまうから。

ごめんなさい。もう、夢の時間は終わりにしましょう。


 「やめて!お願い。ホントにホントに、もう…おしまいにしましょう。」


私の強い意思表示に彼は今度こそ手を止めた。ハァ。ハァ。

体をひねって逃げると、私は何とか起き上がった。

彼を見ると…バツの悪そうな顔。


 「あ~あ。俺、こういうときの押しが弱いんだよなぁ。」


彼は急にしなびた花のように元気を無くしていた。

ごめんなさい。せっかく私を求めてくれたのに、答える事ができなくてごめんなさい。


――砂時計の砂は、一粒残らず全部落ちた。


彼はもう、私に触れようとはしなかった。

ただ、張り詰めた空気を和らげ、私が落ち着くまで軽くお喋りをしてくれた。

そうして帰り支度を整えると、私のアパートを後にした。


---


次の日。電話が鳴った。


 「もしもし?」


受話器の向こうから聞こえてきたのは、聞きなれた彼氏の声。


 「元気?」

 「うん、まあまあだよ。」

 「今日はどうだった?」


いつもと変わらない、日々の生活を報告しあうだけの電話。

昨日の事件はもちろん報告していない。言える訳が無い。


あ~あ。私は運が無いなあ。この電話の相手とは、もうすぐ別れる運命。昔好きだったヒトとは両想いだったと分かったのに結ばれない運命。

これから独身貴族への道、まっしぐら。

…そんなことを考えていたのに。


 「あのね、好きだよ。」


受話器の向こうから聞こえてきたのは意外な台詞。口下手な彼からの素直な気持ち。

私はそんな事言ってもらえる資格ないのに。


 「俺、会いたいな。」

 「・・・うん、私も会いたいよ。」


ふと自分の口から漏れる言葉。

ああ、やっぱり私、彼の事が好きなんだ。そう思ったら・・・別れようといは言えなかった。


遠距離恋愛はキライ。肌に触れる感触も忘れてしまいそうで、ささいな仕草も感じることが出来ないから。

でも私は、彼氏の気持ちが嬉しかった。毎日電話をくれるのが嬉しかった。

直接会えることも大事だけど、でも心が通じているって事の方がもっと大事だと今分かった。


もうちょっとこの関係を続ける、って選択肢もあるのかな?

私は一つ、恋への考え方を変えたのだった。



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