第1章 第1話:安物には裏がある
数ある作品の中から目にとめていただき、ありがとうございます。
本作は、世の中の「安かろう悪かろう」にNOを突きつけ、本当の価値を追求したせいで追放された令嬢が、その卓越した審美眼で辺境から世界を変えていく物語です。
王道的な「婚約破棄」から始まりますが、一味違った「目利き」と「職人魂」のカタルシスをお楽しみいただければ幸いです。
きらびやかなシャンデリアが輝く、王宮の大舞踏会。
その中央で、私の人生は劇的な終わりを迎えていた。
「スカーレット・ヴァランティーヌ! 貴様との婚約を、今この場をもって破棄する!」
会場に響き渡ったのは、第一王子・カイル様の怒声だった。
音楽は止まり、貴族たちの視線が痛いほど私に突き刺さる。
カイル様の傍らには、一人の少女が寄り添っていた。
平民出身の聖女、リリアン。
女は怯えたような瞳で私を見上げ、カイル様の腕を強く握りしめている。
「……理由を伺ってもよろしいでしょうか、殿下」
私は扇を閉じ、背筋を伸ばしたまま問いかけた。
カイル様は忌々しげに鼻を鳴らす。
「理由だと? 貴様のその、救いようのない傲慢さと強欲さだ!
貴様はこの国を救う『安価な魔道具』の普及にことごとく反対し、高価な旧製品に固執した。リリアンが推奨する『庶民のための魔法』を、貴様は『安物』と切り捨てて蔑んだのだ!」
カイル様が指し示したのは、リリアンが開発に関わったという新型の魔道具――魔力の消費を抑えた、安価な街灯の試作品だった。
「カイル様、私は……皆さんに魔法の光を届けたかっただけなんです。スカーレット様のように、贅沢を知る方に反対されるなんて、思ってもみなくて……」
リリアンが涙を浮かべて呟く。
周囲からは「なんて慈悲深い」「それに比べて公爵令嬢は……」という囁きが漏れる。
私は静かに、その『安価な魔道具』を一瞥した。
「リリアン様。私は贅沢で反対したのではありません。その魔道具に使用されている『粗悪な魔導核』が危険だと言ったのです。……安物には、必ず裏があるものですから」
「黙れ!」
カイル様の声が、私の言葉を遮った。
「貴様はそうやって、自分の贅沢を正当化する! 貴様のような、金と格式しか頭にない女は、わが国の王妃には相応しくない。実家のヴァランティーヌ公爵家からも、貴様を勘当するとの連絡を受けている」
……勘当。
父様までもが、私を見限ったということか。
「今すぐこの国から去れ! 貴様のような『高価な穀潰し』は、辺境の地の泥でもすすっていればいい。二度と王都の地を踏むことは許さん!」
カイル様の宣告に、会場から嘲笑と冷笑が浴びせられる。
リリアンは勝ち誇ったような笑みを、一瞬だけ私に向けた。
私は深く、優雅に一礼した。
赤髪の髪が、ドレスの肩を滑り落ちる。
「……承知いたしました。カイル様、そしてリリアン様。どうか、その『安くて素晴らしい世界』を大切になさってくださいませ。数ヶ月後、その安物の代償を、皆様が支払うことにならないようお祈りしております」
私は一度も振り返ることなく、舞踏会場を後にした。
財産も、地位も、家族も失った。
手元にあるのは、着の身着のままのドレスと、私のこの「目」だけ。
だが、私の心は不思議と晴れやかだった。
――あんな欠陥品、一ヶ月も持たずに国中の魔導回路を焼き切りますわよ。
本物を見抜けない人々の中にいるのは、もう疲れた。
これからは、私の信念が通用する場所へ行こう。
スカーレット・ヴァランティーヌの、新しい人生がここから始まる。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました。
贅沢だと罵られた彼女の「こだわり」が、単なるわがままではなかったことがこれから証明されていきます。
次回、第2話は「辺境のゴミ山に眠る真実」。 どん底に落とされた彼女が、最初に見つける「宝物」とは……?
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