第14話:毒を喰らわば、皿まで
いつもお読みいただきありがとうございます! 第一王子ユリウスとの一触即発の対面。 レオンの強い反対を押し切り、スカーレットはあえて王子の「罠」へと飛び込むことを決意します。 「安物」を見抜くだけが審美眼ではない。 真の価値を守るための、スカーレットの新たな戦いが始まります。
博覧会の喧騒から離れた、王都の別邸。 私は鏡の前で、レオンが用意した「夜の闇」を溶かしたような深い黒のドレスに身を包んでいた。 今夜はユリウス王子の私邸で行われる鑑定会。 公式な場ではないからこそ、何が起きてもおかしくない場所だ。
「 ……本当に行くつもりかい? あの王子の瞳は、君を人間として見ていない。ただの便利な『鑑定機械』だと思っている」
背後で腕を組み、不機嫌そうに壁に寄りかかるレオンが言った。 彼の銀髪は月光を弾き、その瞳には隠しきれない焦燥が浮かんでいる。
「 ええ、わかっていますわ。ですがレオン、逃げれば『ヴァランティーヌ』の名に傷がつきます。……それに、私の審美眼が囁いているの。あの王子の隠し持っているものが、この国の『未来の価値』を左右するかもしれないと」
私は振り返り、レオンのネクタイを整えるために手を伸ばした。 彼が小さく息を吐き、私の手に自分の手を重ねる。
「 ……頑固なところは、出会った時から変わらないね。いいだろう。君が毒を喰らうと言うなら、私はその毒を解く準備をしておくだけだ」
「 あら、心強いですわ。……さあ、参りましょう。蛇の巣穴へ」
ユリウス王子の私邸は、王都の北側に位置する静謐な館だった。 だが、門を潜った瞬間、肌を刺すような違和感が私を襲う。 庭園の植栽、並べられた調度品……。一見すれば最高級品ばかりだが、その全てに「冷たすぎる完璧さ」があった。 まるで、生きている人間の温もりを拒絶しているかのような。
案内された広間の奥、ユリウス王子が一人、豪華な椅子に座って待っていた。 彼の前にある円卓には、黒い布で覆われた「何か」が置かれている。
「 よく来てくれた、スカーレット。……そして、名もなきアドバイザー君も。歓迎しよう」
ユリウスは立ち上がることなく、顎で椅子を指した。
「 お呼び立てして申し訳ないが、どうしても君の『目』が必要な品があってね。これは、我がアステリア王室が建国以来、一度も公開したことのない『聖なる遺産』の一部とされているものだ」
「 ……王室の遺産。それを、一介の令嬢である私に鑑定させると?」
私が問い返すと、ユリウスの唇が歪な形に吊り上がった。
「 君なら、この『完璧すぎる美』の正体を見抜けると思ってね。……さあ、見てくれ」
彼が黒い布を剥ぎ取った。 そこにあったのは、透き通るような白磁の肌を持つ、小さな「少年の像」だった。 だが、その彫刻を目にした瞬間、私の視界が激しく歪んだ。
(……これは、何!?)
私の審美眼が、かつてない悲鳴を上げている。 美しい。あまりに美しい。 だが、その白磁の肌の奥に、私は見てしまった。 何層にも重なった、おぞましい「呪い」の術式と……。
「 ……殿下。これは『安物』どころの話ではありませんわ。これ、中に『生きている人間の魂』を閉じ込めていらっしゃいますわね?」
広間に、凍りつくような沈黙が降りた。
最後までお読みいただきありがとうございます! 王子の「秘蔵品」の正体は、美しくも恐ろしい禁忌の品でした。 スカーレットの審美眼が捉えた「裏」は、単なる偽物ではなく「生命」に関わる闇。 一歩間違えれば命を落としかねないこの状況、スカーレットとレオンはどう切り抜けるのか!? 第3章、いよいよ怒涛の展開へ突入します。 続きが気になる方はぜひ「いいね」やブックマークをお願いします!




