第6話:ヴァランティーヌ・ブランドの夜明け(第1章完結)
第1章、完結回となります。
悪徳商人ギルバートとの騒動を経て、街の空気は一変しました。 スカーレットが作り上げた『本物』のストールを巡り、ついに街の権力者が動き出します。
全てを奪われ、着の身着のままで追放された令嬢が、自分の足で立ち上がる「夜明け」の瞬間をぜひ見届けてください。
昨晩の出来事は、瞬く間に「バレー・ド・ラヴァ」の街中に広まった。
悪徳商人ギルバートの魔法衣が突如燃え上がり、それを謎の「白銀の布」が救ったという噂。
そして何より、その布を操っていたのが、追放されてきたばかりの「赤髪の令嬢」であるという話が。
翌朝、バーナビーの工房の前には、これまでにないほどの人だかりができていた。
「おい、本当にあんなボロ屋にそんな宝があるのかよ?」
「ギルバートの旦那が真っ青になって逃げ帰ったってのは本当か?」
ざわつく群衆を割って、一台の馬車が止まった。
降りてきたのは、この街の領主代行を務める、初老の紳士・レナードだった。
「バーナビー、いるか。昨晩、君の工房で『奇跡の防炎布』が生まれたと聞いたが」
バーナビーが困ったように私を見る。私は頷き、レナードの前に出た。
「代行様。それは奇跡などではありませんわ。正当な素材と、正当な技術。そして、それに見合う正当な『プライド』が形になっただけのことにございます」
私は、昨日ギルバートの命を救ったあのストールを、台座の上に広げた。
朝の光を浴びた銀糸は、生きているかのように脈動し、周囲の空気を清冽なものへと変えていく。
レナードは言葉を失い、震える指先でその布に触れようとした。
「待ってください、代行様。……その布は、現在『一億レアル』の値を付けております。不用意に触れて価値を損なわれぬよう」
周囲が静まり返った。
一億レアル。この街の予算の数ヶ月分にも及ぶ、常軌を逸した金額だ。
「……ふん、ふざけるな! そんな布切れ一枚に、誰がそんな金を出す!」
人混みの後ろから、包帯を巻いたギルバートが叫ぶ。
彼は昨晩の恐怖を、怒りで塗りつぶそうとしていた。
「そもそも、そんな高価な素材、どこから持ってきた! 盗品か、さもなくば禁忌の魔法か……!」
「いいえ、ギルバート様。これは、あなたが『ゴミ』として放置していた森の蜘蛛から頂いたものですわ。あなたが安売りにうつつを抜かし、足元の宝をドブに捨てている間に、私はそれを拾い上げただけ」
私は一歩、彼に向かって踏み出す。
「この街が貧しいのは、資源がないからではありません。あなたが『安物』で人々の目を曇らせ、本物を作る職人の魂を殺したからです。……私は、それを正しに来ました」
レナード代行が、静かに、しかし力強くストールを見つめて言った。
「……確かに、これは一億レアルの価値がある。いや、それ以上だ。私がこれまで王都で見てきたどんな貢ぎ物よりも、美しく、そして『誠実』だ」
レナードは私に向き直り、深く頭を下げた。
「スカーレット殿。この街は、安物という毒に侵されていた。どうか、あなたのその『目』で、我々に光を見せてはいただけないだろうか。この工房を、街の公認工房として保護することを約束しよう」
ギルバートが絶望に顔を歪める中、周囲の職人たちから、地鳴りのような歓声が上がった。
それは、長く虐げられてきた彼らの、再起への産声だった。
「よろしいでしょう。ただし、私のつける値段に妥協は一切許しませんわよ。……『安物』は、この街から追放いたします」
私はバーナビーと視線を交わし、不敵に微笑んだ。
「ブランド名は――『ヴァランティーヌ』。私を捨てた名ですが、これからは私が、この名に本当の価値を刻んで差し上げますわ」
バレー・ド・ラヴァの空に、新しい太陽が昇る。 王都で私を笑った王子様。 偽物の聖女様。 あなたたちが手にした「安くて便利な平和」が、いつまで持つか……楽しみにしておりますわね。
第1章『辺境の目利き令嬢、始動』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
自分の名を捨てさせられたスカーレットが、あえてその名を冠したブランド『ヴァランティーヌ』を設立する……。彼女の強さと誇りが伝わっていれば嬉しいです。
これにて第1章は幕を閉じますが、物語はまだ始まったばかりです。 第2章では、ブランドの噂を聞きつけた王都側との衝突や、さらなる至宝の制作、そして彼女を支える新たな仲間(あるいは恋の予感?)など、さらにスケールアップしてお届けします。
【読者の皆様へのお願い】 「続きが読みたい!」「スカーレットの逆襲をもっと見たい!」と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や、下の広告の下にある**【☆☆☆☆☆】評価**いただけますと幸いです。
皆様の応援が、執筆の最大のエネルギーになります! それでは、第2章でお会いしましょう。




