第11話:泥に沈む緋色と、月の女神の降臨
いつもお読みいただきありがとうございます! ついに始まった王立審美博覧会の前夜祭。 スカーレットが昼間に放った「予言」は、最悪の形で的中することになります。 本物の輝きと、メッキの剥げた虚栄。その対比をどうぞお楽しみください!
博覧会の会場となる王立劇場のサロンは、数百個もの魔石を使った「魔光灯」によって、昼間よりも明るく照らされていた。 この灯りは物の色彩を鮮明に浮き彫りにするが、同時に「ごまかし」を一切許さない残酷な光でもある。
会場の中央では、エドワードの婚約者・メリンダが勝ち誇ったように胸を張っていた。
「 見て、エドワード様! 皆が私のドレスに注目していますわ!」
彼女が纏うのは、一反金貨百枚という隣国の最高級シルク……のはずだった。 だが、広間に足を踏み入れた貴族たちの表情は、賞賛ではなく困惑、そして失笑へと変わっていく。
魔光灯の強い光を浴びた彼女のドレスは、美しいはずの緋色が、まるで見当違いな「泥のような茶褐色」に沈んで見えたからだ。
「 ……ねえ、あのドレス。なんだか、色が汚くないかしら?」
「 本当ね。最高級品と聞いていたけれど、まるで古い雑巾を染め直したみたい……」
周囲のひそひそ話が耳に入り、メリンダの顔から血の気が引いていく。
「 な、何よこれ! どうして!? 昼間はあんなに綺麗だったのに!」
エドワードも動揺し、給仕に「明かりを落とせ!」と怒鳴り散らしている。 そこへ、静かだが凛とした声が響いた。
「 申し上げたはずですよ、メリンダ様。その布は芯が死んでいる……光を正しく反射できない『安物』だと」
広間の視線が一箇所に集まる。 そこには、月光をそのまま形にしたような、幻想的な輝きを纏ったスカーレットの姿があった。 彼女が羽織っているのは、辺境の街で作り上げた「月光のボレロ」。 魔光灯の光を吸い込み、青白く、それでいて温かみのある銀色の光を周囲に振りまいている。
その圧倒的な「本物」の輝きを前に、メリンダのドレスはいっそう惨めなボロ切れのように見えた。
「 スカーレット……貴女、また何か細工を……!」
エドワードが顔を真っ赤にして詰め寄ろうとした、その時。
「 ――控えなさい、エドワード公爵令息」
重みのある声が響き、群衆が左右に割れた。 現れたのは、この博覧会の主宰者であり、王都で最も厳しい審美眼を持つと言われる、カトリーヌ大公妃であった。
大公妃はメリンダのドレスを一瞥し、不快そうに眉を寄せた。
「 ……目に毒ね。そのような粗悪な紛い物で、私の博覧会に泥を塗るつもり? すぐに私の視界から消えなさい」
「 そんな……大公妃様!?」
メリンダは絶句し、エドワードはあまりの威圧感に声も出せない。 二人が衛兵に促されて逃げるように去った後、大公妃はスカーレットの前で足を止めた。
「 貴女が、ヴァランティーヌ家のスカーレットね。……そのボレロ、少し近くで見せてもらえるかしら?」
スカーレットは優雅に微笑み、静かに頭を下げた。
「 もちろんでございます、大公妃様。本物の美しさは、近くで見てこそその真価を発揮いたしますわ」
最後までお読みいただきありがとうございます! メリンダ、見事に自爆してしまいました。 魔光灯という「嘘を許さない光」が、スカーレットの味方をしてくれましたね。 そして、ついに最強の審美眼の持ち主、カトリーヌ大公妃との直接対話。 スカーレットのブランド「ヴァランティーヌ」は、大公妃の心をも射抜くことができるのでしょうか。 次回の第12話をお楽しみに!




