第12話:大公妃の審判と、ヴァランティーヌの誇り
いつもお読みいただきありがとうございます! ついに王都の審美界の頂点、カトリーヌ大公妃との対面です。 彼女の目は、どんな小さな誤魔化しも許しません。 スカーレットが心血を注いだ「月光のボレロ」は、その厳しい目にどう映るのか。 極上の緊張感をお楽しみください。
カトリーヌ大公妃の周囲だけ、空気が張り詰めているようだった。 彼女は、スカーレットが羽織るボレロを、刺すような鋭い視線で見つめている。
会場の貴族たちは、息を呑んでその様子を見守っていた。 大公妃が「俗悪」と一言言えば、その瞬間にスカーレットのブランドは王都から追放される。
「 ……スカーレット。貴女、これをどうやって手に入れたのかしら?」
大公妃の声は低く、感情を読み取らせない。
「 手に入れたのではありませんわ、大公妃様。我が街の職人が織り、私がその『理』を導き、完成させたものです」
スカーレットは臆することなく、真っ直ぐに大公妃を見つめ返した。
「 ほう。……ハンスという職人の名は聞いているわ。だが、この布の光沢……これは、ただの技術で出せるものではない。まるで、月の光そのものを閉じ込めたような……」
大公妃は、そっと白手袋をはめた指でボレロの袖に触れた。 その瞬間、ボレロが魔光灯の光に呼応するように、波打つ銀色の輝きを増す。
「 お気づきになられましたか。これは『月光蚕』の糸。……ですが、ただ織るだけではこの輝きは生まれません。糸の中に眠る魔力の流れを見極め、一点の澱みもなく整えて初めて、この『命の輝き』が宿るのですわ」
「 魔力の流れ……。それを貴女が『見極めた』と言うの?」
「 ええ。私の目は、隠された『裏』だけでなく、素材が持つ『真の価値』を見逃しません。……大公妃様。このボレロに、貴女を欺くような裏地は一枚もございません」
会場が静まり返る。 大公妃はしばらくの間、無言でボレロを、そしてスカーレットの瞳を交互に見つめていた。
やがて、彼女の唇がふっと緩んだ。
「 ……ふふ。面白い。王都の馬鹿げた流行を追いかける連中とは、格が違うわね」
大公妃は周囲に聞こえるような通る声で、高らかに宣言した。
「 見なさい。これこそが本物よ。派手な宝石で飾らなければ価値を示せない成金共には、一生かかっても届かない美学。……スカーレット・ヴァランティーヌ。貴女のブランド、私が保証しましょう」
その瞬間、会場中から割れんばかりの拍手が巻き起こった。 大公妃のお墨付き――。それは、王都のファッション界において絶対的な「勝利」を意味する。
遠巻きに見ていたエドワードとメリンダが、屈辱に震えながら会場を去っていくのが見えた。
「 ……お見事、お嬢様」
いつの間にか背後に忍び寄っていたレオンが、耳元で小さく囁いた。
「 ですが、あまり目立ちすぎるのも考えものです。……今、会場の入り口に現れた影。あれは、大公妃以上の『難敵』かもしれませんよ」
スカーレットが入り口に目を向けると、そこには軍服を纏った、氷のように冷たい瞳を持つ男が立っていた。 王室近衛騎士団長、そして王座に最も近いとされる第一王子、ユリウス。
スカーレットの審美眼は、彼の背後にどろりと渦巻く、かつてないほど真っ黒な「裏」を捉えていた。
最後までお読みいただきありがとうございます! 大公妃に認められ、完全勝利!と思いきや、新たな火種が……。 第一王子ユリウスの登場で、物語は美学の競い合いから、王宮の陰謀へと足を踏み入れます。 彼の「黒い裏」に、スカーレットはどう立ち向かうのか。 次回の更新もどうぞお楽しみください! 感想やブクマをいただけると、スカーレット様のドヤ顔がさらに輝きます!✨




