第1話:黄金の馬車と偽りの光沢
いつもお読みいただきありがとうございます! おかげさまで多くの方に評価をいただき、物語はいよいよ第3章に突入します。 辺境の街がブランドの力でどう変わっていくのか、そして隣国からの新たな火種……。 今章もドキドキする展開をお届けしますので、ぜひお楽しみください!
かつて「吹き溜まり」と呼ばれた辺境の街は、今やその面影を失いつつあった。 通りには掃き清められた石畳が広がり、行き交う人々は、この街独自の技術で織られた「辺境織り」の布を誇らしげに身に着けている。
そんな活気あふれる広場に、場違いなほど派手な装飾を施した、黄金の馬車が滑り込んできた。
「……まあ。案外、まともな道を通るのね」
馬車の扉が開くと、扇子を手にした一人の女性が降り立った。 隣国・ソルスティア王国からの特使、ベルダ男爵夫人である。彼女は周囲を値踏みするような視線で見渡し、わざとらしく鼻を鳴らした。
「ですが、所詮は辺境。王都の洗練された美しさとは程遠いわ。ねえ、あなた?」
彼女が同意を求めた相手は、出迎えのために立っていた私――スカーレット・ヴァランティーヌに向かって、嘲笑を含んだ視線を投げた。 婚約破棄され、この街に追放された「落ちぶれ令嬢」を見物に来た、と言わんばかりの態度だ。
私は静かに頭を下げ、完璧な礼法で応じる。
「ようこそお越しくださいました、ベルダ男爵夫人。ソルスティアの最高級ブランドを身に纏った貴女をお迎えできて、光栄ですわ」
私の言葉に、夫人は満足げに胸を張る。 彼女が着ているのは、ソルスティアで今もっとも流行しているという、金糸を贅沢に使ったドレスだ。
「あら、わかるの? 辺境の生活で、その確かな審美眼も曇ってしまったかと思ったけれど。このドレスは特注品でしてよ」
私は微笑みを崩さないまま、彼女のドレスの裾に視線を落とした。 私の瞳には、その豪華な刺繍の裏側にある「真実」が、はっきりと浮かび上がっている。
「ええ、よくわかりますわ。……ただ、少し残念なことが一つ」
「残念? 何がかしら」
怪訝そうに眉を寄せる夫人に対し、私は一歩歩み寄り、彼女の袖口を指先で軽く示した。
「その金糸、芯に安価な真鍮が混ざっていますわね。表面のメッキが薄いため、この街の強い日差しを浴びれば、一週間もしないうちに黒ずんでしまうでしょう。……せっかくの『最高級品』が、台無しですわ」
広場の空気が、凍りついたように静まり返った。 夫人の顔から余裕の笑みが消え、真っ赤に染まっていく。
「な……んですって!? 私を侮辱するつもり!?」
「いいえ。ただ、私は『安物には裏がある』ことを知っているだけですの」
私は真っ直ぐに彼女を見据え、宣言した。
「この街で、本物の価値というものを、その目に焼き付けて差し上げますわ」
第3章の幕開け、いかがでしたでしょうか? ついに隣国との接触が始まりました。 スカーレットの審美眼は今回も絶好調です。 この偽物のドレス、実はさらなる秘密が隠されており……? 次回、「隣国の焦りと、謎の布切れ」。お楽しみに!




