第15話:美しき監獄と、番人の咆哮
いつもお読みいただきありがとうございます! 美しき白磁の像に隠された、あまりに惨い「裏」。 それを指摘されたユリウス王子の反応は……? スカーレットの審美眼が、王室の最深部の闇に触れてしまいます。 命懸けの鑑定、その結末をどうぞ!
静寂が、広間を支配した。 私の言葉がユリウス王子の耳に届いた瞬間、彼の完璧な「王子の仮面」に、目に見えるほどの亀裂が入った。
「 ……ほう。……ああ、素晴らしい。本当に見抜くのだな」
ユリウスはゆっくりと立ち上がった。 その拍手は、賞賛というよりも、獲物を追い詰めた猟師が漏らす満足げな溜息に似ていた。
「 歴代の鑑定士たちは皆、これを『神業の彫刻』だと称え、その奥にある魂の悲鳴には気づかなかった。……スカーレット、君の目はやはり特別だ。私が喉から手が出るほど欲しかった『真実の天秤』そのものだよ」
「 ……殿下。これは芸術ではありませんわ。ただの、冒涜です」
私は吐き捨てるように言い、白磁の像から目を逸らした。 私の審美眼には、少年の像に絡みつく無数の呪詛が、黒い鎖となって王子の腕にまで伸びているのが見えている。
「 冒涜? 違うな、これは『永遠』だ。この美しさを保つために、一人の少年の時間を止めた。……そしてスカーレット、君もその一部になってもらう。君のその瞳があれば、私は世界中の『価値』を支配できる」
ユリウスが指を鳴らすと、影から武装した私兵たちが音もなく現れ、私たちを包囲した。 逃げ場はない。だが、私の隣に立つ男の温度が、一気に氷点下まで下がった。
「 ……言ったはずだ。お嬢様の目は、君のような腐敗した人間には勿体ないと」
レオンが静かに一歩前へ出る。 その瞬間、彼の周囲の空気が激しく振動し、銀色の髪が未知の力によって逆立った。
「 下がっていろ、スカーレット。ここからは、私の『仕事』だ」
「 レオン……!? 貴方、一体何を……」
レオンが床を強く踏み締めると、石畳に複雑な幾何学模様が浮かび上がった。 それは、ハンスと共に織り上げた「月光のボレロ」に刻んだ術式と同じ、古代の理。
「 ……その像を壊せ、レオン! 中の魂を解放して!」
私の叫びに、レオンが不敵に笑う。
「 ああ。……『鑑定士』の名において、この安物をスクラップにしてやろう」
レオンの手から放たれた銀色の閃光が、白磁の像へと伸びる。 ユリウス王子の顔が、初めて恐怖に歪んだ。
「 止めろ! それがどれほどの価値があると思っている!」
「 価値? そんなもの、お嬢様が認めない限り……ゼロだ!」
轟音と共に、白磁の像が粉々に砕け散った。 中から解放された淡い光の粒が、夜空へと消えていく。 それと同時に、私兵たちの剣がレオンに襲いかかったが、彼の周囲に展開された不可視の防壁に、文字通り「安っぽく」弾き返された。
「 ……っ、貴様ら……! 生かして帰すと思うな!」
ユリウス王子の絶叫が響く中、レオンは私の腰を引き寄せ、バルコニーの窓を蹴破った。
「 しっかり掴まってろよ、スカーレット。……少しばかり、派手な逃走劇になる」
最後までお読みいただきありがとうございます! 王子の「秘蔵品」を破壊し、反逆者となったスカーレットとレオン。 レオンの真の力が少しだけ垣間見えましたね。 しかし、王都全体を敵に回した二人に、逃げ場はあるのでしょうか? 次回、第16話。「夜を駆ける銀の風」。 王都編、クライマックスへと突き進みます!




