第七話:卑劣な罠と、至高の軍服
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前回、セシリア王女の帰還によって王都に激震が走りました。スカーレットの「本物」が、カイル王子の「安物政策」を公衆の面前で否定したのです。
第7話では、追い詰められた魔道具ギルドがいよいよ牙を剥きます。職人の命ともいえる「素材」を狙った卑劣な妨害。しかし、スカーレットの審美眼は、災いさえも最高のスパイスへと変えてしまいます。緊迫の第7話、どうぞご覧ください。
王都での展示会が決まり、バレー・ド・ラヴァの工房はかつてない緊張感に包まれていた。 スカーレットとバーナビーが取り組んでいるのは、王都の騎士たちが羨望の眼差しを向けるであろう『礼装用軍服』。 しかし、その制作に欠かせない「極純銀糸」の原料である銀鉱石の納品が、突如として途絶えた。
「お嬢様、やはりギルドの仕業です。王都からの街道を封鎖し、この街へ向かう商隊を力ずくで追い返してやがる」
バーナビーが悔しげに拳を机に叩きつける。 そこへ、一人の怪しげな商人が、薄汚れた袋を抱えて工房に忍び込んできた。
「……へへ、スカーレット様。お困りのようですな。ギルドに内緒で、最高の銀鉱石を工面してきましたぜ。これなら最高の糸が作れるはずだ」
スカーレットは椅子から立ち上がり、男が差し出した袋に視線を落とした。 その「眼」が、袋の奥に隠された真実を瞬時に射抜く。
「……。バーナビー、この袋の中身を、今すぐ裏の廃棄場へ。男は衛兵に引き渡してちょうだい」
「えっ!? お、お嬢様、何を……!」
男が慌てて後退りする。スカーレットは冷ややかな微笑を浮かべた。
「この石、表面には銀を塗っていますが、芯には『魔力崩壊石』が仕込まれているわ。これをバーナビーの織機にかけようものなら、工房ごと爆発して灰になっていたでしょうね」
「な、なな、何を根拠に……!」
「私の眼に、嘘は通用しませんわ。……その石、不純物が多すぎて、私には泥水のように濁って見えるの。そんなものを私の工房に持ち込んだ罪、高くつくわよ?」
男が逃げ出そうとした瞬間、控えていたアリスティアたちが彼を取り押さえた。 ギルドの卑劣な罠を未然に防いだスカーレットだが、素材が足りない事実は変わらない。
しかし、スカーレットは動じなかった。 彼女は、以前エドワード副団長が放り出していった「王都の粗悪な鎧」を指差した。
「バーナビー、あのゴミを溶かしなさい。不純物を徹底的に削ぎ落とし、私が調合した触媒で再結晶化させるわ。足りない銀は、そこから抽出すればいい」
「……! 捨てるはずの安物から、最高級の素材を取り出すってんですかい?」
「ええ。安物にも、素材としての『魂』は微かに宿っている。それを救い出し、昇華させてあげるのが、本当の審美眼というものよ」
数日後。 工房には、言葉を失うほどに美しい軍服が並んでいた。 深い濃紺の生地には、再結晶化によって純度を高めた銀糸が、繊細な龍の鱗のように織り込まれている。
「……完成ね。これこそが、命を懸けて国を守る者が纏うべき、『本物』の重みよ」
スカーレットの指先が、微かな魔力を帯びた軍服をなぞる。 妨害工作さえも糧にして生まれたその一着は、もはや単なる衣類ではなく、王国の腐敗を焼き尽くすための聖火のような輝きを放っていた。
第7話をお読みいただき、ありがとうございました。
ギルドが送り込んだ爆発の罠さえも、「素材不足の解消」に利用してしまうスカーレットの強かさ。安物をゴミとして捨てるのではなく、その中から真の価値を抽出するという展開は、彼女の審美眼がより高い次元に到達したことを示しています。
次話、第8話では、ついに王都での「建国記念祭」が幕を開けます。スカーレットとバーナビー、そしてアリスティアたちが、完成した軍服とショールを手に、敵陣のど真ん中へと乗り込みます。




