第3話:解析不能な輝きと、職人の誇り
今回はこの物語の核となる「ものづくり」にスポットを当てます。 スカーレットの審美眼が、ついに「現代の技術を超えた存在」に直面します。 そして……あの謎のイケメンが登場!
ベルダ男爵夫人が借りた猫のようにおとなしくなった後、私は一人、自室の机で例の「布の切れ端」と向き合っていた。 夕暮れ時、窓から差し込む赤い光が、その布に触れた瞬間。 布はまるで意志を持っているかのように、淡い銀色の光を放ち、周囲の光を吸い込んで複雑な虹色を描き出した。
「……信じられない。これ、本当に人の手で織られたものなの?」
私の「審美眼」は、この布が単なる高級品でないことを告げていた。 糸の一本一本が、まるで極小の魔力回路のように複雑に絡み合い、完璧な秩序を持って並んでいる。 私はこの謎を解き明かすべく、街で一番の腕利きである織り職人、ハンスを呼び出した。
「お嬢様、こんな夜更けに呼び出すなんて、また無茶な注文……っ!?」
部屋に入ってきたハンスが、机の上の布を見た瞬間、言葉を失った。
「な、なんだこれは……。糸の細さが、うちの最高級品の半分もねえ。おまけに、どうやって染めてやがる? 繊維の奥まで光が染み込んでやがるぞ」
私はハンスの反応に満足しつつ、問いかけた。
「ハンス、貴方の腕をもってしても、これを再現するのは難しいかしら?」
ハンスは苦虫を噛み潰したような顔をして、大きくため息をついた。
「……正直に言いましょう。今のうちの設備と技術じゃ、逆立ちしたって無理だ。この糸、ただの羊毛じゃねえ。……おそらく、絶滅したと言われてる『月光蚕』の糸だ」
「月光蚕……。古代の王族だけが使用を許されたという、伝説の?」
「ああ。だが問題はそこじゃねえ。この織り方だ。縦糸と横糸が、ありえねえ角度で交差してやがる。まるで……布そのものが、魔法陣を形成してるみたいだ」
ハンスの言葉に、私の背筋に冷たいものが走った。
「……これを解析できれば、私たちの街は、ただの高級ブランドを越えた存在になれるわね」
私がそう呟いた時だった。 閉め切っていたはずの窓が、突風に煽られたように激しく音を立てた。
「……その布は、人の子がむやみに触れていいものではないよ」
聞き慣れない、低く透き通った声。 振り返ると、バルコニーの縁に、一人の青年が腰掛けていた。 月光を背に負った彼は、この世のものとは思えないほど整った容姿をしていた。
「貴方は……どなたかしら? 淑女の部屋に無断で入るなんて、マナー違反ですわよ」
私が強気に言い放つと、青年はふっと口角を上げた。
「マナー、か。面白い。……私は、その布の『本来の持ち主』に雇われた番人のようなものさ」
新たな闖入者、そして解析不能な古代の布。 物語は審美眼でも見通せないほど混迷を極めようとしていた。
最後までお読みいただきありがとうございます! ついに新キャラクター、謎の青年レオンが登場しました! 彼は敵か味方か……? 次回の第4話もお楽しみに!




